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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-1 小説家とVtuberと友達と:ただ女装をしただけなのに
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05 女装をしたまま講義を受けるハメに


 よりにもよって……今日が出席を取る『選択外国語』の日だとは……。


 学生証を入り口にかざして指定の席に座る。

 必修科目の一つで、小中高のようなスタイルで行われる授業の一つだ。

 ちなみにボクは中国語を選んだ。

 これは授業を取る時に「中国語が簡単らしいよ」という顔も名前も知らない人が言っていた言葉を信じただけ。確かに英語よりかはとっつきやすさはある。


 が、そんなこといま、どうでもいいのだ。

 

「おい、あんな奴いたっけ……?」

「部屋間違えてんじゃね? 先週まであそこに座ってたのって誰だっけ?」

「覚えてねぇけど……あんなかわいい子じゃなかったと思う」


 最悪だ。授業が始まると点呼が始まる。

 逃げるか? 逃げちゃう? いや、でも……この授業の評価は出席の割合が高いんだよなぁ〜……! どうにかして点呼だけでも逃れられたら……。


「心音くん〜、昨日はありがと〜」


「……?」


 あ、えーと、合コンに誘ってくれた人。名前は……


「……え、と、伊尾さん」


「さん付けなんていいよぉ〜。それにしてもどうしたの、その格好」


「……色々あって」


「色々あって、昨日のままか」


「うん……」


 伊尾さんと連絡先を交換したのがこの講義だったか。学生証イベントの奴だな。

 ……知り合いと会いたくなかったってのは本音ではあるんですが。


「伊尾〜。知り合い?」


「あ、うん。えーと」


 必死に目で訴えかけた。


「ちょっとね。戻ろ。そろそろ授業始まるし」


 よし、伝わった。「この子、昨日合コンに誘った男の子。女装をしてるんだ」とか最悪な紹介がされなくてよかった。ナイス回避。

 合コンに誘ってきたときには気が触れたかと思ったけど、なんとか傷は最小限に抑えれそうだ。


(だけど……そろそろ)


 ガラガラと扉が開き、先生が入ってきた。


「はい席に座れ~。点呼を取るぞ」


 入ってきて早々に点呼が始まった。五十音で早い順から名前が呼ばれて行く。

 そして、この先生のいいとこでもあり、悪いところでもあるのは……顔をちゃんと確認するところ。座席が五十音順に並んでるから席の横を通りながら顔を確認するのだ。


「次は……木下さん」


「はい」


「……?」


 必死に目で訴えかけてみた。もうこれしかない。

 訳ありなんです。分かってくださいますよね。

 この思いッ、届け──ッ!

 

「………………えーと。本人の代わりに出席ですか?」


 終わった。

 伝わらなかった。そうだよなぁ。替え玉で受けに来たって思うよなぁ。

 だって、いつもと見た目違うし。

 そりゃあそうか。はぁ〜……。


「……本人です」


 スッと学生証を差し出す。

 顔を見比べられ、何かに気付いたような顔になった。


「あ、あぁ〜……うん。おっけ。うん。じゃあ次は──」


 変に気を遣われたのも傷つくし、誤解されたような気もして嫌だ。

 もちろん。この後の授業内容なんてものはまったくもって頭に入ってこなかった。





 

 授業が終わった瞬間、教室を飛び出して重たい扉──学生証を通さないと開かない扉──を開けた。今のボクは猫だ。軟体動物だ。ススス。


「ふぁ……ふっ……ひ」


 勢いそのままで一階の勉強スペースの端に座った。

 えーと、次の授業は……っと。


「あ、空きコマ……」


 一限目が9時から10時30まで。

 二限目が10時45分から12時15分まで。


「家に帰るか、昼休み分の余裕もあるし──」


「心音くん」


「ひっ。……あ、なんだ。伊尾……さん」


 追いかけてきたのか? 結構、早めに出てきたと思うけど。


「二限目なに?」


「空きコマだけど」


「お、一緒! じゃあさ。ご飯たべね?」


「え?」


 なんで──まで言葉で出たらいいんだけど、口が止まった。うん、ビビリめ。


「昨日は私のお願い聞いてくれた訳だし。ちょっとお礼? っていうか、せっかく来てもらったのに……申し訳ないことしたし」


「あー……」


 ぶっちゃけ、陽キャとの接し方が分からないのだ。陰キャとの接し方も分からないけどさ。


「あ、無理ならいいんだけどサ。」


 でも、そういう顔をさせたい訳でもない。


「……いっつも、あの、眼鏡の子と一緒にいるけど。その子と食べるんじゃ?」


「あ、タローのこと? アイツ社会学部で二限目があるのよ。この前はたまたま講義が被ってただけ」


 ボクと同じ感じか。

 小学校から一緒の友達が違う学部にいて、友達作りに成功してからというもの一切連絡をよこしてこない。

 前は一緒に学食食べてたのにさ。でも、陽キャもそういうのあるんだ。


「……そういうことなら」


「お、マジ? やった〜」


「お、奢ってくれるんだよね? おかねなくて……」


「任せなって。とりま、ラーメン食いに行くべ」


 ガチッと肩を組まれて学部棟を出ていき、開店と同時にラーメン屋に入っていった。


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