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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-1 小説家とVtuberと友達と:ただ女装をしただけなのに
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06 陽キャにラーメンを奢られた、こわい



「へー、ミオは東京住み、東京育ちなんズルルルルルルルルル」


「食べながら喋るの凄いね……」


 いきなりあだ名ときたか。ミオトだからミオか。

 陽キャ怖い。距離の詰め方が全力疾走。石橋とかスキップで渡るんだろうなぁ。


「ちゅるっ。んっ、まぃ……わたしは岡山〜。東京に出てきた。人多いね〜やっぱ。どこがオススメなん?」


「あんまし外行かないからわかんない」


「そっかぁ。ま、コンクリートジャングルアッチィもんな〜」


「えーと、伊尾さんは」


「”さん”なんてつけんなって。奢ってんだから。金欠な中、奢ったんだから!」


 油そば:300円に目を落とす。


「……」


 いや、奢られてボクはなに金額を頭に浮かべてんだ。最低か? 

 それも陽キャに奢られてるのに。変な態度を取ったらバーベキューにされる。


「いお……は、岡山なんだ……」


「おう。といっても、ど田舎出身な。川と森に囲まれて育った訳よ」


 小中の校歌なんて山や川の美しさを歌うんだぜ? と笑う。


(コレ……笑って良いのか?)


 陽キャの生態わかんない。どういうテンションで接したらいいの? 

 ポケットからスマホを取り出した。気まずい雰囲気をごまかすための小休止だ。


『蒼央)今日!! 大学終わりに!! 待ってるから!!』


「…………」


 見るんじゃなかった……。

 その後に送られてきた『ツーショット』の写真を見て、顔を顰める。

 これ警察に突き出したら勝てる案件じゃないか? あ、エレベーターの動画も送られてきた。言質は取ってるからなってことか。


「こら、食事中にスマホ見んなよ」


「あ、ごめん」


 ぴっ、と箸で指された。申し訳ない。


「いまは私と会話してんだしよ。やめとけ〜? 箸が止まってんぞ。ほれ」


「あ、油そばってさ……後半が一気に重たくなるから、ちょっと気合を」


「分かる〜。ご飯を別に購入してぶち込んでる奴いるけど、あそこまでジャンキーにはなれんよなぁ」


「えっ、そんな人いたの?」


「いたいた。やっべーっしょ」


 やっべーしょ……。

 そうおもえば彼女の口調はところどころ気になるところがある。


「伊尾さん」──「呼び捨て!」──「……伊尾はさ。喋り方が独特だよね」


「これ、東京の人の真似してんだけど。違うのか?」


「東京の人は標準語しか喋らないよ……?」


「えっ。じゃあ、今までの私のアレなに?」


「わかんない……」


「わかんないのかよ〜。なんだそれ。東京のインタビューに映る人ってこんな奴ばっかりじゃなかった? なんか、やっべーやっべー、マジマジ? みたいな。違うの?」


「あーー……あれは、うん。東京の人が全員そういう訳じゃなくて」


 そこから、ちょっと話をしていった。

 東京といっても、変な人がいっぱいいる場所ではないということ。

 ただ、人が集まるからそういう人が多く見えるだけで割合としてはそんなに変わらないということ。

 テレビとかで面白そうな人が取り上げられるのは「ネタになるから」とかそういう理由で、普通にスーツ姿の社会人とか学生とかもいるし、みんながみんなああいう感じじゃないことを……おしえてたんだけど。


「はああーー…………そうなのか……」


 すごく感動してる。

 目をキラキラさせて、めっちゃ頷いてくれる。

 

「東京は怖いところって聞いてたから、めちゃめちゃ準備してきたんだけど」


「東京にいるオシャレな人は、大体が地方から出てきた人だよ。毎日あんな格好してたら疲れる……と思う」


「疲れる……たしかに」イオは自分の革ジャンをパタパタしながら呟く。


「京都の舞子さんが現地の人じゃなくて、観光客みたいな感じかな」


「あー、ソレわかりやすい〜」


 褒められた。ちょっとうれしい。


「よかった〜。ミオと話せれて。東京のことなんもわっかんないしさ。同郷の奴はタローしかいないしで困ってたんだぁ〜……」


 グイと背を伸ばして、席を移動して、横に座ってきた。

 え、なんで? あ、すっごい見つめてくる。


「……そ、そういえば、なんであの時にボクに声をかけてきたの?」


 質問をすると、伊尾さんは歯を見せて笑った。


「私とミオは同類だと思ったから」


「どうるい……?」


「そ」


「それって、どういう……」

 ──PRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR。


 机の上に置いてあったスマホから着信音。


「あ、ごめん。もしもし?」


『なんでっ、既読付けてくんないのっ!!?』


「えええっ? 大学だよ、いま」


『大学生は講義中にスマホみるんじゃないの!?』


「どんなですか。いいから切りますよ」


『ちょっ、みおとく──』


 着信を切る。その後、鬼のようなチャットが飛んできて、通知を切っておいた。


「いまのだれ?」


「あー……ボクが、今日この格好でいる原因……かな」


「彼女? 大学の奴?」


「違うよ。ボク彼女できたことないし……学外の人。年上。変な人」


 あの人の立ち位置をなんて言葉で表したらいいのかわかんない。

 女装してるボクを酔わせて、拉致して、脅迫してる小説家の人。

 いや、人に言ったら間違いなく「犯罪に巻き込まれてるよ」って言われる奴だ。

 警察沙汰にはしたくないしなぁ。別に実害を加えられたわけじゃあないし。


「ふぅん。ならよかった!」


「まぁ、そんな感じで……よかった、って?」


「あ、じゃあ私そろそろ行くわ。次の講義の課題まだやってないから、ダッシュで図書館いかないとだし」


「えっ、ちょ……」


「じゃね〜。また、学内で見かけたらよろしくってコトで」


 じゃっと手を振って、ラーメン屋を飛び出し、ギターバックみたいなのを背負ったまま下り坂を下っていった。

 

「…………なんか、ちょっと、気になる終わり方なのズルいな」


 にしても、油そばの1/3がやっぱりキツイ……。最初の方アレだけ美味しいのに。

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