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天鳳ノ桜

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。

もし、面白いと感じて頂ければ、ページ下部にある《投票!!》のクリックへのご協力お願いいたします。



「これが、二七年前の事の顛末や」


 会議スペース内が、天鳳の爺さんから語られた数々の新たな事実に驚き、静寂に包まれていた。

天鳳の爺さんの命を救った──という話は、銀閣の爺さんと咲耶から簡単にではあるが聞いてはいた。

だが、爺さんと咲耶達は、何故こんな大事の話を黙っていたんや。私が静夜を継いだ時に言っとけよと思う。


 そもそも、鬼喰の儀礼の禁忌の事は知っていたが、まさか銀閣の爺さんが、禁忌を犯してたんかい。

どうりで修行中に、私が静夜を引き継ぐまで、爺さんが鬼を喰らう事は決してなかった訳や。

爺さんは──「儂は、もう歳やから無理や」言ってたけど、それに対して咲耶と水が笑っていた理由がやっとわかった。


「ふんふん、なるほどなぁ、そういう事やったんですね。うちの爺さんや咲耶達は、あまり過去や自分の事を詳しく語りたがらへんからなぁ。やっと色々と話が繋がりましたよ」


 腕を組んで、どさりと背もたれにもたれかかる。色々と合点がいった。

すると、天鳳の爺さんが、コーヒーを一口啜り息つくと、すくりと立ち上がった。


「あまり銀閣殿は、司殿には多くは語っていなかったのだな。本当に栄神流には感謝している」

爺さんが机に手を付いて、深く頭を下げる。慌ててそれを手を振って制する。


「いえいえっ! そのおかげで千草さんが、命を取り留めて、無事立派に成長できた訳ですから。絶対にうちの爺さんも喜んでいますよ」


 千草の、異様なまでの霊相の扱いの上手さの理由が判明して、ようやく理解する事ができた。

まさか、あの神器持ちだったとは……本当にいるんやなと、驚きつつも納得できる。


 しかし、まさか水の権能の一つである霊相を移乗する、【神の神恵】を与えられているとは……。

道理で、千草さんの霊相の性質が、水の霊相と酷似していた訳やわ。だから、予め継ぐ時に言っとけよ。


 ちらりと千草を見る。彼女は膝に手を置いて、俯いてかすかに肩を震わせている。

俯いた顔からは、ぽたり、ぽたりと涙が落ちている。


「千草さん?」


 どうしたのだろうか? 泣いている様に見える。

もしかして、当時赤子とはいえ、当事者である千草にすら知らされていない事実でもあったのか?

天鳳の爺さんが、再び立ち上がり、彼女の頭に手を添える。


「千草も本当にすまんな。神器持ちである事、そして水様の事は、なかなかお前には言えなくてな……」

その言葉に、千草がゆっくり顔を上げる。少し怒りを含んだ瞳からは、大量の涙が溢れている。


「神器の事は構いません……既に母上から聞いていましたから……ですが──」

千草が立ち上がり、天鳳の爺さんと向かい合う。涙を拭い話を続ける。


「ですが、何故ですか?──何故、お祖父様は水様の事を、今まで話してくれなかったのですかっ?」


 天鳳の爺さんの顔が、ますます曇る。気まずそうに頬を掻く。

まぁ、爺さんが話さなかった理由は、大方の見当がつく。

水の心情と、それを知った千草の心情への負担を考えたのだろう。


「あの時、水様は最後の最後まで、銀閣殿が鬼喰の儀礼に反することを、必死に泣きながら止めようとしていた……」

爺さんのその言葉に、千草が一瞬ビクッと肩を震わせて俯く。


「そんな水様から、お前は神恵を授かっている。これを知ったら、きっとお前は思い悩み続けるやろ?」


 予想通りの理由だった。きっと今の千草の性格なら、己の責任を感じて、悩み続けてしまうのだろう。

おそらく水自身は、全く後悔していないだろうし、下手したらもう忘れているかも知れない。

だが、千草は違う。真面目すぎる彼女の性格では、己を許す事ができなくなるかもしれない。


「……そうかもしれません……その通りかもしれません……ですが……うぅ」

千草が、立ったまま再び涙を流し始める。



「──懐かしい話をしていますね……」



 声のした方向を見る。私の隣に咲耶と、後ろに控えるように水が姿を現す。


「なんや? 咲耶が自分から出てくるとか珍しいな。いや……最近は全く珍しくないか」

その言葉に、咲耶が閉じた扇子で──「ペシンッ」と私の頭を叩く。


「た……たまたまです」

少し複雑な顔の咲耶。水が後ろでクスクスと笑っている。


「さ……咲耶姫様……水天白虎様……」


 天鳳の爺さんが、咲耶と水の突然の顕現に、驚愕に目を見開く。

慌てて爺さんと千草が、早足で咲耶の前に並んで跪く。燐と蓮葉が立ち上がり、深く頭を下げる。


「咲耶姫様、大変お久しゅうございます……水様もお元気そうで何よりです。あの時、御二方の御神力がなければ、隣にいる千草は、今ここには居なかったでしょう。改めて心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました」

