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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-4 小説家とVtuberと友達と:ただ友達と遊ぼうとしただけなのに
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55 ミオとイオの秘密



「…………い、お?」


 さっきまでの独り言聞かれた……?

 わ、冷や汗出てきた。普通にビビってる自分がいる。


「なに買ったんだ?」


「え、あ、えっ」


「お! いつものじゃーん。買ってくれたのか?」


「あ、うん……そーなんだよー、ハハハ」


 イオはいつも通りだ。うん、大丈夫、聞かれてない。


 そ、そうだ。せっかく話せそうなタイミングがやってきたんだ、何か話さなきゃ。でも、なんて話題がいいんだ? 分からない。


 とにかく、なにか話さないと……! ええいビビリめ! 口を開くんだよ!

 

「「あのさ」」


「へっ」


「あ」


 一緒のタイミングで声をかけて、目が合った。

 イオも驚いた顔をしてて、それが何か面白くて、緊張が少し解けた気がした。


 安心して口元が緩むと、イオもつられてへにゃと笑った。


「んだよ、なに? なんだ?」


「いや、なんでもないよ。イオの方から言ってよ」


「なんだよ〜? まぁ、しゃあなしなっ!」


 イオがそう言い、肩を組んで来た。


(良かった、いつも通りな感じで話せてててて……体重かけて来るな!)


 肩を組んだままもたれかかってきたので、反対側の足を突っ張ってグイッと抵抗。まるで蒼央さんみたいなダル絡みだ! イオらしくない!


 すると、居心地良さそうにボクの体にもたれてきたまま、


「なんかさー、気まずくね?」


 イオはそんなことを言い出した。


「! イオ……」


 驚いた。イオも同じ気持ちだったらしい。

 思わずイオの顔を見つめると、照れくさそうに向こうを向いて──


「ぶふっ」


 後ろで結んでた髪の毛が顔面を直撃してきた。


「悪い……見つめてきたから」


「……いいよ、別に」


 それよりも大事な話題がある。


 ……話すのが怖いけど、これは話さないとダメな奴だ。イオが同じ気持ちなら、いまこそ話せ! さぁ、重たい口を開け!


「ボクも同じ気持ちだった」


「……ミオ」


「気まずいんだ。話しづらいし、なんか、もやもやする」


 喋りだすと口はスムーズに動いてくれた。よし、このまま行け! 喋れ! 頑張れボク!


「でも、このままイオと話にくくなるのは嫌だ。友達なのに、さ」


 肩を組まれたままボクは思ってたことを小さい声でぶちまけた。


 言いたいことは言った。木下心音ミッションコンプリート。あとはイオの出方を見てからで……。


「……」


「…………」


 あれ、全然レスポンスがない。

 え、え? これはボクがまだ会話のバトン持ってるのか?


 もう1回、イオの顔を見つめようとしたら──


 頬に手を添えられた。


「……」


 キスをされる──


 ──かと思った、けど、違った。


 イオの表情が暗いのだ。

 その手に手を重ねて首を傾げてみせた。


「……なにー?」


 イオの目線が少し下に落ちた。ふむ。なんだか、何か言いたいけど、遠慮してるみたいな雰囲気だ。


「言いたくないことなら、言わなくてもいいよ?」


「いや……私は……ほんとにダメな奴だなって思った」


「そんなことは」


「いや、ミオにかわいいって言われてから……私はどうかしてんだ」


 気丈に振る舞いながらも、落ちるようにそう呟く。


 なんか重たい雰囲気がある。これは、えーと、どうしよう。人付き合い下手すぎて、どうしたら良いのかわからないんだけど。


 どうかしてるとはどういう意味なんだろう。確かにあのときのイオは人が変わったようだった。まぁ、ボクも饒舌に喋ってた気はするけど。お互い様だよね~って言えばいいのかな。


「私は男で、ミオは女なのに」


 あ、そういう話か。イオなりの思いがあるのね。よし、聞こう。


「女にそんなことを言わせるのも、そんな顔をさせるのも、男として失格だ。でも、男ならこういう時にどんなことをするべきか、どんな声をかけるべきかが分からない」


「……」


「私は……男じゃない。こんなの、私がなりたい姿じゃない」


 あんなことがあってもイオはイオのままなんだ、と思った。それを知れたからか、今は、今だけはイオと対等になれた気がした。


(陽キャでも同じ人間で、イオも同い年の1人の人間で)


