49 ミオの水着は破壊光線
「遠路はるばるきた海! すっかり昼過ぎだぜ! 子どもばっか!」
「駐車場に停めれたのラッキーでしたね、ホント」
車の外ではしゃぐ三人を車内から見つめ、ため息をこぼす。
ボクの手元にある買い物袋。その中には蒼央さんとましろくんが買ってきてくれた水着が入っている。
──こんこんっ、とノックされたので窓を開けた。
「なんです?」
「どー? 見てみた? 水着」
「見てみましたけど……これ、女物ですよね? 上着みたいなのついてますけど」
「そりゃあそーさ! 全体にゆたりのある水着の上にシースルーを着てエロさを演出! 鼠径部もピッタリなのは避けてショーツを選んだ! 絶対に似合うよ!」
わかりやすく言うと、スケスケの上着にワンピース系の露出控えめな水着だ。
ピッタリしてないだけマシだけど。……今更か。
「……うん……着ますねー」
「男女で別れて着替えます? ましろくんも一緒に着替えなよ」
「え”っ”、ぼくはあとでいいです……」
「そーだね。更衣室も混んでるっぽいし。ほら、入った入った」
「でも、お姉さんが着替えてて……」
遠慮してるましろくん。こういうのはつべこべ言っても強引に押し通される。なので、扉を開けて手招きをした。
「おいで」
「は、はい……」
ましろくんを招いて車内で着替えた。昔は狭くても着替えれたけど、さすがに大学生にもなれば狭いよなー。
上着を脱いで、下着も脱いで、スムーズに着替えていく。すると、ましろくんの手が止まってた。
「どしたの?」
「い、いえっ……おねえさんと一緒に着替えるの……その、緊張して」
「え? あー……」
そういうことか。思春期特有のやつね。
お互いのは見たから気にしてなかった。年頃の男の子なら同性でも見られるの嫌だよねー……。配慮不足だった。
「お姉さんが良いなら……良いんですけど……その」
「早めに着替えて出るから、ちょっとまってね」
「いやっ、あ、はい……」
テキパキと女物の水着を着て、車の外に出た。早く出るって言った後、なんでちょっと残念そうだったんだろうか。見間違いか……?
少ししてましろくんが出てくると、交代で蒼央さんとイオが中に入って着替え始めた。このために車内を隠せるカーテンを買ってきたのはさすがだなー。
「その水着買ったの?」
「はい、おねーさんの水着と一緒に」
「いいじゃん。かっこいい。似合ってる」
「おねーさんのも……綺麗です」
「へへ。ありがと」
なんてやり取りをしていると、女性組も車から降りてきた。
「わあ……すごい」
イオはシンプルビキニ。上着を着てるのに破壊力が凄い。
蒼央さんもビキニ。腰にパレオを巻いて露出を控えてるんだけど……。
(ふたりとも凄い破壊力……直視するのが申し訳ない気がする)
そうだよな。イオも蒼央さんもそういうのを着ても似合うよな。蒼央さんは大人な雰囲気があるのもいけるし、イオはいうまでもないし。
「ミオちゃん聞いて、伊尾さんの凄いデカい。たわわのわわわだよ」
「ここだけはデカいんすよねー。ほんと邪魔なんすけど」
って言いながら胸を下から持ち上げ……見ないでおこう。
「でも、アオさんもでかくないすか」
「人並みにね! キミのは規格外というんだ。普段は隠してるの? 苦しくない?」
「苦しいっす。でも、慣れたっすねー。あと、最近は隠すのも便利なのも増えてて」
なんて話してる二人。あんな二人を前にして、こんな貧相な身体のボクが女装をしてさあ。はあ、恥ずかしい……。
「にしても、心音くんの水着姿ヤッバ」
「お世辞は良いですよー……分かってるんで」
「いや、ミオ似合ってるぞ」
「はいはい。良いから」
「破壊力すごいよ。胸がないのがむしろクリティカル特化の破壊光線というか」
なんだそれ。ボクの水着姿が破壊兵器な訳ないだろ。
「ましろくんはどう思う」
「刺激が強いです……」
「そんな訳ないだろがいっ」
はあ~……もー、みんなしてそうやってイジってくるんだから。
◇◇◇
海に遊びに行く前に荷物を運んだ。ビーチパラソルに折りたたみの椅子。うっきうきで用意してくれたのが分かる。
「わーーー! うみっ、海ー!!」
設営途中でましろくんが我慢できずに海に飛び込んでいった。
「おねーさんも! 一緒に泳ぎましょー!」
「ボクかなづちだから~、ごめんねー」
「えー!」
結構距離あるから声を張り上げるの大変だ。
「楽しんできて~!」
「分かりました! 全力で楽しんできます! ウオオオオ!」
あれで友達いないの嘘だよね。
運動神経もいいし。ハーフだし。色白だし。かわいいし。Vtuberをしてるからトークスキルもあるし。……あんなましろくんでも友達出来ないんだから、ボクにいなくてもおかしくないよな。
「よし、これで完成です」
ふぅ、と汗を拭っていると蒼央さんがビーチマットの上で横になった。
「ミオちゃん日焼け止め塗って! あと飲み物も買ってきてほしい!」
「はいはい。背中以外は塗ったんです?」
「塗った!」
手の上にたっぷりと日焼け止めを乗せて、蒼央さんの肌につけていく。
「さて、ここで質問だ! ばーばんっ!」
「はいはい?」
「漫画だったら男性側が興奮するシーンだけど! 今の気分は!」
「いつも背中とか腰を揉んでるからなんともですねー」
「くそっ……スキンシップが多すぎたかっ」
うつ伏せだと胸元が見えないし、下半身も見ないようにしたら問題ない。変に意識さえしなければ大丈夫なのだ。あと、蒼央さんへの耐性はここ最近ついてきた気がするから、ひょんなことじゃ動じないさ。
で、一通り背中には塗ったけど……確認してみるか。
「背中終わりましたので、次はこっちむいてください」
「ん……?」
蒼央さんをこっちに向かせて、髪の毛を持ち上げた。
「ひゃっ……え、み、ミオちゃん」
「やっぱり、髪の生え際に塗り忘れてますね」
「……へ?」
「あとはー……そうだな、目を閉じてください。まぶたとか。……耳とか? 膝とか、膝の裏は塗りました?」
「まだ……」
「じゃあ塗りますね。口とかは紫外線カット用のリップクリーム持ってきてますけど、塗りました?」
「……まだ」
「じゃあ、はい、むー……」
「むー……」
唇に持ってきておいたリップを塗っていく。
姉さんにもこうやって日焼け止めとか念入りに塗らされたからなあ。し忘れる場所って結構多くて……。
「なんか、興奮するね」
「しません」
唇にリップを塗り終え、耳の後ろに塗るために身体を近づける。目が合うと溶けるように笑ってきた。怖い笑みをしないでほしい。
あとは、蒼央さんをひっくり返して膝の裏を塗ったら完了だ。
「髪にも使える日焼け止めのスプレーを持ってきてるので使ってくださいね。ここ、置いておくので」
「え、もう終わりかいっ!? もっと、その……塗り忘れの場所とか」
「もうないと思いますけど……あったらごめんなさい」
塗り忘れが多いところには塗ったし……大丈夫だろう。
「じゃ、飲み物買ってきますね。ゆっくりしててください」