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三条大橋 六

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。



「だんっ!!」


 三条大橋の欄干から着地後、間をおかずに走り出す。足がギリリと痛んだが、それどころじゃない。

 川岸から少し下り、河川を確認する。


「柿ピー! 大丈夫かぁ?」


 康平の声が頭上から聞こえてきた。

 水面を確認するが、やはり男性の姿は確認できない。

 底に、引きずり込まれているのかもしれない。


「…………」


 男性の姿は見えないが、鬼の霊相は覚えているので、大方の位置は把握できた。

 迷いなく川岸を全力で走り、目的の位置に飛び込む。真夏でも川の水は、意外と冷たかった。

 昨夜のゲリラ豪雨の影響で水嵩こそ増してはいたが、本来鴨川の水深はかなり浅い。


 潜って周囲を確認する。水が濁って見にくいが、男性が川底で複数の鬼に絡め取られていた。

 男性の首や手足、胴回りに、ベッタリと屁泥状の鬼たちが絡みついている。

 鬼たちは川底の屁泥の奥に誘うべく、男性を引きずり込み、徐々に埋めようとしていた。


 この距離なら大丈夫だろう。己の中に呼びかける。


「ハク、出番やで」

「はい」


 頭の中に、先ほどの少女の声が響く。細雪のように儚く、透き通った声だった。その声に対し、私は命じる。


「喰らえ」


 直後、男性に絡みついていた鬼たちが、白い水泡とともに一瞬で消失する。

 己の左腕にハクが喰らった鬼の残骸が取り込まれ、鈍い痛みが走る。


 だが、今は男性の人命救助が優先だ。頭から屁泥の底へ突っ込む。

 男性を川底から引き出し、腰を抱えて水面に出る。岸からざわめきが起きているのがわかった。


 改めて周囲を確認すると、岸まではまだ八メートルほどある。

 右手で男性を抱えながら岸へ急ぐ中、再び己へ呼びかける。


「ハク……包め」

「はい。静夜様、一時的にその方を固定しましょうか?」


「いや、かまへん。腕だけでええよ」

「承知しました」


 体の左半身から白い半透明の羽衣が出現し、それが私の左腕にしゅるりと巻きつく。

 途端に、腕に内包されていた鬼たちが分解されてゆくのがわかる。


「コウ、締めや」

「はいっ!!」


 再び、少女の声が己の中に響く。

 しかし、先ほどの儚さを持つ声とは異なり、芯の通った可憐な声だった。

 先ほどと同じように左半身から赤色の帯紐がふわりと出現する。


「締めろ」


 半透明の羽衣に包まれた左腕に、赤色の雅な帯紐が幾何学模様に絡みついてゆき、最後にきゅっと結ばれる。

 準備は整った。川岸の人たちに気づかれぬよう、左手のみで印を結び、唱える。


「鬼喰滅殲」


 左腕に取り込まれた鬼たちが、栄神の血に喰われて消滅する。

 同時に、左腕の痛みが引いてゆく。——ごちそうさん。


 私の家系は、平安時代から続く歴史の長い「栄神家」という祓い屋の一族だという。

 中学の頃、事故で亡くなった両親からは、そんな話は一度も聞いたことがなかった。


 その後、私は母方の祖父に引き取られた。祖父とはその時が初対面だった。

 母と祖父は、どうやら仲が良くなかったらしい。そしてその時、祓い屋の家系であることを初めて知らされた。

 幽霊や鬼は子供の頃から見えていたが、それが「普通」なのだと思っていた。


「ん、二人ともありがとう。戻ってええよ」

「「はい」」


 二人の少女の声が響き、気配が消える。


 少女たちとの付き合いも、もう二十年を超える。今では、私の命そのものだ。

 家系としての付き合いになると、軽く千年を超えるのだろう。

 

 普段は私の中で大人しく眠っていたり、姉妹で遊んでいたりするらしい。

 囲碁やオセロができるとか。どんな仕組みや。


 川岸にたどり着き、男性を抱えて持ち上げる。

 岸にいた康平と、数人の観光客が男性の腕を取り、引き上げるのを手伝ってくれた。

 すぐに自分も岸へ這い上がる。康平が近づいてくるのがわかった。


「おつかれ、大丈夫か? さっき言ってた鬼とかはどうなったん?」


 あまり心配している様子もなく、淡々とした口調だった。


「食ったよ。だからもう大丈夫。それより、おっちゃんや」


 康平は「また変なこと言っとるなぁ」と呟きながら、先ほどの男性を見やる。

 男性は河原に横たわり、観光客の一人が胸を押していた。呼吸がないのは見てわかる。


「代わってください」


 私は男性に近づき、観光客と交代する。

 靴の片方を脱ぎ、首の下に入れて気道を確保する。鼻をつまみ、息を吹き込む。

 胸骨がふくらむのを確認できた。


 ゆっくりと胸骨の膨らみが戻るのを待ち、再度息を吹き込む。

 それを数回繰り返すと、男性はついに水を吐き出し、意識を取り戻した。

 警察と救急が到着したのは、それから程なくしてのことだった。



この度は、ご覧いただきありがとうございます。花月夜と申します。

初めての執筆作品となります。

当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。

ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。

これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。

ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
一旦、ここまで読んだ感想を書かせていただきます! 柿ピーのところどころ入る、ギャグテイストのツッコミが面白かったです! あと、屁泥まみれになった柿ピーが「え!? マジですか? いいんですか? 本当にく…
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