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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-4 小説家とVtuberと友達と:ただ友達と遊ぼうとしただけなのに
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50 私らは焼き肉食べ放題以下ってか?


 心音が海の家に向かったのを見て、伊尾は椅子に深く腰掛ける。


「アオさんはミオのことを随分とこき使うっすね」


 放心状態だった蒼央はハッと意識を戻した。


 さっきまでかわいい男の娘に奉仕をしてもらっていたのだ。仕方もない。背中から鼻の横、まぶたから髪の生え際まで、隅から隅までをすっっっごく至近距離で! 


 それに、耳の裏や膝裏などの皮膚が薄めのところに揉み込むように日焼け止めを塗られたことで「肩揉み」のような気持ちよさがあったのだ。正直に言えば、もっと触れていてほしかったのだが、言える訳もなく。


「ごめん集中してた、わんもあぷりず」


「ミオのこと、結構こき使うなーって思って」


「それはだねー、お、おっほんっ!」

 

 なんてわざとらしい咳払いして、誇らしげに伊尾のことを振り返った。


「わたし雇用主だからさ。なんでもできるのさ」


 親指を立てて自慢げにそう言う。


「今も金を払ってるんです?」


「時給で入ってもらう時とこの手のサービスの時は追加で払う感じ」


 明細表とかはきっちりと送ってるから心配いらないよ、と。


「なんか虚しくないです? それ」


「あんな良い子と無料で一緒にいるのが怖いから」


「はー、そういう感覚なんですねー」


 この手の感覚は大人にならねば分からないものだよ、と胸の中で呟く。

 まだ伊尾は若い。十代なのだから、分からなくても仕方がないのだ。


「逆に伊尾さんはどうなんだい? ミオちゃんと一緒にいて」


「居心地が最高ですね。馬鹿騒ぎって感じじゃないですけど、話してる時だけゆっくりできて、取り繕わなくて良いみたいな」


 質問に即答されて、ほー、と関心をした。


 心音が自然体だからこそ、こちらもリラックスできるという気持ちは理解できる。悩みを相談しちゃいそうになる。これはそう、保健室の先生みたいな感じだ。


「異性としては見てないのかい?」


 なんてジャブ程度に探ろうとすると、


「見てますよ」


 なんて返し刀がきて、蒼央はドギマギした。


 え、え、え、と困惑。それもそのハズである。


 大学では友達ですからと言っていた彼女が、女二人になった時に「心音を異性として見ている」と口にしたのだ。


「それは、えーと」


 蒼央のライバルアンテナが立ち上がった。


「つまり、ミオちゃんを男として見てる……?」


「いいえ。ミオが女で、私が男です」

 

 言葉が足らない伊尾を初体験し、蒼央は変な顔になった。ライバルアンテナもへし折れてしまう。


「って、ミオってお金持ってんのかな。ちょっと行ってきますね」


 ぽつんと一人取り残された蒼央はスッと三角座りをした。


 全くの異文化というか、関わったことのない人物を相手して、混乱したまま瞬きを繰り返していた。


 

     ◇◇◇



 ボクは悩んでいた。


 飲み物を買うとして、氷がざぶざぶ浮かぶ桶に浸かってるタイプか、紙コップに入れられてるタイプか。


 缶ジュースとかよりはこっちの方が良いよな? 雰囲気とかそういうのもあるし。でも値段が高いんだよなー……うーむ。


「いや、雰囲気大事。高いけどこっちにしよう」


「ミオ」


「ひゃっ」


 ひょこっと後ろから出てきたイオにびっくりして変な声がでた。


「お金持ってんの? 財布とか置いてったろ?」


「……スマホで払えるかなって思って」


「え、海の家もスマホでいけんの?」


 チラと受付の向こうにいる男性を見たら、手を◯にしてくれた。

 

「さすが東京。岡山も見習ってほしいわ」


 ここは千葉だけど。まぁ、いいや。


「なに飲みたい? 暑いから炭酸とかが良いかなって思ってるけど」


「レモンソーダ。アオさんはメロンフロートって言ってた」


「あるかな……」受付の人をみると手で◯してくれた。「あるんだ」


 ましろくんも同じ感じのでいいかな。海で遊んだ後……スポドリとかの方がいいのかな。いや、うーむ。海で遊んだことないから分からない。

 

「じゃあ、レモンソーダ3つとメロンフロートを1つください」


「あいよー。合計で3000円ね」


「たっ……」イオが絶句してるけど、まぁ、値段はこんなもんよな。


 ジュースが一律700円。フロートにしたら+200円。うーん、特別価格。

 端末を出してもらったから、払おうとすると横からスッと誰かが入ってきた。


「え」


 ──ぴっ。


「あの……」


 それはイオではなく、全く知らない人。背中の大きさ的に男性だ。アロハシャツを着てるし。


「奢ってあげるから、ちょっとあっちでお話しない?」


「わ」


 わ、わっ……ナンパだ!! ナンパだ!!

 ど、ど、どうしよう。とりあえずっ。

 

「お金返しますので、えっと……」


「もう払っちゃったから。それよりさー、二人で来てるの? 夏休み?」


 ぐいっと詰め寄られて、身体が強張った。

 こわい……っ。武器を持ってないときのゾンビゲームくらいこわいっ。


「ン」


 イオが横から手を伸ばし、3000円を男の胸に叩きつけた。


「これでチャラな」


 ひらひらとお札が落ちていく中、なにが起きたか分からずに突っ立ってる男性。


 イオはレモンソーダとメロンフロートを受け取り、ボクに2つ預けた。そして、その帰り際に、


「3000円で遊ぼうって、焼き肉食べ放題でももっと高けーっての」


 あまりの早業に受け付けの人も笑い、ナンパしてきた男性は海の家のスタッフに注意されながらも慰められていた。イオの言葉はまるで刃物だ。


50話達成です!

いつも応援ありがとうございます。

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