京都御所 五
※この物語はフィクションです。実在の人物や団体、寺社仏閣などとは関係ありません。
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「静夜殿、あなたは先代とは違い、この国に住まうすべての人々を平等に救えるお方です」
「どういう意味ですか? それって……」
宇野浄階の言葉の真意がつかめず、胸の奥がざわつく。
“平等なる救済”――そんな大義名分、簡単に口にしていいものか。
それを爺さんは果たせず、代わりに私が、だって? あまりにも都合が良すぎる話だ。
疑念が心の奥から沸き立つ。
なぜ私が――そもそも、私は望んでここに来たわけじゃない。
隣に座るの天鳳のじいさんに強引に連れられ、気づけばこの場に座らされていた。
道理もなければ、納得もしていない。
私の表情に出た苛立ちが、場の空気を冷やしていくのを感じる。
「静夜殿、先ほども申し上げましたが、先代の銀閣殿は霊相の制御がとても苦手な方でした」
「それは、理解しています」
「ですが、あなたにお会いして、完全とは言えませんが――霊相を制御できるお力をお持ちだと見受けました」
「だから何なんです? 結局、前線に立てば霊相の開放は避けられないでしょ? 私にできることなんて、たかが知れてますよ」
言い捨てるように吐き出す。
この流れに身を委ねれば、引き返せなくなる気がして怖かった。
私は英雄でも聖人でもない。
ただの、酒とネトゲをこよなく愛する、怠け者だ。
「静夜殿……お気持ちは理解できます。ですが……再び、栄神の加護を……あなたのお力をお借りしたいのです。どうか、ご助力を。あなたならば――」
「お断りします。失礼します」
ガタッ、と椅子を引く音が重く響く。
宇野浄階は深く頭を下げたまま、動かない。
その姿に胸の奥がチクリと痛んだが、私は立ち上がり、出口へ向かう。
だが、その肩を、天鳳室長の大きな手が掴んだ。
「最後まで話を聞いてからでもええやろ。失礼やし、座ろか」
「…………」
足は止まったが、心は落ち着かない。
逃げ出したい気持ちと、どこかで「聞かなければならない」と囁くもう一人の自分がせめぎ合う。
席には戻らず、立ったまま口を開く。
「制御が多少できる私と、できなかった爺さんの違いって、なんですか? 戦えば、私だって……結局、同じように皆に迷惑をかけるんじゃないですか」
浄階は顔を上げ、やわらかな微笑みを浮かべながら、私に手で「どうぞ」と席を勧める。
しぶしぶ座り直すと、彼女が静かに語り始めた。
「重要なのは、栄神の家系において霊相の制御が“可能である”という事実です」
その“可能性”が、どれほど重たいのか。
分かっているのか――いや、分かっていて頼んでいるのだろう。
「誤解のないよう申し上げますが、決して先代である銀閣殿を否定しているわけではありません。私も、あの方とは数十年の付き合いでしたし……呑み友達でしたからね……」
数十年――? それってどういう意味だ?
年齢不詳の彼女に、初めてほんの少しだけ興味がわいた。
その目が、私をまっすぐに見据える。
真剣で、どこか懐かしさすら帯びた眼差し。
「私は、あなたなら他の祓い屋一族とも協力し、共闘できる方だと感じたのです。
先ほどは、先代の意思を引き継いでいただきたくて、あのような言い方をしてしまいました」
浄階は静かに立ち上がり、再び深々と頭を下げる。
「意図を的確にお伝えできず、申し訳ありませんでした」
「…………」
正直――どうしようもなく面倒だ。
それでも、あの爺さんの背中が、脳裏をよぎる。
言葉少なだったけれど、守るべきもののために、頑固で愚直に力を振う人だった。
それに比べて俺は?
ただ流されて、何も選ばず、鬼を見つけては喰らうとはいえ、見ないふりばかりしてきた。
「あなたならば、この“鬼に塗れた”現状を覆すことができるはず。どうか、お力をお貸しください」
このまま断って帰れたら、どんなに楽だろう。
家でチューハイを飲みながら、くだらないゲームのイベントに全力投球して――
何も考えずに、適当な毎日を続けていたかった。
でも――それじゃ、きっと私はいつか後悔するのだろう。
私は、自堕落で、怠け者で――でも、どこかで「正しさ」に囚われている。
自分を偽善者だと笑いながら、それでも、誰かを見捨てることができない。
「……わかりました。私にできることがあるのなら、爺さんの意思も含めて……尽力させてもらいます」
宇野浄階が顔を上げ、安堵の表情で「ありがとうございます」と頭を下げた。
「ただし――霊相を制御できるとはいえ、前線に出れば周囲に影響が出るんじゃ?」
「その点については問題ありません。もちろん、最低限の抑制はしていただきますが」
即答だ。あまりにも用意された言葉のように、あっけない。
「……は?」
「では、全体的な話に入りましょう。清水様」
「はい」
清水さんがすっと立ち上がる。
「え? ちょっと……」
ちょ、ちょちょ……
清水さんが手に持っていたリモコンのボタンを押す。
部屋の奥からスクリーンがゆっくりと降り、天井からはプロジェクターが滑り出してくる。
「では――新生・鬼霊対策室の概要を説明します」
この度は、ご覧いただきありがとうございます。花月夜と申します。
初めての執筆作品となります。
当方執筆に関して、完全な素人な為、至らない点が数多くあると思います。
ですが、書き始めたからには、皆様に読んでよかったと思って頂けるような作品にして行きたいです。
これからも、随時更新して参りますので応援いただけると幸いです。
ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。