天鳳の爺さんの目に、大きな涙が浮かぶ。千草は、ただ深く頭を垂れている。


「荒原、お久しぶりですね。二十七年前の銀閣の言葉を遵守してくれているようで、大変嬉しく思います」


「はっ!!」


 天鳳の爺さんが、深く頭を垂れる。

咲耶が爺さんに近づき、肩に手を添える。


「栄神がいない二十七年間、日本筆頭の祓い屋として、よく日本中の祓い屋達をまとめてくれました。あなたならできると信じていましたよ。──あと、宇野にも礼を伝えておいてくれますか?」


「勿体ないお言葉でございます。宇野大納言浄階の件、確かに承りました」

頭を垂れたまま、爺さんが答える。


 そして、咲耶が隣に跪く、千草の前に立つ。

ゆっくりと膝を折り、屈んで目の高さを合わせる。

咲耶が、彼女の頭に手を添えて、優しく頭を撫でる。


「桜、いえ今は千草でしたね。とても驚きました。本当に立派な女性に育ちましたね。銀閣とあなたは、血縁ではありませんが、銀閣の忘れ形見の様な存在の娘ですから。再びあなたとこのように、お話ができる事をとても嬉しく思います」


「咲耶姫様……うぅぅ……」

千草が涙に溢れる顔を上げる。


「千草、あなたが思い悩む事など、何一つありませんよ。銀閣は己が旅立つまで、あなたを救った事を、心から誇りに思っていました。あの者は、人を救うことを何よりの信念としていましたから」

涙が溢れ続ける彼女の頬に、咲耶が左手を添えて、親指でそっと涙を拭う。


「咲様のおっしゃるとおりですよ桜。さぁ、涙をお拭きなさい」

「水様……私は……」


 千草が涙を拭い、複雑そうな顔で水を見つめる。

水が、咲耶と同じ様に、膝を折り咲耶の右隣に屈む。

そして、そっと千草を優しく抱きしめた。


「桜、大きくなったわね。無事に成長してくれていて、私は本当に嬉しいわ。でも、その泣き癖は直しなさいねっ」

水は、娘を抱きしめるように彼女を包み込み、優しく頭を撫でる。


「……咲耶姫様……水様ぁぁ……うぅぅ……うわぁぁぁぁ」

千草が、とうとう堰が切れたように、号泣しはじめる。


 咲耶と水が──「あらあら」と微笑みながら、号泣する千草をあやしている。

ふと見ると、蓮葉が冷静に二人分のお茶とお茶菓子を用意していた。

さすが蓮葉。冷静やね、やけど。ちらり。


 一方の燐は、もらい泣きで一緒に号泣していた。爺さんまでも。

咲耶と水が、大方泣き止んだ千草と共に席につく。


「ところで、静夜? これからは桜もシェアハウス? ってとこに住むのかしら?」

水が、ご機嫌に茶を啜り尋ねてくる。ん? どうなんやろ? 本人の意思じゃない?


「それは、本人が決める事やろ? 室長補佐があそこに住むのは、別に義務じゃないからな。千草さんどうしますか? 全然無理に住む必要はありません。お住まいの天鳳家のお屋敷は、対策室からも近いですしね」

私の問い掛けに、千草はオロオロしながら、天鳳の爺さんを見る。


「うむ、シェアハウスか。世間知らずの千草にとっては、貴重なええ経験になるやろ。天鳳の屋敷の事はええから行って来い。まあ静夜殿の言う通り、屋敷からも対策室からも近いしな」

祖父の言葉に、千草は瞳を輝かせて立ち上がる。


「統括室長っ! 是非お願いしますっ! 宜しくお願いしますっ!」

嬉しそうに深々と頭を下げる。


「じゃあ、桜もこれから同居人ねっ! よろしくね桜っ!」

水が、にこやかに手を振る。


 水の奴……こっちに住むとか言ってたん本気やったんか。

まぁ咲耶と同じで、リビングに入り浸るだけやろうけど。

益々騒々しくなりそうやなぁと、溜息が自然と溢れ出てしまう。


 その後は、茶菓子を平らげた咲耶と水が戻ったあと、正式に千草に辞令を出し、統括室長補佐へ任命した。

転居は準備後、統括対策室の非番の日にとの事だった。


-三日後-


 シェアハウスの前に、中型のトラックが停車し、インターフォンがなる。

リビングでくつろいでいる私と補佐の二人が──「いらっしゃいましたね」と、顔を合わせて窓の外を見る。


 私の隣に座り、咲耶とお茶を飲んでいた水が、待っていました──とソファに座る私達を制して立ち上がる。

水は、急いでリビングのインターフォンのモニター受話器に近づき応答する。


「天鳳千草、只今参りましたっ」

遠目に、モニターには紅潮した表情の千草が映る。


「あら、やっときたのねっ! 桜待っていたわよっ」

水が嬉々とした表情で、インターフォンの受話器をほったらかして、出迎えに玄関へ走って向かう。


「まったく……雑やなぁ」


 私は補佐の二人が受話器を戻そうと動こうとするのを、手で制して立ち上がる。

非番の日くらい、ゆっくりしてほしいからな。咲耶は微動だにせんけどな。

インターフォンへ近づき、ぶら下がる受話器を手に取る。


 受話器を元の位置に戻そうとした時に、モニターに目が止まり、つい微笑んでしまった。

モニターには、千草を抱きしめて頬ずりをする水と、照れながらも嬉しそうな天鳳桜の姿が映し出されていた。



「皆様、お世話になりますっ」




この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。

当作品は、初めての執筆作品となります。

当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。

ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。

これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。

ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。


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