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喰龍 二

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。

もし、面白いと感じて頂ければ、ページ下部にある《投票!!》のクリックへのご協力お願いいたします。



 私は、通信を切り、狼煙を炊いて立ち上がる。

白様の方向を見ると、まだ夜叉の復元の様子を眺めているようでした。

再度、白様に近づき跪く。


「白様、私に何かできる事はございませんか?」


 薬で痺れが大方中和され、問題なく動けるようになり、白様の後ろから声をかける。

白様が、こちらへ振り返り、凛とした顔で答える。


「睡蓮──あなたは山を下りなさい。よく頑張りました」

「承知致しました。失礼ですが白様、ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」


 なんでしょう?──白様が、少し首を傾げて先を促す。

私は、どうしても疑問に思っていることを質問する。


「なぜ相手の復元を待っているのでしょうか? 白様であれば、あの夜叉を瀕死のうちに止めを刺す事は容易でございましょう。しかし、白様は夜叉が復元する様子を見守っておられるように見えます」


 白様は、しばらく黙ったあと、少し息をはいてぼそりと呟いた。


「静夜様の体への負担を軽減する為です。先程喰らった分だけでも、相当な苦痛でしょうから」


 なるほど。静夜様の体の負担を考えての行動でしたか。

それほどまでに、主の事を考えておられるのですね。感服致します。

お答え頂き、ありがとうございます──深く頭を下げて、現場を離れようと立ち上がる。


「お待ちなさい」


 全身の修復を、ほぼ完了したマルディラも、同じく立ち上がる。

口調こそ落ち着いているが、迸る霊相は、憤怒に煮えたぎっているようだった。

全身を硬質化させたような、黒い武士の甲冑に身を纏い、以前よりも大きい蜻蛉切のような黒い槍を構える。


「まさか餓鬼道(がきどう)喰龍(がりゅう)がこんなところで顕現するとは──現世でこんな事があるのですね…」


 餓鬼道?──仏道の教えの一つである六道。その一つである餓鬼道の事を言っているのでしょうか?

そして、喰龍とはなんなのでしょうか──白様は、表情を一切変えずにそれに答える。


「夜叉よ……あなたは何か勘違いをしています。私に六道、もとい輪廻転生の概念はありません」

「喰龍ではないと? では、あなたは何者なのですか?」


 彼がこちらへ、槍を構えたまま近づいてくる。

白様は動かず、ただ相手が近づくのを見つめている。


「私は白。古くより栄神に仕える衣であり刃、それ以外の何者でもありません」

「ふむ、なるほど。ではあなたは、現在は式なのですね。不憫でなりませんね。あの高尚な喰龍が、人間ごときに虐げられるとは。同情いたします」


「黙りなさい」


 白様が、両手を正面に翳す。同時にマルディラが踏み込む。

掌から、白い半透明の羽衣が生成され、瞬時にマルディラの周辺を包み込んでゆく。


 彼は、それから逃れよううと、槍を突きたてて横薙ぎにし、周囲の羽衣を一気に引き裂く。

全身を毒と酸で包み、引き裂かれても迫る羽衣を溶かそうとする。

だが、引き裂かれた羽衣に触れた部分の槍と毒酸は、少しずつ羽衣によって削られ、徐々に消滅してゆく。


「!?」


 一旦距離を取ろうと後ろへ飛ぶと同時に、前方へ数百のソフトボールの大きさと同等の黒玉を生成する。

膨大な数の黒玉の生成が完了し、白様目掛けて発射される。

玉が、今までの数倍大きい。一つ一つの黒玉のの威力は、今までの比ではないでしょう。


 白様は、両手から半透明の長い爪を生成する。

そして、腰を深く落とし、右足を引く。二つの長い刀のような鋭利な爪を構え、目にも止まらぬ速さで刃を振るう。

あまりに早すぎて見えない太刀筋で、瞬時に黒玉をすべて切り裂いて消滅させてしまう。


「なっ!」マルディらの顔が、明らかに強張るのがわかる。

「素晴らしいですっ──あの数の黒玉を、二太刀のみで切り裂き消滅させるなんて」人間業じゃないですね。


 今度は、白様が踏み込み、マルディラとの距離を詰める。

彼は、前面に幾重にも強固な防御障壁を生成し、相手を阻む。


 ガキンッ──障壁が刃を受け止めると、耳が痛くなるような、ものすごい高音の激突音が響き渡る。

白様の頭上に、再び大量の黒玉が生成される。彼の口角があがる。


 だが、受け止められたと思われた二刃が、そこからチーズを切るようにスッっと障壁を切り裂いてしまう。

二刃はかまいたちのような真空波に姿を変え、障壁を次々と切り裂いてゆく。

 

