天台宗延暦寺 二
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「それで、今後の計画は決まっておるのかの?」
功徳室長が口を開く。
「はい、本日午後から私と千草補佐、そして天鳳室長と運転手の宮本さんの計四名で、延暦寺へ偵察目的で向かう予定です。今回は本格的な調査ではなく、下見程度に全体を見回るつもりです」
私の言葉に、「わかり申した、気をつけてくだされ」と功徳室長が心配そうに話す。
「そうです、境内のどこに相手は潜んでいるかわかりません。くれぐれもお気をつけください」
睡蓮も功徳のじいさんの言葉に続く。彼女の顔をみる。
久々に口を開いた睡蓮の顔は、最近鬼混窮に関連したと思われる騒動で沈みがちだった。
だが、今はどうやらある程度落ち着いたのか、目に強い意思が宿っているように見えた。
「今回は、対象を発見しても、あくまでも偵察に徹するつもりです。境内には一般客も大勢いますからね。相手が我らに気づき、攻撃を仕掛けてこない限りは、こちらは手を出すつもりはありません」
その後、改めて顕一学舎へ対する今後の方針と対策を協議をおこなった。
そして、最後に天網の今後のアップデートについての意見交換を済ませ、今回の会議は終了した。
天鳳の爺さんが、ため息をつきながら会議室を出ていく。その気持ちは察するよ、爺さん。
それから延暦寺へ出発する時間までは、事務処理をこなして過ごした。
しかし、出発の時間が近づいてきた時だった。対策室のドアが開く。
ドヤ顔の蓮葉が対策室に入ってくると、私に近づき今回の変装に使う衣装を手渡してくる。
「…………」
「あの……、ほんまにこれを着るんですか? これって変装ですか? むしろコスプレってやつじゃ……」
「いえ、もちろんこれは変装です」
「…………」
素直に諦めて、ため息をつきながら、どんよりとした気持ちで更衣室へ向かう。
中へはいると、天鳳の爺さんと宮本さんがどんよりとした顔で、こちらを見る。
「「……………」」
「なぁ静夜殿、儂帰っていいか? 持病の腰痛がひどくなってきた」
「いい訳ないでしょ。てか爺さん腰痛持ちじゃないし。爺さんはまだジャージだからいいじゃないですか、私と宮本さんなんて学ランですよ? ぴっちり詰め襟の学ランですよ? しかも学生帽まで。一体何歳やと思ってるんですかっ!!」さすがに吠える。
「統括室長……、落ち着きましょう……そして、諦めましょう……」
宮本さんが、見事に学ランを着こなして、私の肩に手を添える。
宮本さんみたいながっしりした人が学ランを着こなすと、なんだが軍服みたいにみえるな。
私もそんな感じに見えるのかな? いや私そんなかっしりしてないし、違和感しかないわ。
「しかしな、こんな年齢のジャージ姿の生活指導の教師って不自然すぎんか? もう七十五やで儂……」
「四十の学ランよりは、よっぽどましでしょうがっ!!」やっぱり吠える。
「統括室長……抑えてください」
なくなく着替えを済ませて、荷物を持って更衣室を出る。何やら騒がしい。
そこには、準備を済ませた千草が、セーラー服に身を包んではしゃいでいる姿があった。
対策室の女性職員に囲まれて、皆でキャッキャと騒いでいる。
「何故や? なぜか全く違和感がないな。なぁ爺さん、千草っていくつやっけ?」
「んん、たしか今年で二十五だったはずやけど。あれ? 儂ボケてもうたか?」
「すごいお似合いですね」
男性陣が立ち尽くすなか、千草はとてもうれしそうだった。
準備を整えた後、三人で地下ロータリーのエントランスへ向かう。
宮本さんは、車の準備のために、一足先に駐車場へ向かった。
地下のロータリーで、アルファードに乗り込み、いざ滋賀県大津市の比叡山を目指す。
宮本さんの学ラン姿は、軍服っぽくて違和感は少ないと思ったが、車を運転しているとやっぱり違和感があるな。
延暦寺の敷地内にある東塔の駐車場までは、比叡山ドライブウェイを通り四十五分ほどで到着した。
大社よりこっちのほうが近いのか。意外と近くて驚いた。まぁこっちは有料道路やけど。
ここで、ショルダーバックを肩にかけた、ジャージ姿の天鳳の爺さんと、セーラー服姿の千草が下車する。
もちろん爺さんの首元には笛が準備されていた、蓮葉……細かすぎるやろ。
「では、手筈通り儂と千草は、東塔の方を探索してみる。三時間後に、再びここで落ち合おう。二人共、くれぐれも油断せんようにな」
「わかりました。爺さんたちも気をつけて。ではのちほど」
再び車が動き出し、我々は西塔の駐車場を目指す。
延暦寺の敷地はかなり広大で、東京ドーム五百個分だと言われている。
これではとてもすべてを見回ることが難しいと考えたため、二手に分かれて捜索することになった。
一際大きな駐車場へはいり、車を停車させる。
他にも何十台もの車やバスが止まっており、さすがは世界遺産だなと感心する。
「統括室長、到着しました」
「ええ、ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」
学ラン姿のおじさん二人が、延暦寺の敷地に降り立つ。
「さて、修学旅行のはじまりや」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




