比叡山 一
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「これはこれは……まさかの比叡山ですか。天台宗の総本山じゃないですか。すごいですね」
そんな栞の言葉に、そこにいた皆が息をのむ。
とてもじゃないが、すんなりとは信じられない状況である。
まさか、日本仏教の開祖とされる天台宗の総本山とは。
延暦寺は、延暦七年に最澄が比叡山に創建した一乗止観院を起源とする寺院だ。
平安時代には国家鎮護と仏教教育の中心として発展した。
その後、法然・親鸞・日蓮・道元など、日本仏教各宗派の開祖を数多く輩出することとなった。
中世には僧兵を擁し、興福寺との抗争や政治への介入も行ったが。
元亀二年に、織田信長による焼き討ちで堂塔が焼失し、多くの僧が命を落とした。
その後、豊臣秀吉や徳川家康の庇護を受けて再建された。
現在は、東塔・西塔・横川の三塔を中心に活動しているはずだ。
また、最澄以来絶えることなく守られてきた「不滅の法灯」は、千二百年以上にわたり燃え続けているらしい。
「…………」
本当に天台宗の中に顕一学舎の学員が紛れ込んでいるのか?
崩玉が使われたことから、仏道の関係者だとは思っていたが。
しかし、まさか日本仏教の開祖の聖地に潜り込んでるとはな。
いまだに信じられない。話があまりに大きくなりすぎている。
「これは、天台宗の総本山である延暦寺に顕一学舎の学員が、紛れていると考えるべきなのでしょうか?」
天網のモニターを見つめていた燐が栞へそう尋ねる。
彼女は頷いて、コーヒーのカップをテーブルに置いた。
「そうですね。統括室長から聞いた宇野浄階の言葉を聞く限りは、間違いないでしょうね」
間違いないか。信じたくないが、それが事実なんだろうな。
顕一学舎、その見えなくも確実に闇を広げ続ける集団に虫唾がはしる。
「……それでは静夜様。今から直接比叡山へ向かわれますか?」
緊迫した表情の燐が私へ向き直り、指示を仰いできた。
隣では、千草があわあわと焦り、スマホで何かを調べている。
今から直接比叡山の延暦寺に向かっても、時間的に十分な調査はできないな。
一度大社に報告して、宇野浄階と咲耶に意見を仰ぐべきだろう。
それに、今回の探索結果を、対策会議で皆に共有してからでも遅くはないはずだ。
「いえ時間も時間ですし、今日は一旦対策室へ戻ります。一度体制を整えましょう。それに大社へ報告もしたいので。燐は宮本さんに連絡して、正面に車を回しておいてください」
「はい、承知しました」
燐が宮本さんに連絡し、こちらへ車を回してもらう。
それから、改めて天網のモニターを見た。
マーカーの示す位置は、どう見ても滋賀県大津市にある延暦寺の敷地内だ。
崩玉を作成した犯人は、仏道関連の人物とみて間違いないのだろう。
しかし、こうやって上から見てみると、延暦寺の敷地ってとんでもない広さやな。
確か、敷地内にある三つの塔を巡るには、車やバスで移動しなければならないと聞いた。
「静夜様、いつでも行けます」
燐が、車の準備ができたことを報告する。私は座っていた椅子から立ち上がる。
一度対策室に戻って、暗号通信で至急大社にアポイントをとる必要がある。
急いで戻らなければならなかった。大社へ向かうにも時間がかかるからだ。
「あ、栞所長、それに花絵助手。我々が戻った後になりますが、大社へ今回の事態の報告後に、この件に対して対策会議を行う予定です。おそらく明日の午前中になると思いますが、ご参加頂けますか?」
栞所長は「もちろんです」と頷き、花絵助手は「はい」と小さく頷いた。
それに対し、私は「ありがとうございます」と頷き返した。
それからは、研究所の一階のロビーでお世話になった柊姉妹へお礼と挨拶を済ませて研究所から出た。
入口正面に停車していた車に乗りこみ、車は陸上自衛隊・守山駐屯地を出て、いざ京都を目指す。
途中で休憩がてら、サービスエリアで遅めの昼食をとった。
京都御苑の地下ロータリーにあるエントランスへ到着したのは、午後三時前だった。
宮本さんには車を変更してもらい、そのままこちらで待機してもらう。
私と補佐達は、急いで統括対策室へ向かった。
部屋へ入るなり、私は通信士へ指示を出した。
「大社の宇野大納言浄階へ、暗号通信をおねがいします」
私がメモ用紙に書きなぐった文章を、通信士がそれを暗号化し、至急大社へ送信してもらう。
返答は早く、三分もしないうちに返事が返ってきた。
「栄神静夜殿、至急参られよとの事です」
通信士が送られてきた暗号の解読結果を報告する。
「わかりました。今から向かうと、返信してください」
燐を付き人として連れ立って、すぐに統括対策室を出る。
早足で再び地下ロータリーのエントランスへ急ぐ。
車をアルファードからセンチュリーに乗り換え、大社へ向かった。
それから一時間ほどで、車は大社の関係者専用の駐車場へ到着した。
昨日と同じように、巫女の二人が出迎えてくれた。
「栄神静夜様、ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




