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復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~  作者: 水空 葵


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16. お出かけします②

「―—今更な質問だが、君を名前だけで呼んでも良いだろうか?」


 心地よい揺れの中、ふとシリル様がそんな問いかけをしてきた。

 今まで彼は私のことを「君」と呼ぶことが多かったけれど、名前で呼んでくれるようになるらしい。


 どこかの誰かに「お前」と呼ばれて悲しい思いをしてきた分、シリル様の提案に頬が緩む。


「ええ、大丈夫ですわ」

「ありがとう。無理強いはしないが、俺のことも名前だけで呼んでくれると嬉しい。

 貴族の間では男の方が偉いという風潮があるが、俺はクラリスと対等でありたい」


 呼び方だけでも嬉しいのに、こんな言葉までかけられるとは思っていなかったから、今度は戸惑ってしまう。

 シリル様は侯爵令息で、伯爵令嬢でしかない私が敬意を払わないことは本来なら許されないことだ。本人が許していれば問題にはならないけれど、令嬢として育ってきた私には難しい。


「提案は嬉しいのですけれど、すぐには難しいですわ。

 どうしても、シリル様との地位の差を意識してしまいますの」

「分かった。無理強いをして申し訳ない」

「ですので……少しずつお名前だけで呼べるように頑張りますわ」

「楽しみにしている」


 私の返答に、彼は口角を上げる。まだ頑張るとしか言っていないのに、ここまで明るい声が返ってくるとは思っていなかったから、少し困惑してしまう。

 これは……慣れるまで時間をかけない方が良さそうだと思った。


 そうしていると、馬車が少しずつ速度を落としていき、私に馴染みのないお店の前で止まる。

 ここは貴族の間で有名な宝石店で、侯爵家以上の方が良く利用しているらしい。


 私の家では手が出せないほどの高級品ばかり取り揃えられているから、まだ馬車から降りてもいないのに緊張してしまう。

 けれども、そのお店とは反対側の馬車の扉が開けられた。


「私が先に降りる」

「ありがとうございます」


 シリル様の手を借りながら馬車から降りると、彼は私の歩幅に合わせて向かいのお店へと向かう。

 ここもまた私に馴染みはなく、貴族の間でも有名ではない。だから看板を見て、何かの料理店ということしか分からなかった。


 中に入ると甘い香りが漂ってきて、ここがスイーツのお店だと分かる。

 シリル様がこういうお店を知っているのは意外だ。


「シリル様は甘いものもお好きなのですか?」

「私は甘いものでも辛いものでも、美味しければ全て好みだ」


 彼は少し恥ずかしそうにしながら、そう口にする。

 見た目だけなら甘いものが嫌いでも不思議はないから、その差が可愛いと思えてしまう。


 男性に可愛いなんて言ったら嫌がられるから、口には出さないけれど。

 貴族の間では、甘いものが好きな男性を「男らしくない」と嘲う風潮もあり、初対面で私の好みに合わせてくれるシリル様の覚悟は相当なものだと思う。


「私の好みに合わせていただけて、本当にうれしいですわ」

「それは良かった。好きなだけ頼むと良い」

「ありがとうございます!」


 好きなだけ食べたらお腹が辛くなるし、次に来るときに楽しめないと思うから、今回はパフェを一つだけ注文することにする。

 

「……この日替わりパフェをお願いしたいですわ」

「分かった。ほかに欲しいものは無いか?」

「あまり食べすぎると辛くなってしまうので、今日は一つにしておきますわ」

「分かった。―—日替わりパフェを二つお願いします。それとお茶も二つお願いします」


 シリル様も私と同じものを選んだみたいで、そんな注文をする。

 それから彼と他愛ない会話をしていると、立派なパフェが二つテーブルの上に並ぶ。


 上の方に乗っているフルーツは瑞々しく、クリームも程よい甘さだ。クッキーは少し硬いけれど、フルーツと一緒に口に含めば気にならない程度。むしろ、触感が最後まで残るから、この方が良いとさえ思える。

 食べ進めても色々なフルーツが中から出てくるから、最後まで飽きないのも嬉しい。


「幸せそうだな」

「ええ、すごく幸せですわ」

「これから、もっと幸せにすると約束するよ」


 そう口にするシリル様のパフェは既に彼の胃袋に収まったらしく、味わいながら食べ進める私はずっと見つめられていたらしい。

 みっともなく頬を緩ませる姿を見られていたと思うと、羞恥心が湧き上がってくる。


「嬉しいですわ。でも、ずっと見つめられていると恥ずかしいです……」

「クラリスが可愛すぎるのが悪い」


 結局、私が食べ終わるまで彼の視線は外れなくて、顔が赤くなっていないか心配になってしまう。

 普段は表情を取り繕うことくらい容易いのに、シリル様の前だと上手く出来ないことが不思議だった。

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