 だからかな。ましろくんや蒼央さんと話すときみたいに余裕が出てきたんだ。


「――そんなの簡単だよ」


 なんて、ボクらしくない言葉遣いで今度は自分用の飲み物を買った。それを取り出し、イオの持ってた缶コーヒーと乾杯。


「一緒に缶コーヒー飲んで話でもすりゃあ解決だ」


 あの日、イオが言ってた言葉をそのままイオに向ける。


 ──友達と喧嘩したときは? 仲直りはどうするの。

 

 そのボクの疑問に彼女自身がそういったのだ。だってボクらは男だの女だのの前に、


「ダチだもんね、ボクら」


 そう、ボクらは友達なのだ。友達との仲直りの方法なんてイオは既に知ってるのだ。


 カシュッと開けて口にする。イオにも目で促すと彼女もちびと一口。暗かった表情に明るい色が見えて、ボクも自然に笑みが出てきた。


「そうだな。ダチだもんな、色々考えすぎてた」


「そーそー」


「なんか、今回のは色々と考えすぎちまったなー。ちくしょー。なんなんだ」


「そういうときもあるでしょー、今日のは仕方ないよー」


 って言いながら、ボクの危険察知のアンテナが立った。


 この話が大学に広まったら……ボクがイオにセクハラをした奴だってみんなに知られる!


『この前、ミオのブツが太ももで挟んでさ〜』


『え、最悪じゃね。BBQにして食おうぜ』


 特にあのときの陽キャ女子軍団に広まったら日には……殺されちゃう……。それは避けなければならない……。


「イオ!」


「どした?」


「その今日あったことは……みんなには内緒で……」


 気まずそうにそう話すと、不思議そうな顔をしていた。


「あ、ああ。誰にも言わねぇよ」


「! ほんと! ありがと! ボクとイオだけの秘密だからね!」


「お、おう……」


 小指を強引に結んで、指切りげんまんした。よし!

 

 これで社会的な死は免れたぞ。ひとまず、自分の課題はこれでなくなったハズ──


「──なになに、二人で話して。おねーさんも混ぜてくれない?」


「「わあっ!?」」

 

 ずもっ、とボクとイオの間に蒼央さんが入ってきた。


「自販機の前にいるからみんなの邪魔になってるよ」


「…………」


「「あ、すみませんでした……」」

 

 話すのに夢中で人が集まってるの気づかなかった。

 さささと外に出て、二人で顔を見合わせて……疲れたように笑った。


 帰りの運転は蒼央さん。イオは後部座席に乗って、ボクに前に座るように言ってきた。意図は分からないけど、まぁ、言う通りにしよう。


「じゃあ、安全運転でお願いしますね」


「任せなって、眠気は吹き飛ばしてきた」


 帰りの車が走り出すと、しばらく何やら話をしていた後部座席組が寝息を立て始めた。


(イオ……寝たかったから後ろに行ったな?)


「寝た?」


「寝ました。ぐっすりです」


 ため息をつくと蒼央さんがクスッと笑った。


「なんです?」


「いや? ミオちゃんはどうだった? 今日は楽しかった?」


「楽しかったですよ。海とか小学生ぶりですし」


「良かった良かった。ミオちゃんが楽しかったらそれで良いんだよ」


「なんですかソレ」


 指を立てて、とんとんっとハンドルを叩いて微笑む蒼央さん。


「意味深に笑って、なんかいい雰囲気でも出そうとしてます? ペーパーなんですからしっかりと運転してくださいね」


「すっかり信頼なくなってるなー、私」


「信頼してるからですよ。陰キャって話せる人には饒舌なんです」


「なんか、ミオちゃん変わったね」


「変わりました?」


「変わった」


「そうかな……調子に乗ってるとか、そういう感じです?」


「調子に乗ってはないかなー」


「じゃあ、どういうところが変わりました?」


 なんだ、なにが変わった? 言動? 言葉がきつくなった?


 窓に少し反射する自分の顔をむにむにと掴み、んー、と首を傾げた。すると、蒼央さんは焦らすような間を作って。


「初めて会ったときより、よく笑うようになった」


「………………へっ」


 思わず蒼央さんの横顔を振り向くと、にや、と笑われた。

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