天台宗延暦寺 九
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「では、延暦寺の内部に複数名の顕一学舎の関係者が僧として忍び込んでいると?」
善鸞の言葉に、私は頷いた。
延暦寺の宝物殿からの複数点に及ぶ、国宝級の仏具の盗難。
宝物殿は国宝級の宝物を、多数保管している場所だ。
警備は厳しく、セキュリティや防犯防災のシステムも厳重に構築されているはずだ。
「あの、宝物殿の警備やセキュリティーの管理は?」
私の質問に、善鸞が答える。
「はい、そちらは宗務局の警備部が管理しています」
「防犯カメラなどには何も写っていなかったのでしょうか?」
千草が、疑問に思ったことを尋ねる。
「そこなのですが、何故か防犯カメラの映像が、他の日付の映像と差し替えられていました。犯行が行われたされる日付のカードキーの出入りのデータも、細かく改ざんされた痕跡がみられました」
「ネットワークの管理は?」
私が、再び質問する。
「宝物殿の管理システムは、すべて宝物殿内の警備室にある独立サーバーで管理されているので、ローカルネットワークでの管理になっています。外部からアクセスするのは難しいと思います」
なるほど、外部の人間がハッキングして忍び込んだと考えるのは、非常に難しい。
考えられるとしたら、警備部の人間に扮した学員が、何らかの方法でサーバーにバックドアを作成した?
だが、基本的に、普段から宝物殿の保管庫に、出入りしている人間は限られている。
東塔の宝物殿の宝蔵司である眼の前に座る善鸞や、学芸員の資格を併せ持つ僧ぐらいか。
もちろん、寺院の実務を担当している高位の僧である、延暦寺の副住職といえる大執行や執行。
そして、延暦寺の運営を担当している管理局の総長クラスの人間なら容易に出入りできるのだろう。
問題なのは、その盗難された仏具が、我々鬼霊対策室に向けて使用されたことだ。
状況を鑑みる限り、顕一学舎が内部で動いていると考えるのが自然だ。
「とても信じられません。顕一学舎の人間は、一体何が目的なのでしょう?」
善鸞が、半信半疑の表情で、隣に座る大執行の行澄の顔色を窺う。
「最終的な目的は、まだこちらでも掴みきれていません。ですが、今までの顕一学舎が関わってきたとみられる犯行の状況を考えると、日本全土が混沌に巻き込まれると判断して間違いないと思います」
私の言葉に、行澄がため息をつくと、口を開く。
「簡単な状況はわかりました。早池峰の件を含め、改めて顕一学舎が関わったとされる事件に関して、あなた方が把握している詳細な状況を、可能な範囲で教えていただけますか?」
私は、改めて新生鬼霊対策室の発足日に、岩手県の早池峰で発生した「渡り」について説明する。
こちらで得ている情報を、話せる限りの範囲で、できるだけ詳細に伝える。
まず、そこで本題となったのが、マルディラという高位の夜叉本人が話した、「仏僧」に召喚されたという事実。
その後、その召喚を行った僧にしばらくの間、夜叉は東京の秋葉原付近で放置されていた。
僧が夜叉を召喚後、どのようにして東京の秋葉原へ運んだのかは不明である点も伝えておく。
その後秋葉原で、連続通り魔事件が発生し、多数の重軽傷者をだし、二名の人命が犠牲となった。
そして、事件の発生後、再び同じ僧によって、夜叉は鬼面封棍へ封印された。
その仏杭は、特異な術式と共に、早池峰の山頂に突き立てられ、強制的に渡りを発生させた。
渡りの異変に気づいた東北北海道鬼霊対策室が、現場へ向かい鬼が蔓延る早池峰に突入。
山頂付近で件の杭を発見、これが渡りの原因と判断し、私が杭の破壊を指示した。
しかし、それは顕一学舎の罠であり、我々はまんまと騙されてしまった。
仏杭を破壊した隊長補佐が、夜叉に霊相を根こそぎ吸収され捕らわれてしまった。
夜叉との死闘の末、隊長補佐を救出し、隊長判断で、自らが囮となり皆を撤退させた。
それからは隊長が奮闘し、最後は私が栄神の術式によって式を放ち、夜叉を捉え消滅させた。
そして、最後に捉えた夜叉に埋め込まれていた崩玉によって、私の半身が吹き飛んだことも余さず伝えておく。
「これが、顕一学者の夜叉の召喚から、岩手での渡りの一部始終になります」
改めて詳細な状況を聞き、二名の高位の僧が青ざめる。
「もう一点の顕一学舎が関わっていると思われる事件は、延暦寺と関連しているかは現在不明の状態です。先日、福岡県の太宰府市で発生した放火事件ですね」
その言葉に、行澄が口を開く。
「あの放火殺人事件と言われている事件ですか? あの事件にも顕一学舎が関わっているのですかな?」
「はい、一般的な発表では、放火による殺人事件とされています。ですが、正確には、顕一学舎の学員によって使役され操られた鬼による犯行であることが判明しています。襲撃された小室家は、千年以上の歴史をもつ祓い屋の一族なのです」
「なんとっ!」──流石に驚いたのか、行澄が声をあげる。
驚いて当然だろう。ふたたび、延暦寺に代々伝わる仏具によって、殺人が行われている可能性があるのだ。
隣に座る善鸞は震えながら、ただただ呆然と宙を見つめていた。
「我々が把握している、あなた方にお伝えできることは以上になります。ご理解いただけましたでしょうか?」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




