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2. 婚約破棄されました

「……どういう意味でしょうか?」

「そのままの意味だよ。僕はもうクラリスを愛せない。

 だから婚約を破棄して、代わりにエリノアと婚約する」


 私が問いかけると、ネイサン様はそう口にした。

 いつから関係を持っていたのかは分からないが、このタイミングで婚約破棄を告げてくることには悪意を感じる。


 今までの努力が否定されたようで悔しいけれど、浮気をするような人と関係を続けるつもりはない。


「分かりました。婚約の破棄を受け入れます」

「クラリスが色々していた事は知っているが、領地のことなんかよりも俺に尽くしてほしかった。小言を言われるのも嫌だった」


 何もしようとしない彼に伝えていたアドバイスも、全て無意味だったらしい。

 馬鹿には何を言っても無駄とはよく言われるけれど、その通りだと思った。


「全てネイサン様のためを思って申し上げておりましたわ」

「そんなものは関係ない。エリノアは俺のことを分かってくれていて、一緒に過ごしているだけで幸せと感じられる」

「残念でしたわね? ネイサン様は頭が良くてずっと勉強ばかりしているお姉さまよりも、私みたいに愛嬌がある女性が好きみたいなの。領地のことは理解できても、ネイサン様の気持ちは理解できなかったのね」


 ネイサン様の言葉に続けて、エリノアが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 聞いてもいないのに、長々と語れる魂胆は素直にすごいと思う。悪い意味で。

 そもそも、跡継ぎとなる令息に嫁ぐ令嬢の役目は、その家の将来のために行動することだ。


 ネイサン様はお世辞にも優秀とは言えないから、私が将来のためを思って必死に知識を身に着けたというのに……この二人は何も分かっていないらしい。

 エリノアはデビュタント前でまだ教わっていないかもしれないけれど、ネイサン様が何も考えていないことには怒りを通り越して呆れてしまった。


「要するに……」


 彼は何かを思い出すように額に指を当て、台本を忘れた役者のように言葉を詰まらせる。

 そうしてしばらくすると、ようやく口を開いた。


「俺は真実の愛を見つけた。だから二度と邪魔しないで欲しい」

「分かりました。二度と貴方には関わりません」


 このまま関係を続けても不幸になるだけ。そう分かっていたから、彼の言葉には笑顔で頷いた。

 けれどエリノアの表情は不満へと変わる。


 もしかしたら、私が咽び泣く姿を見たかったのかもしれない。

 でも、思い通りになるつもりは欠片も無かった。


「婚約破棄されても泣かないなんて、お姉さまは人の心が無いのですね」

「浮気するような人は願い下げだもの。泣く方が難しいわ。

 そういうエリノアこそ、人の婚約者を奪うなんて、人の心が無いみたいね。一体どういう教育を受けているのか……いえ、私と同じことを教わっているはずだわ。本当に不思議ね」

「……お姉さま、酷いですわ」


 私が言い返すと、エリノアは顔を手で覆って俯く。

 これは泣いているフリね……。


「クラリス、妹を虐めるなんて酷いじゃないか! 今すぐに謝れ!」

「お断りします」


 そんな彼女を守るように抱き締め、ネイサン様は声を荒げる。こんなにエリノアにお熱なのに、つい最近まで気付けなかった自分のことが恨めしい。


 それに、二度と関わってくるなと私に言っておきながら自分から関わろうとするなんて、少し理解に苦しんでしまう。


「その口の利き方は何だ!」

「もう他人ですので、今までのような甘い言葉は言いませんわ。

 私はこれで失礼いたします。エリノアとどうぞお幸せに」


 きっと、これ以上お話をしても良いことはない。

 そう思ったから、せめてものお返しにと嫌味を込めた笑顔を浮かべ、応接室を後にした。


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