17. お出かけします③
それから少しして。
パフェでお腹を満たした私達は、次の目的地へと向かった。
今度はドレスや装飾品を扱っているお店で、入るとすぐに別室へと案内される。
「まずは採寸をさせていただきますね」
「分かりました」
シリル様は部屋の外で待っていて、この場には私とお店の方が二人いるだけ。
二人とも私が個人的にドレスを仕立てる時にお世話になった方だから、世間話も弾んだ。
「……ネイサン様、また新しい相手を見つけましたのね」
「ええ。大量のドレスをご注文されておりましたので、間違いないかと」
「それと、エリノア様がドレスを大量に売られておりました」
エリノアがネイサン様からの贈り物を売りに出していることは予想通りだ。私も彼からの贈り物は全て売りに出し、手に入ったお金は何かあった時のために手を付けていない。
けれど、ネイサン様に新しい相手が見つかっていて、おまけに大量のドレスを購入しているというのは予想出来なかったこと。
「エリノアの行動は私の予想通りですけれど、ネイサン様にそんな大金があったとは知りませんでした」
「クラリス様へのプレゼントを殆どしない方でしたから、その時の貯金があるのでしょう」
お店の方はそう予想しているが、私の考えは違う。
ネイサン様の家のお財布事情は細かく把握していたから、ドレスを十着以上も買えば経営が立ち行かなくなることは容易に想像出来る。
彼の家がどうなっても私には関係無いと言いたいところだけれど、領地が隣り合っているから、グレージュ家が立ち行かなくなると私の家も危うくなる。
お父様が交易を中止する計画を進めているから経済的な打撃は最低限で済むと思うけれど、領主家の破産は領地内で動乱が起こることを意味する。
私の家が治めるコラーユ領は土地こそ豊かでも、それほど広くないから、隣の動乱がもたらす影響は計り知れない。
シリル様のクルヴェット領もまた、グレージュ領やコラーユ領と隣接していて、どう転んでも私は他人事ではない。
「教えてくれてありがとう。私も影響を受けそうだから、早めに動くことにするわ」
「お役に立てるのなら、光栄でございます。採寸は続けられますか?」
「ええ。最後までお願いするわ」
グレージュ家の破産までは時間がかかるはずだから、問いかけに頷く。
出来るだけ早く動いた方が良いのは確かでも、お店に迷惑をかけて良い理由にはならない。
「―—終わりました。以前から少しだけ背が伸びましたね。それにお胸も大きくなられています。以前のドレスはまだ着られていますか?」
「ええ。少しキツくなったけれど、まだ大丈夫ですわ。やっぱり、少し太ったみたいですね……」
「お腹周りは以前と変わりませんから、成長だと思います。そもそもクラリス様は痩せている方なので、もう少しふくよかになられても問題ありません。むしろ健康的に見えると思います」
「そうでしょうか……? あまり自信は無いけれど、落ち込まないようにしますわ」
そうは言っても、シリル様が気に入ったのは今の私だから、体型を崩さないように頑張ろうと思う。
ふくよかになると持病もお腹の大きさに比例して増えていく傾向があるから、運動は大切だ。
貴族は護衛の問題もあって馬車での移動が多い分、意識して運動しないとあっという間に丸くなってしまうのだから。
「次はデザインを決めましょう。シリル様をお呼びしますね」
少しして、シリル様も部屋の中に入ると、ドレスの色や柄、装飾などのデザインを決めていくことになった。
「クラリスの好みが分からないから、今回は自由に決めてもらって構わない」
「本当に良いのですか?」
「嫌いなデザインのドレスを着るのは辛いだろう。今日はクラリスの好みを勉強する」
大抵は男性側の意見が優先されるから、シリル様の言葉は嬉しかった。
一人で参加するときのドレスは自由でも、婚約者と共に参加するときのドレスは、婚約者から贈られたものにするというしきたりがある。ネイサン様の好みは私の好みとは大きく違っていたから、パーティーの時は憂鬱だった。
おまけに、ネイサン様から贈られたドレスは数が揃っていなかったから、惨めな思いもしていた。
どんなに貧しい家でも、一週間の間に二度同じドレスを着ることは無いのだから。
「お気遣いありがとうございます。でも、私はシリル様の好みも取り入れたいと思いますの。だから意見は出してほしいですわ」
「分かった。正直に言うと、ドレスの知識があまり無いのだ。だから、的外れなことを言ったら断ってほしい」
「分かりました」
そうして私はシリル様と相談しながらドレスのデザインを考えていく。
「肌の露出は最低限にしたいですわ」
「その方が良い。邪な事を考えている男達に肌を見せると碌なことにならない」
「装飾は何も無いと寂しいので、このあたりに欲しいです」
「ここだとダンスの時に邪魔になりそうだが、大丈夫か?」
「本当ですわ。……ここならどうでしょうか?」
「良いと思う。しかし、ここが寂しいから、この辺りにも何か飾り気が欲しい」
「では、ここはこんな風にしましょう」
シリル様の意見は的確で、私は迷うことなくデザインを紙に書くことができた。
まだまだ細かいところはあるけれど、残りはお店の方にお任せした方が良くなるから、手を止める。
「……自らデザインされるなんて、相変わらずクラリス様には驚かされます」
「普通の令嬢はデザインしないのか?」
「ええ。基本は口頭で希望を伺い、それを元に私達でデザインしております。もっとも、ご希望通りに描くことは難しいので、大抵は数回やりなおしになります。そういう意味では、クラリス様のやり方は私達も大助かりでございます」
会話が進むにつれ、デザインの方も完成に近づいていく。
そして、ペンの音が止まった。
「―—このようなデザインでいかがでしょうか?」
「私は気に入りましたわ」
「かなり良いと思う。このドレスを纏うクラリスを早く見たくなります」
今日は一回で納得出来るデザインが提示されたから、シリル様が代金の支払いを済ませてから馬車へと戻る。
空は茜色に染まりかけていた。
「もうこんな時間ですのね。あっという間でしたわ。
シリル様、今日は誘ってくださってありがとうございました」
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。
しかし、時間が過ぎるのが早すぎるな……」
「まだ何度でも会えますから、落ち込まないでください」
「そうだったな。次はお互いの領地を紹介したいが、良いだろうか?」
「ええ。楽しみにしておりますわ」
帰りの馬車の中、私達は次の予定を立てていく。
彼と話していると時間が経つのはあっという間で、気が付けば家の馬車寄せに到着していた。




