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9. 縁談が来ました①

 翌日。

 解雇することになったジョニーさんの代わりに、私がエリノアに勉強を教えることになった。


 社交界での作法は侍女達が教えていたのだけど、エリノアの希望でこれも私の役目になっている。

 これまで通り午前は座学を、午後はダンスや礼儀作法について教える予定だ。


「……そろそろ昼食だから、今日はここまでにしましょう」

「分かりました」


 もうすぐお昼だから、エリノアのペンが止まるのを待ってからダイニングに足を向ける。

 幸いにも、今日と同じくらいのペースで進められたらデビュタントには間に合いそうだから、最悪の状況にはならないと思う。


「そういえば、エリノアはネイサン様のどこが気に入ったの?」

「顔だけですわ。でも、二度と顔だけでは選びません」


 そう口にする彼女の表情には後悔の色が滲んでいる。

 私は政略的な意味の方が大きかったから選べなかったけれど、もし自由に婚約する人を選べるのなら、容姿よりも内面をしっかり見たい。


 とはいっても、貴族の身である以上は自由に相手を選べないから、考えるだけ無駄になってしまう。


「……浮気されると最悪だから、慎重になった方が良いわ」

「お姉さまもお母様もお父様も、男性を見る目が無いから自分でしっかり決めます!」


 さり気なく馬鹿にされた気がするが、こればかりは何も言い返せなかった。

 そうしているとダイニングに着いたから、私はいつもの席に腰を下ろす。


 すると、先に座っていたお父様が重々しく口を開く。


「クラリス、大事な話がある。お前に縁談が来た」


 婚約破棄を知られたのが昨日のこと。

 まだ丸一日も経っていないのに縁談が来るとは思っていなかったから、どんな表情を浮かべていいのか分からない。

 ただ……傷物になった私に来る縁談の中身は想像がついているから、覚悟を決めてお父様に続きを促す。


「……どなたからでしょうか?」

「クルヴェット侯爵家のシリル様からだ。嫌ならお断りするから、正直に答えてほしい」


 良い意味で予想が外れ、私は胸をなでおろした。

 ただ……昨日エリノアがクルヴェット侯爵家にご迷惑をおかけしたことを思い出し、気を引き締めなおす。


 それに、シリル様とお話したのは昨日が初めてで、気に入られる理由が容姿以外に思い浮かばない。

 リズには綺麗だとか美しいと言われることが多いものの、社交界では可愛らしいと評されていることを知っている。令息方から注目されていることにも気付いていて、一目惚れという予想を否定できなかった。


「嫌とは思いませんわ。ただ……急なことなので、一度シリル様とお話してから決めたいです」

「分かった、そのように返事をしよう」


 だから、シリル様の本心を探ってから縁談を受け入れるか決めることにする。

 彼のお顔は整っているから、容姿だけ見れば悪くないと思えるけれど、顔は良くても内面が駄目では元も子もない。ネイサン様という悪しき先例があるのだから、次の相手を選べるのなら慎重に決めたかった。


「ありがとうございます」


 お父様にお礼を言うと、隣のお兄様から心配そうな視線を向けられていることに気付いた。


「お兄様、何かありましたか?」

「いや、シリル様は顔こそ整っているが、体格が良すぎて令嬢達に怖がられている。だから心配になったのだ。クラリスは気にならないのか?」


 シリル様が令嬢方から怖がられていることは知っている。

 けれど、私が彼を怖いと思ったことはない。


 あの体格で乱暴されることを考えたら恐ろしいが、今のところ彼に助けられた経験しかないのだから。


「――私は気にしませんわ。大事なのは内面ですもの」


 最初はお父様と同じくらいの方の後妻にしかなれないと思っていたから、今の知らせで未来が明るくなった気がした。

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