鬼火村 六
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「そうでしたか、現在、その離反した一派はどのような動きを?」
その疑問に、芭蕉は首を振り、とても苦々しい顔をした。
「その後の足取りは、一切の情報がございません。皮肉ではございますが、元鬼戸家ゆえに、情報の隠匿には長けているのでございましょう」
それから鬼混窮に関する書物に一通り目を通したが、やはり半分ほどしか理解できなかった。
大量の鬼を集めて、一体の強力な鬼を生成することぐらいは理解できた。
「これは、蠱毒の鬼版という認識でいいのでしょうか?」
呪術には詳しくないが、これくらいは知っていた。
「いえ、似てはおりますが、正確には全くの別物でございます。術式的には、先日の渡りの方が近いものといえるでしょう」
確かに、渡りの時も鬼同士が争い、お互いを喰らい合って大鬼や獄鬼が多数発生していた。
「蠱毒は、壺の中に膨大な数の毒虫を入れ、毒虫同士を争わせ、長い年月をかけて壺自体を呪具とするものです」
なるほど、呪具を作成する蠱毒、上位の鬼を生成する鬼混窮。確かに別物だった。
「これは、どのようにして使うのですか? すみません、これを読んでもうまく理解できなくて……」
私の質問に、睡蓮が首を振って答えた。
「とんでもございません。書物通りの使用方法では、山の洞穴を使用して、洞穴内に大量の鬼を送り込み、鬼同士を争わせるそうです」
ふむ──顎に手を当てて思考した。聞く限り、先日の渡りと本当によく似ていた。
渡りは、本来早池峰において自然発生的に起こる事象だった。今回の発生はあまりにも不自然だった。
睡蓮の報告では、仏道の僧に召喚された後に、杭へ封印されたと夜叉が言っていたとのことだった。
恐らく、再度封印する際に、結界を張った崩玉を夜叉へ埋め込み、その杭を早池峰の山頂へ突き立てたのだろう。
そして、手段は不明だが強制的に渡りを発生させ、我々に杭を破壊させて封印を解かせていた。
その後、私にそれを喰わせた。相手の思い通りに動かされていたようで、悔しさが募った。
己の思慮の浅はかさと愚かさに、腸が煮えくり返りそうになった。
「では、今回の渡りは、鬼混窮と夜叉を封印した仏像杭を合わせた複合術式という事になるんでしょうか?」
私の言葉に、再び睡蓮の顔が曇った。芭蕉が睡蓮の肩へ手を置いて答えた。
「そうですね、あの大量の鬼をどのように生成したのかは不明です。しかし、にわかには信じがたいですが、鬼同士を争わせる術式は、間違いなく鬼混窮が進化した独自の術式でしょう」
そうなってくると、過去に原本を持ち出して離反した一派の存在が関係している可能性も出てきた。
「わかりました。離反した一派に関しての情報は、再度大社と共有して調べてみましょう」
「静夜様、よろしくお願い致します」睡蓮と芭蕉が頭を下げた。
それから、まだ目を通していない書物の概要を教えてもらいながら、一通り目を通していった。
やはり、書いている内容の半分ほどしか理解できなかった。
だが、どれも現代では決して使用してはいけないと思える呪具や術式の情報ばかりだった。
全てに目を通し終えた頃には、正午を迎えようとしていた。
さて、そろそろ京都へ戻らなければ帰りが遅くなると考えた。
屋敷で用意してもらった会席の昼食を頂き、芭蕉へお礼を伝えて迎賓館へ戻った。
迎賓館で、荷物をまとめて車に積み込んだ。玄関前では、睡蓮と厳然が見送ってくれた。
「大変お世話になりました。芭蕉殿にも宜しくお伝えください」
敬礼して最大限の謝意を伝えた。
「静夜様、またいつでもお越しください。鬼戸一門、心から歓迎致します」
車へ乗り込み、雪華の運転で、JR盛岡駅へ向かった。
十五時前には盛岡駅へ到着し、予約していた東北新幹線へ乗車して、東京へ向かった。
盛岡駅のお土産売り場で、盛岡冷麺をはじめとする郷土のお土産を大量に購入したのは言うまでもなかった。
東京へ到着後、ホームで駅弁を購入し、乗り継ぎの東海道新幹線へ乗車した。
それから数時間、再び新幹線に運ばれてJR京都駅に到着したのは二十時半を過ぎた頃だった。
東京駅で、宮本さんに到着時刻を伝えておいたので、八条口には既に車が待機していた。
「おかえりなさい、統括室長」
宮本さんが出迎えてくれた。
「ただ今戻りました。今日はこのまま直帰します」
承知しました──皆が車に乗り込み、ゆっくりと走り出した。
こうして東北への一泊の出張が終了し、京都駅からの帰路についた。
──その時だった。
「統括室長、五木補佐からの着信です。もしかしたら緊急の内容かもしれません」
千草のスマホに着信があったようで、緊迫した表情で私を振り返った。私が頷くと、すぐに応答した。
「五木兄さん……いえ、五木補佐どうされましたか?」
先日、千草に代わり関西方面鬼霊対策室の補佐となった千草の兄である五木からのようだった。
「はい……はい!! わかりました。至急対策室へ戻ります!!」
千草が電話を切った。
「宮本さん、至急対策室へ。千草さん、何がありましたか?」
千草の態度を見ればわかった。緊急事態だ。
「先ほど、福岡県太宰府市の祓い屋一家、小室家の屋敷が、数体の獄鬼によって襲撃されたとのことです」
──っ!?
獄鬼が自分の意思で祓い屋の屋敷を襲った? そんな事がありえるのか? 後ろに夜叉がいたのか?
「唯一逃げることができ、通報した当主のご子息以外の生死は、屋敷が炎上し、現在不明とのこと……」
その時、自分のスマホもバイブで震えていることに今さら気付いた。画面を見たところ、天鳳の爺さんからだった。
「宮本さんっ! 頼む、急いでくれっ!」
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




