天台宗延暦寺 五
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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-空台宗永暦寺 西塔エリア-
学ラン姿のおっさん二人が、西塔エリアの入場口へ向かう。
他の観光客や修学旅行生から、稀有なものを見るような視線が二人へ突き刺さった。
恥ずかしかったが、もう今さらである。券売の窓口で入場券を購入する。
「あの……大人二名で……」ボソボソ
「あ……はい」
明らかに学生ではない、学ランのコスプレをしたおっさんが、拝観チケットを購入する。
券売の窓口のお姉さんも、物珍しげに私と宮本さんを交互に見ていた。
なんとか無事にチケットを購入して、西塔エリアに入る。
「あの……統括室長……大丈夫ですか?」
「もうここまで来たら、諦めるしかありませんからね。大丈夫です」
「わかりました。では行きましょう」
周りからの視線に耐えながら、西塔エリアに入る。
すると、すぐに神社の鳥居が現れる。
法華鎮護山王院堂 という神社のようだった。
「お寺の敷地内に、神社があるんですね」
宮本さんが、物珍しそうに鳥居を眺めている。
「神仏習合ってやつでしょうね。昔は仏道と神道がごっちゃになっていた時代もあったと聞きますし」
「なるほど。そういった時代もあったんですね。とても興味深いです」
どうやら、比叡山には複数の神社があるらしく、この山王院はその一つになるそうだ。
それから山王院を出て道を進むと、二手の分かれ道に出る。
メインの釈迦堂などは左に進むようなので、まずは、先に右に進むことにした。
「こちらは、椿堂と浄土院があるみたいですね。浄土院は、延暦寺創設者の最澄の御廟所であり、西塔で最も静寂な霊域とされているそうです」
宮本さんが、パンフレットの案内図を眺めながら、この先の見どころを説明してくれる。
「あ、なんか聞いたことあります。たしか掃除地獄って言われるくらい、とても清潔綺麗にしているとかそんなだったかな?」
「そうなのですか? 統括室長博識ですね」
持ち上げられて不安になり、私もパンフレットを開き、浄土院の説明を読む。
浄土院は、比叡山延暦寺西塔エリアに位置する最も神聖な聖地のひとつであり。
延暦寺を開いた伝教大師最澄の御廟所である。
──御廟所ってことはお墓なんかな?
最澄は弘仁一三年に入寂し、その遺骸は火葬されず、この地に安置された。
以来、天台宗では「大師は今も禅定に入り続けている」と信じられおり。
「生身の大師」信仰の中心地として篤く崇敬されてきた。
境内には「大師堂」と呼ばれる堂宇が建ち、最澄像と霊廟が祀られる。
周囲は深い杉木立に囲まれ、比叡山の中でも特に静謐で厳粛な雰囲気を漂わせる。
毎日欠かさず行われる「生飯供」の儀式では、僧侶が最澄に食事を供え続けており。
千二百年余りの時を超えて、供養が絶えることはない。
浄土院は、延暦寺全体の精神的中心であり、訪れる者に比叡山の信仰の核心を感じさせる場所である。
──千二百年の間、毎日故人に食事を用意しているのか、これが信仰ってやつか。
椿堂の前をとおり、さらに五分ほど歩くとと、浄土院が目の前に現れる。
「おお……これは荘厳ですね……」
宮本さんが感嘆の声をあげる。
「そうですね。最も静寂な霊域という言葉も頷けますね」
二人で境内を散策し、お堂の御前に頭を下げて手を合わせてから、浄土院をあとにする。
ここでは、特段問題はないように思えた。むしろ居心地がよかった。
漂う霊相も、非常に澄んでおり、邪な気は感じられない。
「じゃあ先程の、分かれ道まで戻りましょうか。思ったより早く周り終わりそうですね」
私が地図を見ながら、宮本さんに声をかける。
「そうでうね。順調に回れれば、一時間くらいの余裕ができそうです」
分かれ道の地点まで戻ると、先程とは反対側の道を進む。
しばらく歩を進めると、目の前に大きな二つのお堂が鎮座していた。
「立派なお堂ですね。ここが【にない堂】ですか。左が常行堂で、右が法華堂だそうです」
宮本さんが地図を見て教えてくれる。
私もパンフレットを開いて説明を読む。
にない堂は、比叡山延暦寺西塔エリアに位置する二つの堂からなる伽藍で。
常行堂と法華堂が左右に並ぶことからその名が付けられた。
常行堂は阿弥陀如来を本尊とし、僧侶が歩きながら念仏を唱える「常行三昧」の修行道場として。
法華堂は普賢菩薩を本尊とし、法華経を読み誦する「法華三昧」の修行道場として用いられる。
両堂は渡り廊下で結ばれ、法華と浄土の教えを共に修める僧侶の姿を象徴している。
伝承によれば、源義経や弁慶がこの二つの堂を肩に担いだという逸話が残り。
豪快な伝説とともに親しまれてきた。
双堂建築の形式を残すにない堂は、静謐な西塔の環境の中で荘厳な姿を見せており。
比叡山の修行道場としての歴史と天台宗の教えの象徴として、多くの参拝者の目を引き続けている。
──ほぉー、ここは修行の道場なんやね。修行って聞くとトラウマが蘇るな。
てか、この双堂建築のお堂を肩に担ぐって、弁慶どんだけタフガイやねん。
常行堂に近づいてゆくと、中から声が聞こえてくる。低いくぐもった声だ。
「お? お堂からお経が聞こえますね」
「本当ですね。修行中なのでしょうか?」
法華堂の方も覗いて見るが、中から人の気配は感じられなかった。
二つのお堂の渡り廊下の下をくぐり、階段を降りてゆく。
「さて、次は釈迦堂か。西塔エリアのメインイベントやな」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。