天台宗延暦寺 一
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「では、はじめましょう」
私が、皆に会議の開始を告げる。
統括鬼霊対策室の会議室では、一昨日から三度目となる、対策会議が行われようとしていた。
ノートパソコンのモニターとプロジェクターには、各対策室の室長と補佐。
そして、鬼霊技術研究所の所長と助手が映っていた。
「蓮華補佐、現在の早川家及び、久井家の警護の状況を報告してください」
過去、太宰府において宇野浄階の手により今から千年以上前に、祠へ封印された羅刹。
その封印された祠の守護を担っていた小室家・早川家・久井家の三氏家。
小室家が何者かによって操られた鬼混殭屍の襲撃にあい、三つの呪縛のうち一つが解かれてしまった。
残り二つの呪縛の術式を解かれてしまうと、封印の祠が壊れ羅刹を現代のこの世に解き放つことになってしまう。
絶対にそれだけは阻止しなければならない。これ以上の死人を出す訳にはいかない。
蓮葉の進行に、蓮華が「はい」と答えて、報告を始める。
「現在、それぞれの氏家に、九州沖縄方面鬼霊対策室の部隊から六部隊、関西方面対策室から二部隊を、ローテーションで警護に当たらせています。警備範囲周辺では、まだあやしい動きは確認できていません。引き続き、警護を続行します」
まぁそう簡単には現れないか……蓮華の報告に頷いて、質問する。
「全焼した小室邸の方に、何か動きは?」
五木が手を挙げたので、「五木補佐」と先を促す。
「小室邸では、警察と消防による鑑識捜査は、あらかた終了しています。現在は、周辺に数名の対策員を配置していますが、変化は見られません」
「わかりました、引き続き警備をお願いします。相手は複数体の鬼混殭屍を使役します。決して気を緩めないように」
「「はっ」」蓮華と五木が、敬礼で応える。
鬼混殭屍か。本当にこいつを使役しているのも顕一学舎の学員なのだろうか?
いまだに話が荒唐無稽すぎて、実感が湧いてこない。苛立ちのみが募っていく。
「出来損ないの夜叉」──功徳の爺さんがそう揶揄していた。
一体一体が、どの程度の霊相と実力を備えているのか不明な状態だ。
派遣した部隊で対応できるのかも、未知数な部分も多い。
だが、すぐに手を出してこないところを見る限り、様子見をしているのだろう。
相手もこちらが警護を配備したことで、警戒しているのかもしれない。
「では、名古屋での霊相探索の件についての報告を、栞所長お願いします」
蓮葉が、栞へ昨日鬼霊技術研究所内で行われた、霊相探索検証についての報告を求める。
「はい」
栞が、己の端末を操作し、皆の画面に一枚の画像を転送する。
比叡山延暦寺周辺の衛星画像が、皆の画面の中心にうつしだされる。
画像の中止部分には、マーカーが表示されている。
昨日の、天網での捜索結果だ。
「これは?」月季が、栞へ尋ねる。
「これは、現在研究所で検証中である、特定の霊相のみを捜索することを可能とする新システムを、実験的にではありますが、統括室長に動かしてもらった結果になります」
栞の言葉に、まだ情報を共有されていなかった会議出席者からざわめきが起こる。
まぁ、当然の反応だろう。霊相をピンポイントで探索できるのだから、画期的なシステムである。
しかし、もちろんそれも驚きなのだが、それよりもマーカーが示している位置が問題であると皆が理解する。
「なんと、もう成功したのですか? さすが柊家の天才姉妹ですね。これが実用化できれば、探索効率が格段に向上するでしょうね。素晴らしいです」
月季の称賛する言葉を、栞は鼻で笑った。
「ふっ、名古屋からの探索範囲内であり、統括室長の霊相だからこそ、成功したといえるでしょう」
栞が、手元の資料を確認しながら、そう話す。
ん? 栞はなんかえらく月季に対して、あたりが冷たくないか?
たしか堂上家と柊家は、血筋がかなり近い家系らしいけど。
もしかして、幼馴染とかそんな感じだったりするんかな?
歳もそんなに離れていないし、ありえない話ではないな。
「ではこのマーカーが、静夜様を襲った崩玉の作成者の位置ということなのでしょうか?」
睡蓮が、同様に資料を確認しながら栞に尋ねる。
「そう考えて、間違いないと思います」
栞の言葉に、崩玉が爆発した惨状を思い出したのか、蓮葉が苦々しく顔をしかめる。
他の会議参加者の一同も、憤りで表情がゆがむ。
「マーカーの位置的に、天台宗の総本山である比叡山の延暦寺ですよね? では、ここに顕一学舎の学員が僧として潜伏していると? そんなことが可能なのですか?」
睡蓮の言葉に、再度栞が頷いた。
「可能かはわかりませんが、そう判断するのが、自然でしょうね」
会議の参加者である皆が、あまりに異常な状況に表情を曇らせている。
無理もない話だ、まさか日本仏教の開祖とされる延暦寺に捉えるべき犯人が潜んでいるのだ。
しかも、天台宗は祓い屋のお上である大社とすこぶる仲が悪いときている。
「わかりました。前途多難ですが、まずは話を進めましょう」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




