天台宗延暦寺 十
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「はい、ご説明頂いた内容、把握致しました。貴重な情報をご提供頂き誠にありがとうございます」
眼の前に座る、行澄と善鸞が深く頭を下げた。
「いえ、頭を上げてください。現在のこの状況を鑑みるに、我々対策室と天台宗延暦寺は、お互い協力すべきだと私は考えています。ご協力いただけますか?」
私の言葉に、顔を上げた二人は、私の目を見て頷いた。
「はい、栄神殿のおっしゃる通りでございます。我々延暦寺も、できる限りご協力させていただく所存でございます。善鸞、今までの内容をまとめ、急ぎ宗務総長へ連絡を取ってください」
行澄の言葉に、善鸞が──「はい」と答え立ち上がる。
急ぎ部屋を退室しようとする彼を、私は止めた。
「すいません、その前に。善鸞さん、盗難された仏具の目録はありますか?」
早速、協力相手に最重要であろう、機密の情報の開示を求める。
私の言葉に、戸惑った善鸞が、行澄の顔を窺う。
それに対し、行澄は静かに頷いた。
善鸞が、懐から一枚の折りたたまれた紙を取り出して卓に広げる。
そこには、約十点に及ぶ仏具の名称が、横並びに羅列されていた。
中には、先程の話しにも何度も出ていた、鬼面封棍と崩玉の名も確認できる。
「こちらに記載されているものがすべてになります。ただし、それぞれの仏具の効力に関しましては、我々でも解明できていない部分多くあります。それ故に、ご提供できる情報は、仏具の名称のみとなりあす。何卒、ご容赦ください」
そう言うと、善親は頭をさげる。
「いえ十分です。写真だけ撮らせていただきます」
その言葉に、千草がスマホのカメラを起動して、それを撮影した。
撮影が終わると、すぐに善鸞は再度頭を下げて部屋を退室する。
千草が撮影した、複数枚の写真を確認しながら、私は行澄に尋ねる。
「行澄さん、少し話は変わるのですが、西塔エリアの鐘楼の近くにある茶屋で働いている、給仕の女性のことはご存知ですか?」
私の突拍子もない質問に、逆に緊張が解けたのだろうか。
行澄の表情が、やんわりとほぐれたのが見てとれた。
「ええ、もちろん存じております。私と出身が同郷でございまして、孫のように可愛がっております。そして、あの子は先々代の宗務総長の曾孫なのです。名は竜胆と申します。実に勤勉で可愛らしい子です。あの子がどうかされましたか?」
行澄が本当に溺愛の孫のことを語るように、頬を綻ばせて話す。
あの娘は竜胆という名前なのか。確かに可愛らしい女性ではあった。
年齢では二〇代後半といったところだろうか。
そんな溺愛されるような子が、何故盗んだ崩玉に術式を施した?
何故、それを私へ差し向けたのだろうか?
なにか決定的な理由があるはずだ。
「あの、宗務総長とはどういった役職なのでしょうか?」
千草が、行澄へ訪ねた。
「はい、延暦寺の役職は、他の寺院と比べて少々独特なのです。寺院の規模が大きい為という理由もありますが、細かく役職が分担されております。一般的な寺院では、代表が住職、副代表が副住職となります」
──確かに、一般的なお寺では、住職が一番の責任者やな。
「しかし、我々延暦寺では、それだけでは管理が行き届かないため、執政部門と実務部門で役割が別れています。執政部門は寺院の運営、予算管理から、僧の人事管理や教育指導、布教活動の企画、当法人が運営する学園の管理などを主に行っております」
──なんか普通に会社って感じやな。これが宗教法人ってやつか。
「そして、実務部門は比叡山に点在する塔やお堂の管理や、祭事の管理などを行う役職が主になります。現在私達がいる東塔エリアで、副住職に似た役職である大執行を任じられておりますのが、私でございます。あと西塔、横川にもそれぞれ大執行が任についております」
──へー、エリアごとに副住職が別れているのか。で住職は?
「そんな執政部門、そして実務部門の最上位に天台座主が鎮座されています。一般的な寺院の住職にあたりますかね。実際は、少し違うのですが、説明すると長くなるので今回は省略しましょう」
──天台座主か、初めて聞いた役職だ。
それが、天台宗の頂点に立つ人物なのだろうか。
「天台座主は、基本象徴的な存在で、運営にはあまり関わってまいりません。ですので、実質的な執行権限を有するのが、先程お話した宗務局の宗務総長となります」
そこまで話終えてから、行澄の顔が曇るのがわかった。
先ほどまで、穏やかな表情だったのにどうしたのだろうか?
なぜか、隣に座る天鳳の爺さんまでが、顔をしかめはじめる。
てか、話聞く限り宗務総長って実質延暦寺のトップってことやん。
竜胆って子の曾祖父って、ものすごい人やったんやな。
「あの、行澄さんどうされました? どこか体調でも崩されましたか? 爺さんまで顔しかめてどうしたんですか?」
「いえ、申し訳ありません。大丈夫です。おそらくこの雰囲気ですと栄神殿は、二十六年前の出来事をご存知ないのでしょう」
──ん? 二十六年前?
それ爺さんが、引退してから隠居し始めて、一年後ぐらいってことか。
「知識が乏しく申し訳ありません。一体何が起きたんですか?」
私の謝罪に対して、彼は「とんでもございません」と首を横に振り、そして答えた。
「竜胆の曾祖父であり、先々代の宗務総長は、二十六年前に二体の夜叉によって惨たらしく喰われました」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




