天台宗延暦寺 四
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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私達は眼の前に見える、延暦寺会館へ向かいました。
会館内にある喫茶店へ入り、少し休憩するためです。
そこそこ歩きましたからね。東塔エリアだけでもすごい広さです。
それぞれ、コーヒーと紅茶を注文して一息つきます。
「今のところ気になったのは、根本中堂の奥くらいか?」
「そうですね。それ以外は、特に違和感は感じませんでした。あれはなんでしょうか?」
お祖父様が、コーヒーをテーブルに置いて、思考している顔で答えてくれます。
「おそらく、なんかの仏具やろな。正確な用途はわからんが、術者が己の霊相を使用して、動かしているのは確かやな。根本中堂には、千二百年以上「不滅の法灯」が灯され続けているから、おそらくそれの関連じゃないかと思うわ。もしくは来場者の霊相の監視とかぐらいしか考えられん」
いったい、何のために国宝である重要文化財の内部で、仏具を発動させているのでしょうか?
もしかして、本当に来場者の霊相の監視をしているのでしょうか?
もしくは、祓い屋が来ていないかをチェックしているとか?
天台宗の方は、祓い屋がお嫌いですから。
本当にしがらみというのは、実に面倒ですね。
私とお祖父様は、喫茶店を出ると、まだ見ていないエリアを回ることにしました。
十数分ほど歩くと、大きな建屋が並んでいるエリアが目の前に現れました。
大黒堂、萬拝堂、そして阿弥陀堂など、歴史を感じさせる、見事な建物が鎮座していました。
「さすが、日本の仏道の母山といわれるだけあるな。いつ見ても立派やな」
「先生は、何度か来られているんですか?」
私は、隣に並んで立つお祖父様を見上げました。
「ああ、いうても前に来たのは、もう十年も前やけどな」
「そうなのですか。知りませんでした」
それぞれの、お堂を見て回ります。
特別違和感は、感じることはありませんでした。
お祖父様も、特に変わったようすはないようです。
「やっぱり本命は、西塔なんやろな。天網のマーカーが示していた地点も、西塔エリアやったからな」
「そうですね、統括室長と宮本さん大丈夫でしょうか?」
私が、心配そうに呟くと、お祖父様がポンポンと頭を叩きました。
「まぁ、ここではさすがに手荒なことは起こらんわ」
「しかし……」
「それに相手が人間なら、宮本がおるからなおさら大丈夫や。あいつはあれでも、元陸上自衛隊のレンジャーやからな。そこらにいる輩程度では、おそらく話にならんと思うぞ」
──レンジャー? それはなんでしょうか?
宮本さん元自衛隊の方だったのですね。どうりで体格がいいはずです。
「レンジャーとはなんですか? 何か特別な役職なのですか?」
私は、お祖父様へ尋ねました。
「ん? 千草は知らんか? まあ簡単に言うたら、陸上自衛隊の隊員の中でも、一握りしかおらん、選りすぐりのエリートってことやな。まぁエリートいうても防衛大学出身の幹部エリートとは意味が違うけどな。称号みたいなもんや」
「それはすごいですね。では何故、宮本さんは対策室に?」
それだけの実力をお持ちなら、自衛官として、とてもご活躍ができたのではないでしょうか?
「儂が、対策室の創設時に誘ったんや、対策室の相手が、必ずしも鬼だけやとは思ってなかったからな。今は、静夜殿の運転手が主になってるけど、新生対策室へ再編する前は、隊員の体術指導や特殊作戦の講師がメインやったからな」
なんだか、もっと活躍できる場がありそうで勿体ないですね。
運転手だけなら、免許さえあれば基本的には誰でもできますから。
ただ、宮本さんには霊相がありませんから、対策室ではできる業務は限られてきますね。
「じゃあ、最後に法華総持院東塔を見に行こか。これで、とりあえず見るべきとこは見たからな」
「わかりました」
それは、延暦寺の敷地内において、一番高い位置にある、法華総持院東塔という寺院になります。
ここは、六所宝塔と呼ばれる総塔とされています。
伝教大師が、日本全国六カ所の聖地に建立した、宝塔を総括する宝塔なのだそうです。
「立派ですねぇ。さすが延暦寺一番の観光スポットと称されるだけはありますね、先生」
「そうやな、ところで気づいているかな? 千草くん」
観光客が行き交う中、お祖父様が喧騒に紛れて呟きました。
「はい……僧が一名、阿弥陀堂あたりからつけてきてますね」
「ああ、これは当たりを引いたかも知れんな」
法華総持院東塔を見ている私達の数十メートル後方。
隠れるわけでもなく、堂々と私達を見つめる僧が、そこには立っていました。
声を掛けてくるでもなく、ただニコニコと微笑みながら、こちらを見つめていました。
「先生、どうしますか?」
「とりあえず、あちらの動きもみたいから、ゆっくり歩いて、会館まで戻ろうか」
延暦寺会館の前まで戻り、さり気なく振り返ると、やはり例の僧が数十メートル離れた位置で立っていました。
私とお祖父様が堂々と振り返ると、距離をとっていた僧が、ゆっくりとこちらへ近づいてきました。
「お祖父様?」
小声で、指示を仰ぎます。
「むこうに敵意はないようや、話を聞こう」
お祖父様が、僧に目で合図を送り、場所を移動します。
私達は、会館の裏手にある人の少ない林の中で、立ち止まります。
すぐに、僧が私達の前に立ち、ゆっくりと頭を下げました。
「突然失礼しました。天鳳家ご当主、天鳳荒原殿とお見受けしました。ご相違ございませんか?」
「いかにも、そちらは?」
僧が頭を上げて、こちらを見る。
年齢的には、五十といったところでしょうか?
すごい優しそうな印象の男性です。
「お初にお目にかかります。私、天台宗延暦寺東塔での宝蔵司を任じられております。善鸞と申します」
「そんな高位のお方が、何用ですかな?」
善鸞と名乗った僧が、真剣な面持ちで、私達を見つめます。
「是非、お二方にご助力を賜りたいのです」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




