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復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~  作者: 水空 葵


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35. 身体を動かす意味②

 しばらくして。

 午前の勉強を終えた私は、昼食後にシリル様と共に広間へと向かった。


 彼も領主になるための勉強をしていたから、昼食前は少し難しそうな顔をしていたけれど、今はいつもの優しい笑顔に戻っている。


「今日は普段よりも教わったことを覚えやすかった気がするわ。

 朝のうちに運動すると、勉強の効果が増すのかしら?」

「そういう話は聞いたことが無いが、クラリスの感覚は正しいと思う。俺の場合は、朝の鍛錬をサボると勉強の出来が悪くなる」


 気付いたことを口にすると、彼は納得したように頷いてくれた。

 この発見は今後も活かせるはずだから、鍛練は止めても軽い散歩は続けようと思う。


 ちなみに、これからするのは武術の練習らしく、広間に入ると模造剣を渡された。

 貴族の令嬢として、最低限の護身術としての剣は習っているが、クルヴェット家は兵部卿という立場もあり、私もある程度は剣術や馬術に弓術の腕が求められるらしい。


「兵部卿夫人って大変なのね……」

「知らなかったのか?」

「ええ。今まで噂を聞く余裕が無かったから、驚いているわ」

「そうだったのか。今更だが、俺が社交界で令嬢から避けられている理由の半分は、この責務が原因だと思っている」

「間違いないと思うわ。でも、私は気にしないから大丈夫よ」


 剣術と馬術はお兄様の勉強に加わっていたおかげで、ある程度の嗜みがある。だから抵抗は感じていない。

 むしろ、たったのこれだけで夫人として十分だと言われた方が衝撃的だったくらいだ。


「ありがとう。早速だが、始めよう」

「お願いします」


 ここからの先生はシリル様になるから、今だけは敬語に戻して頭を下げる。

 彼は私の意図に気付いたらしく、敬語のままでも気にしていない様子だ。


 ちなみに、この模造剣は真剣のようにずっしりと重く、私の力では剣先を前に向けるだけでも一苦労。

 普段は刀身が細いものを護身用として持ち歩いている分、これを上手く振るえる自信は無かった。


「普通の剣ってこんなに重いのね」

「それは男の護衛が持つものだ。クラリスのはこっち」


 差し出された模造剣は私でも容易に振り回せるくらいの重みで、試しに構えてみても違和感はない。


「様になっているね」

「そう……? 私は大したことないと思うわ」


 あまり自信は無いけれど、シリル様にはそう見えるらしい。

 もっとも、彼は私では持ち上げられなかった剣を軽々と片手で持っているし、纏う雰囲気からも只者ではないと分かる。


 剣術の先生としてこれ以上とない適任だと思うけれど、私では相手にもならないと思う。


「試してみてからのお楽しみだな。

 防具はあるが、お互いに寸止めで試そう」

「分かったわ。私はいつでも大丈夫よ」


 最初に見るシリル様の剣技が私に向けられるものになるなんて……。

 彼と出会った時には想像もしていなかったから、緊張してしまう。


 でも、既にお互いが剣を構えている状況だ。

 だから、いつ合図が出ても大丈夫なようにと、気を引き締め続ける。


 そして……。


「始め!」


 執事さんの合図が響き、私はシリル様の最初の一閃を躱した。

 手加減されているのか分からないが、剣が空気を切り裂く音がすぐ横から聞こえてくる。


 次の攻撃が来る前に、私は彼の軸足を崩すように斬り込む。

 すると、シリル様はバランスを殆ど崩さず、お返しと言わんばかりに斬り返してくる。


 体格が良い人ほど動きが鈍くなるはずなのに、シリル様の動きは素早くて、ついていくので精一杯。

 でも、これは予想していた動き。


 私は剣の腹で受け流し、その隙にと斬り返す。

 すると、今度はシリル様の剣に防がれてしまい、そのまま押し込まれそうになる。


 一度後ろに勢いよく下がったことで体勢を立て直せたけれど、このままでは十秒も拮抗しないと思う。

 それでも、必死に剣を交えていると、ついに受け流すことに失敗し、肩口に剣が触れる寸前で止まった。


「そこまで!」


 受け流せると確信していたのにもかかわらず、手が痛むほどに彼の剣撃は重い。

 剣を落とすなんて、実戦なら許されない大失態だ。


 けれどシリル様はすぐに私の手を見て、心配そうな表情を浮かべていた。


「手、大丈夫?」

「ええ、これくらい何ともないわ」

「良かった。手加減するべきだったな……」


 私は彼の本気を知りたかったから、これ以上不安にさせたくない。

 だから、笑顔を浮かべながらこう口にする。


「シリルの本気が知れて嬉しかったわ。だから気にしないで大丈夫よ」

「分かった。だが、このまま続けては怪我をするだろうから、痛みが引くまで休もう。

 もっとも、これだけの才能があれば練習は不要だと思う」

「でも、すぐに負けてしまったわ」


 今のままでもクルヴェット家の夫人になって問題ないという事なのだと思うけれど、この言葉に甘えて良いとは思えない。

 だから痛みが引いてきた手で剣を握り直す。


 すると、執事がこんなことを口にした。


「シリル様を相手にして十秒以上戦えたのは、クラリス様が初めてでございます。私はこの屋敷でも剣技に長けていると自負しておりますが、貴女様には勝てそうにありません。

 ですから、自信を持たれても問題ありません。行き過ぎた自信は敗北に繋がりますので、それだけはお控え頂ければと思います」

「そうだったのですね……私では足りないものだと思っていました」


 私がそう口にすると、シリル様や近くで見ていた護衛達が揃って首を横に振る。

 そんな時、シリル様のご両親が足音を立てずに姿を見せた。

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