 槍で受け止めようとするが、夜叉の体が槍ごと十文字に切り裂かれた。

これは強力すぎますね。確かにマルディラの障壁は、刃を受け止めました。ですが、急に刃の性質が変化しました。

どういう理屈なのでしょうか? 物質変化? いえ、分子質量変化でしょうか?


 即時に、己の傷を修復しようとするマルディラ。

終わりです──という声と同時に、さらに懐へ踏み込んでいた白様が、彼の鳩尾付近に発勁を放つ。


「!?」


 発勁をまともに食らったマルディラは、動きが止まり体中から噴血し、体が痙攣する。

そして、白様がもう片方の手を、夜叉へと添える。

一瞬にして彼の全身を羽衣によって、「ギュルンッ」とミイラの如く隙間なく包まれる。


 彼は、一切身動きが取れないのか、藻掻いているのがわかる。

地面に横たわる彼を見下ろして、白様が口を開く。


「紅──準備はできました。喰らいなさい」


 紅様?──あの対策室で白様の隣に立っていた赤髪の少女の事でしょうか?

こちらへいらしたのは、白様だけではなかったのでしょうか?


 白様が、紅様へ声をかけて、その場から離れる。

「はぁーい!」──と返事が、どこからともなく聞こえてくる。


 拘束されたマルディラが必死に藻掻く中、地面から地鳴りが発生する。

彼の周辺の地面が赤く光ったと思った瞬間、地面から巨大な紅龍が一口で夜叉を喰らい昇天してゆく。


「え……」


 空を見上げると、巨大な紅龍が空を舞っている。

なんて大きさなのですか、これが紅龍──これが、栄神の式神の力。


「これが紅様──白様然り、なんて荘厳でお美しいお姿なのでしょうか……」

しかし、傷を負い、拘束されたとはいえ、夜叉を一口ですか──只々呆然と見つめる事しかできないですね。


「終わりました。では睡蓮──私達は戻ります。あなたも戻りなさい」


 白様が、こちらを振り返り、撤退を指示する。

「白様、紅様──御神力を賜り、心より感謝致します」

再度跪き、深く頭を下げ感謝の意を伝える。


「……紅、行きますよ」「うんっ!」


 白様が白い光と共に、白龍へと姿を変え昇天してゆく。

二体の龍を見送る。通信機から狼煙を発見し、私の位置を確認したと通信が入る。


「お母様? 聞こえますか?」蓮葉から通信が入る。

「蓮葉補佐、職務中は呼び方に気をつけなさい。私は大丈夫です。ご心配をおかけしましたね。静夜様は?」


 蓮葉は、少しの沈黙のあと「……申し訳ありません」と返事が返ってくる。


「静夜様は、今から鬼喰の儀礼の準備です」

そうですか──と答えると、上空に救助ヘリが現れる。


「では、私も戻ります。明日から現場検証を行うので、しばらくは早池峰の入山禁止措置をお願いします」


 了解です─と蓮葉から返事が返ってくる。

同時にヘリから降りてきた救急隊員に掴まり、早池峰を離脱する。


 峰を見下ろしながら、仏道が夜叉を召喚したという事実を受け止める事ができずに顔を曇らせる。

丙が破壊した仏杭も、完全に罠だった事もあり、これから何が起こるのか想定ができない。



「はぁ……途轍もなく嫌な予感がしますね……」




この度は、当作品をお読み頂きありがとうございます。花月夜と申します。

当作品は、初めての執筆作品となります。

当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。

ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。

これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。

ありがとうございました。今後とも応援よろしくお願い致します。


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