宇野大納言 一
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「蓮葉と千草さんは、我々が大社に出向いている間、こちらで待機して統括室長代理をお願いします。ふたりでの判断が難しい場合は、天鳳室長に意見を仰いでください」
緊急対応の措置に、ふたりが少々緊張した面持ちで「承知しました」と敬礼した。
私とお付きの燐は、対策室を出て地下出入り口へ向かう。既に車はエントランスのロータリーに待機させてある。
愛宕日ノ舞大社からの緊急の招集。とうとう送った崩玉の正体が判明したのだろうか?
それとも、昨日の福岡県太宰府市で発生した襲撃事件に関することだろうか?
どちらにしても、少しでも状況を進展させることができるなら、どんな情報でも今はありがたい。
憶測にすぎないが、今回の襲撃の件と崩玉の件は無関係ではないと感じている。
鬼を強制的に合成する禁忌の秘術──鬼混窮によく似た術式が、岩手と福岡で立て続けに使用された。
偶然にしては、あまりにもできすぎているように感じた。きっと何らかの関係があるはずだ。
もし関連がないとしても、どちらも対策室の人間が襲われている。決して見過ごすわけにはいかない。
「緊急の収集とは、やはり例の崩玉の件でしょうか?」
燐が、早足で私の隣に並んで歩きながら尋ねてくる。
「恐らくはそうでしょうね。あと、タイミング的に昨日の襲撃の件のこともあるのでしょう」
エントランスのロータリーで、センチュリーに乗り込み、大社へ向けて車が走り出した。
五十分程度車を走らせる。愛宕山の山中にある大社の関係者専用駐車場へと車が入った。
駐車場に入ると同時に、隣接する社務所から二人の巫女の女性が姿を表し、こちらへと向かって歩いてきた。
車がゆっくり停車し、先に降りた燐が、私側のドアを開けてくれる。私は車から降りた。
ふたりの巫女が、正面に並び深く頭を下げる。双子どころか瓜二つにそっくりだった。
「栄神家当主・栄神静夜様、お待ちしておりました。宇野大納言浄階がお待ちです」
巫女たちに案内され、立派な本宮ではなく、離れにある離宮へ向かう。
帝によって京都の守護のために、愛宕山の中腹に建立された、愛宕日ノ舞大社。
職務で訪れるのは今回が初めてだが、二十六の時に一度だけ観光を兼ねて訪れたことがある。
銀閣の爺さんが旅立ち、私は爺さんがどんな所に属して働いていたのか、一度この目で見たかったからだ。
とても荘厳であり、途轍もない広さを有した神社だった。
もちろん境内を観光する時は、できる限り霊相を抑えていたのは言うまでもない。
正直ここでは霊相だけで、個人が特定されかねないと思ったからである。
「補佐の方は、こちらでお待ちください」
巫女の一人が、燐を別室へ案内する。
燐が、一度こちらを見るが、私が頷いて返すと、素直に案内に従う。
もう一人の巫女に、案内されすぐ並びにあった部屋の前で立ち止まる。
「宇野大納言浄階様、栄神家当主・栄神静夜様が参られました」
巫女が引き戸の前で正座し、室内にいるのであろう宇野浄階へ呼びかける。
「はい、どうぞお入りください」
扉の向こう側から、京都御所で聞いた以来の、宇野浄階の透き通った声が響く。
巫女が、扉を引く。室内へ入ると、思ったより質素な和室で、大社の最高責任者が茶を啜っていた。
御所でお会いしたときにも思ったが、この人はあまり贅沢を好まない性格なのだろうか?
まぁ、神職者ならそれが当然なのかもしれないが。召し物も以前とよく似た黒留袖だった。
「静夜殿、京都御所以来ですね。早速のご活躍は聞き及んでいますよ。さっ、お座りください」
卓を挟んで、浄階の正面にある二つの座布団を勧められる。
片方の座布団に正座する。すぐに巫女がお茶を二つ用意してくれる。
──ん? 座布団が二つ? 燐は別室やしなんでやろ?
誰か他に来るのだろうか? あれ? 茶が二つ?
「姫様も、随分とご無沙汰となりましたね。お変わりありませんか?」
──は? 姫?
隣を見ると、いつの間にか咲耶が、先程まで空いていた座布団に座り、茶を啜っている。
「何が随分ですか。たかが数十年程度で変わることなどありません。それは、あなたも同じでしょ。宇野?」
咲耶の言葉に、浄階はうっすらと微笑むと「そうですね……」と頷いた。
え? 何? あなたも同じってどういう意味? 二人の会話に頭が追いつかない。
そういえば、以前千草と天鳳の爺さんの前に現れた時に、宇野にも礼をと言っていたな。
つまり二人は知り合いということになる。まぁ特別おかしなことではない。
だが、宇野浄階も数十年で何も変わらない? 彼女は一体何歳なんや?
「あの……宇野浄階と咲耶って知り合いなんですか? 先代の爺さんの時にお会いしてるのでしょうけど……」
私の言葉に、浄階がふふっと口元に手を当てて笑う。咲耶は溜息を吐いて、私の頭を「ぱしんっ」と叩いた。
「何を言っているの静夜? 私と宇野はもう千年以上の付き合いですよ。静夜達よりも長いです」
「はぁっ!? それどういう意味や? それやと宇野浄階は、もう千年以上生きてるって事になるぞっ!!」
慌てふためく私に、宇野浄階は再び「ふふっ」と笑う。
咲耶が「宇野が説明しなさい」と言う様に、黙って茶を啜った。
「静夜殿。私は平安時代、童子の呪いによって、老いることも死ぬこともできなくなりました。不老不死なのです」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




