鬼火村 五
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「では、出発します」
鬼戸雪華が運転するハイエースが、ゆっくりと動き出した。
村内を歩く人はほとんど見当たらなかった。車はしばらく片道一車線の道を進んだ。
やがて、集落の中心地を離れると、車同士のすれ違いが難しい狭い一車線の道に変わった。
さらに車を進めると、森林と渓流に囲まれた鬼戸家の本家と分家の屋敷群が姿を現した。
大小十数棟の屋敷が軒を連ねていた。趣のある屋敷群だが、一部には工場のような建物も混じって見えた。
その中でも、ひときわ大きな屋敷の前で、車が停車した。
一足先に屋敷へ戻っていた睡蓮、厳然、そして朔間が私たちを出迎えてくれた。
その朔間が押す車椅子に、一人の高齢の女性が座っていた。
「お祖母様……お元気そうで何よりです」
蓮葉が嬉しそうに祖母へ駆け寄った。
「蓮葉……おかえりなさい。また一段と雪子に似てきたわね」
祖母がにこやかに微笑み、膝元にかがんだ蓮葉の頭を撫でた。
朔間から杖を受け取り、ゆっくりと立ち上がると、蓮葉に支えられて私の前へ歩み寄り、頭を下げた。
「栄神静夜様、お初にお目にかかります。当代睡蓮の母、芭蕉でございます」
芭蕉と名乗る女性は、蓮葉の祖母であり、睡蓮の母親、そして先々代睡蓮の奥方にあたる人物。
すでにかなりの高齢なのだろうが、とても品のある女性だった。
「栄神静夜と申します。急な申し出にお応えいただき、誠にありがとうございます」
そう言って敬礼し、頭を下げ、訪問への謝意を示した。
「とんでもございません。こうして静夜様にお会いでき、とても光栄でございます。当家の禁書があなた様のお役に立てるかわかりませんが、ゆっくりとご覧になってくださいませ」
そう言うと、朔間と蓮葉に支えられて、芭蕉が再び車椅子に腰を下ろした。
「では、早速ご覧になりますか? 関連すると思われる書物は、蔵から客間へ運んでおります」
芭蕉が座る車椅子が朔間に押され、本家屋敷の玄関へ向かった。
「お願いします」
私たち一行も、鬼戸家の皆の後ろに続いた。
屋敷の玄関前に立つと、屋敷全体に強力な結界が張られていることに気づいた。
私たちには影響はないのだろうが、鬼にとっては解きがたい障壁となるだろう。
玄関をくぐり、長い廊下を歩いた。
右手には中庭が見えた。広々として手入れの行き届いた庭だった。
大きな池には雅な錦鯉が悠々と泳いでいた。
「なんと、ここにも鹿威し」
私はぼそりとつぶやいた。
通された客間の大きな卓の上には、白い布が広げられ、その上に十数冊の古書が丁寧に並べられていた。
皆が蓮葉から手渡された白い布手袋を着用し、私は早速目についた書物の前に座った。
「静夜様、そちらは鬼を特定の地点に誘導する呪具に関する書物です」
隣に座る睡蓮が書物の概要を説明してくれた。
「ほぉ、やはりそういった術式は存在するんですね」
書物のページをゆっくりとめくりながら私はつぶやいた。
書物には、呪具の制作方法や使い方といった基本的なことから。
これまでの使用例など、さまざまな内容が記載されていた。
しかし、古語が使われているため、読めない部分も多かった。
「ええ、その通りです。現代では使われない術式ですが、昔は豪族同士の権力争いで我々を雇い、常用していたようです」
なるほど──書物のページを一通り目を通し、私は書物を閉じた。
内容の半分ほどしか理解できなかった。呪具の制作方法など、理解できるはずもなかった。
周りを見ると、補佐の皆も思い思いに書物の前に座り、目を通していた。
「睡蓮、蓮葉から聞いたのですが、大鬼を生成する術式があるのですか?」
睡蓮が立ち上がり、一冊の書物を私の前にそっと置いた。
それはかなり分厚い書物だった。表紙には「鬼混窟」との表題が書かれていた。
睡蓮がページを開き、概要説明の箇所を見せてくれた。
「こちらが、鬼から鬼を生成する【鬼混窟】の術式に関する書物の写しです」
──ん? 写し?
確かに他の書物に比べ、劣化が少なく比較的きれいな状態に見えた。
写しということは、原本ではないということだ。
原本はすでに経年劣化で風化してしまったのだろうか?
「写しということは、原本はすでに失われてしまったのですか?」
素直に疑問を睡蓮に投げかけた。
私の問いかけに、睡蓮の眉が下がり、顔が少し曇った。
──あれ? また余計なことを言ってしまったか?
「もう数百年も前の話です。分家のある一派が突然謀反を起こし、数冊の禁書原本を持ち出して鬼戸家から離反したのです」
睡蓮の隣に、朔間に支えられて芭蕉が座った。
謀反か。千年を超える歴史を持つ一族ともなれば、謀反の一つや二つは珍しくないのかもしれない。
だが、先ほどの睡蓮の反応は、それだけではない何かを暗に告げていた。
この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。
当作品は、初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。




