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復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~  作者: 水空 葵


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40. 狙い通りに①

 私が言葉を発する間もなく、私を囲っている使用人の一人――変装しているシリル様が背後から抱えてきた。

 彼らは全員顔を隠しているが、口元までは隠していないから、普段から接している私にとって見分けるのは容易だ。


 この瞬間、ネイサン様が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 私の予想は当たっていたらしい。


 けれど、私は必死に逃れようとする演技をしないといけないから、シリル様の腕から抜け出さない程度にもがく。

 そして、そのまま荷物用の馬車に運び込まれ、間もなく馬車が動き出した。


「――襲われているフリは成功ね」

「ああ。どこも痛めていないか?」

「大丈夫よ。それよりも、笑いを堪えるのに必死だわ」

「そうか。しかし、ここまでクラリスの予想が当たるとは思わなかった。ネイサンの醜い笑顔が恐怖に染まる日が楽しみだ」


 私が立てた予想はこうだ。


 まず、ネイサン様が使用人を買収し、彼らに襲わせることで私を傷物にする。

 そしてシリル様が私と離縁するように仕向けるのだ。


 シリル様が私に関わらなくなれば、復縁して私を利用することも、逆にこの世から消すことも容易になる。

 誰でも思いつきそうなことだから当たる自信はあまりなかったが、ネイサン様は私が予想していたよりも単純な思考の持ち主らしい。


「私も同感だわ。本当にこんなに上手くいって大丈夫かしら?」

「ここからが本番だから、喜ぶのは早いと思う。グレージュ家の使用人を買収して、

ネイサンにクラリスを襲わせることが出来なければ、意味が無い」

「そうだったわ。ここで私が倒れては元も子も無いから、しっかり護身術の練習をするわ」


 そこまでお話した時だった。

 荷台の外を見張っていた使用人がこんなことを口にした。


「シリル様、グレージュ家の馬車が追ってきています!」

「分かった。もしかしたら、本来の指示が別にあるのかもしれない。一度止めて、話を聞こう」

「畏まりました」


 シリル様は使用人に指示を出すと、私に向き直る。

 私が立てた計画からは少し外れるけれど、このまま相手の狙いを聞き出すつもりなのだろう。


「クラリス、すまないがもう少し捕まってもらえるか?」

「大丈夫よ。任せるわね」

「ああ、任された」


 私は抵抗を諦めたように見せるため、シリル様に身体を預け力を抜く。

 そして馬車が止まり、追ってきていた馬車から誰かが降りる気配がした。


「何か手違いがありましたか?」

「その令嬢をこちらに渡して頂きたい」

「何をする予定か聞いても宜しいですか?」

「俺がクラリスと既成事実を作ると、使用人を通してお話したはずです。

 例の眠り薬をクラリスに飲ませてください」


 外から聞こえてくる声は外から聞こえてくる声はネイサン様のもの。


 どうやら、ネイサン様が私を傷物にすることを狙っているという予想は、外れていなかったらしい。

 会話が進むにつれてシリル様の表情が険しくなっていくが、外の会話はとどまることを知らず、ネイサン様の計画が包み隠さずに語られていた。


「――シリル様、もう十分だと思いますわ」

「もう少し確実な証拠を作った方がいい。クラリスには触れさせないから、任せてもらえないか?」

「分かりました。絶対ですよ?」


 私が問い返すと、しっかりとした頷きが返ってくる。

 だから、シリル様に任せようと思った。


 一方、外ではネイサン様が直接私に眠り薬を飲ませるという話にまとまった様子。

 そして、クルヴェット家の使用人が見張る馬車の中にネイサン様が一人で入ってきた。


「流石に抵抗する気も起きないか。よくやってくれた。

 クラリス、飲め。飲まなかったら命は無いと思え」


 銀色に輝くもの――ナイフを突きつけられる。

 そして、彼のもう片方の手が私の口元に伸びた時だった。


「抵抗するなよ」


 使用人達が一斉にネイサン様の拘束に動き、一瞬にして馬車の壁に押さえつけられる。

 私は彼らの邪魔にならないように反対の壁際に動き、拘束用の縄を手にとった。


「何をする! 離せ!」

「伯爵令息とはいえ、令嬢に薬を盛ることは許されない。大人しくしろ!」


 ネイサン様は必死の形相で逃れようとしているようだけど、シリル様や体格の良い使用人達に囲まれては欠片も動けない様子。


「クラリス、さては俺のことを嵌めたな!」

「私を嵌めようとした人に言われたくありません」

「黙れ! 大体、婚約破棄されてすぐに他の男に靡くのが悪い! お前の尻軽さには失望した!」

「だったら私に関わらないでください。そもそも、貴方は浮気をしていたではありませんか」


 失望している相手を利用しようとするなんて、頭がどうかしているとしか思えない。

 だから、これ以上の言葉を交わすのは無駄だと思い、ネイサン様のことは気にしないようにする。


 けれど、いくら無視しても私への暴言は止まることを知らず、ついに彼は口を塞がれ何も言えない状態になった。

 ちょうどその時、外から別の馬車の音が聞こえてきて、シリル様が外の様子を伺う。

 

「いつもの馬車が来たから、乗り換えよう」

「分かりましたわ」


 どうやら迎えに来たようで、私達は荷物用の馬車を降り、その馬車に乗り換える。


「彼は牢に連れて行くように。それと、グレージュ家に今回の件を連絡しよう」

「畏まりました」


 この後すぐ、ネイサン様を乗せた馬車が先に動き出し、私達が乗る馬車はその後を追った。


 

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