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7. 自分勝手な行動で②


「どうしてパーティーで助けてくれなかったのですか!?」


 私の問いかけに、エリノアはそんな言葉を返してきた。

 パーティーに参加出来なかったことを根に持っているらしい。


「助けるも何も、決まりを破る手助けなんて出来るわけがないわ。

そもそも、何故パーティーに参加しようとしたの?」


 無理なものは無理なのだから、潔く諦めて欲しいのに……彼女の不満は収まらない様子。

 だから、酷く妬まれている理由を探ろうと問いかけると、こんな言葉を返された。


「……お姉さまを見返したかったからですわ。いつも褒められるのはお姉さまばかりで、私はいくら頑張ってもお父様にもお母様にも認められませんの。

 褒めてくれる先生も心が籠っていないから、馬鹿にされているようにしか感じませんわ。お姉さまは何をしても褒められて、格好良い人と婚約も出来ていて、使用人からも好かれていて、綺麗なドレスもアクセサリーも沢山買ってもらえて、お父様からもお母様からも頼られて……本当に狡いですわ」


 突っ込みたいところがいくつもあるけれど、色々と勘違いされていることは分かる。

 これ以上、姉妹の関係を悪くするのは望まないから、一つずつ誤解を解いていこうと思う。


「色々と勘違いしているみたいだけど、私もエリノアと同じくらいの頃は中々認めてもらえなかったわ。

 それでも、認めてもらうために必死に勉強したから今があるの。お兄様を見習いなさいとよく言われていたわ」

「お姉さまが……? 想像も出来ませんわ」

「貴女はずっと遊んでいたもの。知らなくて当然よ」


 私はお兄様が勉強している時、構ってもらいたくて一緒に剣術の練習もしていたのだけど、エリノアは私が勉強している時ずっと親しい家の人達と遊んでいたのだから、私の努力を知らなくても仕方がないと思う。

 でも、それすら彼女にとっては衝撃だったようで、開いた口が塞がらなくなっていた。


「ドレスやアクセサリーはどうすれば買ってもらえますの?」

「十五歳になれば買ってもらえるわ。でも、それまでに醜聞が広まるとデビュタント出来なくなって、ドレスともアクセサリーとも無縁な生活を送る羽目になるわ」

「どういうことでして……?」

「コラーユ家から勘当されるという意味よ。だから周囲の忠告は聞き入れなさい」


 そう口にすると、エリノアは今日の行動が取り返しのつかないことだと理解したのか、目に涙をためて、ふらふらと倒れそうになる。

 咄嗟に私とリズが支えなければ、きっと床に身体を打ち付けていた。


 ここまで効くとは思っていなかったから、嫌な汗が出てしまう。

 実際はネイサン様とローレン様の醜態が注目の的だったから、エリノアの醜聞は広まらないと思うけれど、正直に伝えると同じことの繰り返しだと思うと、甘い言葉は言えなかった。


「まだ勘当されるほどではないから大丈夫よ。今なら挽回出来るわ」

「でも……あの時の私は注目されていましたわ」

「ネイサン様に命令されたと言えば何とかなるわ。パーティーのことよりも、私の婚約者を奪おうとした行動の方が問題ね」


 これは私達コラーユ家の者が黙っていれば醜聞にはならないこと。

 それでも、家族の大切な何かを奪えば関係に取り返しのつかない亀裂が入ることになるから、二度と同じことはさせたくなかった。


 もっとも、私はネイサン様には怒っていても、エリノアにはあまり怒りを感じていない。

 血の繋がっている妹という理由もあると思うけれど、それ以上に行動が稚拙で呆れが勝ってしまうのだ。


 それに、エリノアがネイサン様の浮気性を暴いてくれなかったら、この本性を知らないまま結婚することになると思う。何も無ければいいけれど、この浮気性では離婚の二文字がすぐに浮かぶ。

 ……こう考えると、怒るに怒れないのよね。


「本当にごめんなさい。二度と同じことはしませんわ」

「その言葉、信じて良いのかしら?」

「……信じて頂けるように頑張ります」

「期待しているわ」


 だから、彼女に頭を下げられた時、私は微笑みを浮かべながら言葉を返す。

 もっとも、この笑みは含みのあるものに見えたらしく、エリノアに距離を取られてしまった。


「お姉さま、もう一つ相談しても良いでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ」

「どうして……ジョニー先生はこれ以上学ぶことが無い……と言って褒めてくれるのに、お母様もお父様も認めてくれないのでしょうか?」

「正直に答えてもいいかしら?」


 私の答えはエリノアを傷付けることになると思う。

 だから、彼女の目をしっかり見て問いかけた。


「お願いします」

「社交界に出るための知識が全然身についていないからよ。この状態でパーティーに出たら、恥どころでは済まないわ。

 ジョニーさんは一体何を考えているのかしら?」

「そんな……」


 予想はしていたことだけど、エリノアは茫然として顔から血の気が引いていく。


「クラリスお嬢様、深刻そうですけれど……何かありましたか?」

「ジョニーさんに探りを入れる必要があるわ」


 家庭教師が与えられた役目とは真逆の行動をしている。

 エリノアのみならずコラーユ家を陥れようとしていることも考えられるから、まずはお父様に相談することに決めた。


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