天台宗延暦寺 八
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「おはつにお目にかかります。私、天台宗延暦寺東塔の大執行を任じられております。行澄と申します。栄神殿、そして天鳳殿……この度は、前もった断りもなく、このような場にお呼びだてし、誠に申し訳ありません」
えらく腰が低いなと感じるが、僧の礼節とはこういうものなのだろうか?
天台宗はもとい、延暦寺は払い屋を嫌っていると聞いていたので、なんだかすこし違和感を感じた。
てか、大執行ってどういう役職なんだろう? 住職とは違うのか? 僧の言葉は続く。
「そして、それに応えていただけたことに、深く感謝致します」
「いえ、我々も、当寺院に許可を得ずにこちらで調査を行っていましたので……申し訳ないです」
まあ、観光というていではあったが、調査は調査だったので、素直にこちらも謝罪しておく。
「はい、それが崩玉についてだと、先程天鳳殿からお聞きしました」
「はい、そうですね。こちらがその崩玉です」
懐のポケットから、布に包んだ崩玉を取り出して、僧たちの目の前に置いて、布を広げる。
それを手に取った行澄と名乗る僧が、目を伏せて深く息をはいた。
彼の表情が、明らかに曇ったのがわかる。何か心当たりがあるのだろうか?
「ああぁ……」
「行澄様……、やはり……」
行澄は、ゆっくりと崩玉を包み直して卓へ置き、口を開いた。
「この崩玉は、当寺院の宝物殿から盗み出された、複数点の仏具の一つなのです」
「!?」
「そして、ご依頼したかった内容も、この崩玉を含めて、何者かによって盗難された、複数点の、国宝級仏具に関してなのです」
なんとなくだが、筋が見えてきたかもしれない。やはり裏で、顕一学舎が動いている。
「なぜ我々なのでしょうか? 盗難であれば、警察を動かすべきでは?」
普通に考えれば、当然のことである。そんな私の質問に、善鸞が答える。
「金銭目的や、転売目的での盗難であれば、そうしていたでしょう。しかし、今回盗難された仏具は、あまり金銭にはなりません。むしろ使用法によっては危険なものばかりなのです。その為、霊相の扱いに長け、術具の知識も豊富であるあなた方に、協力を要請するに至りました」
うん。やっぱり、筋は間違ってなさそうやな。確認しといた方がいいやろ。
「千草さん、岩手の木彫りの仏杭の画像って持ってますか?」
私の質問に、千草が即答する。
「ただいま準備します。お待ち下さい」
千草が、スマホを操作して、蓮葉が千里眼を通して保存された複数枚の木製の仏杭を、僧の二人に確認してもらう。
「これは……鬼面封棍。どうしてこれを? これも、盗難されたものの一つです……」
善鸞の顔が、青ざめる。そして行澄は、大きく息をついて頭を抱えた。
「これからお話する内容は、我々対策室でも最重要の機密事項になります。決して他言しないことを約束してください」
私のその言葉に、僧の二人が静かに頷いた。岩手の渡りの件について、内容をかいつまんで説明してゆく。
「では、その杭を破壊した際に、封印されていた夜叉が出てきたということですかな?」
額に汗を滲ませた、行澄が尋ねる。
「いえ、私の部下が夜叉と対峙した際に、実際に話した内容では、とある僧に召喚され、その後に件の仏杭に、封印されたと話していたようです」
「「…………」」
一連の、出来事の説明を終える頃には、うろたえていたふたりも、逆に腹をくくったのか、落ち着きを取り戻していた。さすがは高位の坊さんやな。
「お二方は、顕一学舎という名に覚えはありますか?」
私の質問に、善鸞が答える。
「はい、存じています。たしか、術式の研究を目的とした、機密の研究機関だとか……」
私は頷いてから、二人へ今回の我々の調査目的を伝えた上で、酷な結果を告げた。
「間違いなく、寺院内に複数名の顕一学舎の学員が、潜んでいます」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




