48 行くぞ! 海!
残りのテストも順調に終わらせていった。
図書館の閉まるギリギリまで勉強して、閉館したら蒼央さんの家に戻って、日付が変わるくらいまで勉強。イオとも通話をしたり、家にお邪魔したり。
テストの日が別れてる方が1教科に集中できるからすごいやりやすい。高校もこのシステム導入してくれないかな~。
でも、人によってはテストがギチッとまとまってるらしいから、教科の取り方が良かったのか……? うーむ、秋季に期待。
そして、最終日の地域経済史。
「テスト開始ッ」
配られた用紙をひっくり返して、テストを解いていく。歴史的な内容だから暗記系だ。うむ、問題は解きやすい。
というか、テスト特有のペンの音が重なって聞こえる現象、あまり好きじゃないんだよなー。え、みんなそんな解けてるの……!? って焦るからさ。
「どーだー。問題解けてるかー」
テスト開始から30分が経った頃、小柄な女性教授がやってきた。目立つ髪色だよなー。美味しそうなさつまいもみたいな色してる。皮の方だ。
『なんか、私、学生から挨拶されねぇんだよなー。なんでか考えようぜ』
って講義中に愚痴ってたっけ。多分、体型と髪色のせいだろうけど、誰もそんなこと言えずに濁した思い出。
「講義中にもいったが、私のは出席点がデカイからな。五回来てないやつはもうアウトで、四回休んだ奴はテストの具合次第。二回くらいならまあ大丈夫だろーって感じ」
学生の様子を見ながら教授はそういう。
「基礎が出来てりゃ単位はあるぞ。応用まで行けたらオッケーみたいな感じ。テスト内容以外の質問がありゃ聞くけど、なんかないかー。なんもないなー?」
「……」
「秋学期が始まりゃあ、ゼミの選考が始まっから。だよな? たしかそうだよな?」
テストの試験官(他の講義の教授)に聞いて、頷かれていた。
「選考だけだけどな。ゼミは二年生からな。教授の部屋に行って色々アピールしたり面接したりするのが秋学期からで。その時に私らは点数とかで評価するから、頑張って取っとけよ。分かったな!」
(凄い喋る……気が散る……)
「分かった? 分かった?? 返事しろよ、オイ」
「あの、テスト中ですので」
「あ、そっか。悪い。どうせ暇だからもうちょっとゆっくりしていくわ。質問ありゃなんでも聞いてくれなー」
居座った……。
この人、GW終わりの初授業でも「人少ないから小テストします~」ってやってた人だから人気ないのかなー。講義は面白いのに。
「時間が来ましたので、終わった方は退出可能です。戻ることはできませんので」
よし、見直しも出来たし……出るか。
鞄に筆記用具を突っ込んで、立ち上がると前の方の人も立ち上がった。
「……!」
イオだ。ちょっと笑ってきた。出来たんだな。
階段を降りて女性教授が座ってるところに紙を置いて。
「もう終わったのか~? ピンクちゃん」
(ぴんくちゃん?)
え、ボクのこと? ボクしかいないか。
「終わりました。せんせーの授業、面白かったので」
「ふーん? なら、良かったよ。来季もよろしくね」
なんでボクにだけ言うんだろう。いや、一番最初に立ち上がったから……?
「わ、分かりました」
「フフ」
不思議な人だ。
イオが外で待ってるから、教授に頭を下げて外に出た。
「どだった?」
「ばっちり。イオは?」
「見落としがなけりゃ満点な気がする」
二人で笑いながら建物の外に出た。
テスト期間も終盤だからか、道という道に人があまりいない。
「もう今日から夏休みに突入か……9月の中旬まで休みは長いなー」
「でも、期間でいうとぶっちゃけ中高と変わらねーよな」
「だけど、夏休みの宿題がないのはでかい……」
「たしかになー。サークルも夏休みはあんまって言ってたし。知り合いは海外旅行やらリゾートバイトとかするって言ってたなー」
わあ、なんか想像つくけど、硬派な陽キャなんだ。金の出どころが分からないくらい頻繁にBBQしてるイメージあった。
「ボクはバイトと……」
VTuberを始めるってのは伏せておくか。
「まぁ、バイトかな」
「ぶっちゃけ私もそんな感じだなー。でも、今日だけは一味違うぜ」
大学の校門が見えると、ヌッと車が現れた。え、結構デカ目の車。SUVか。
助手席の窓が下がっていくと、サングラスをかけた二人が見えた。
「乗りな、お嬢さん方。砂浜行き白濱号、発進するぜ」
「発進するぜ」
すごい浮かれよう。ましろくんが楽しそうで良かったよ。
「やったー、お迎えありがとございます~」
「蒼央さん、安全運転でお願いしますね」
後部座席に乗り込むと、後ろに色々と積み込まれてるのが見えた。
あー……だから、デカい車を……。
「よっしゃ、シートベルトの着用をお願いします。あと、命の危険を感じた時に被るヘルメットも用意したぞー」
「あ、ほんとだ」
なんで?
「なんせこんなデカい車、運転したことないからよ~! しっかり捕まってな!」
「ちょっ──」
カーレイスばりの動きでチェンジを動かし、急発進をした蒼央さん。
「安全運転って言いましたよねー!!」
「ケハハハハ! おもれ~!! あー!! アオさんサイコーす!」
「だろー! このまま行くぜ!!」
ダメだ、イオもテンション上がっちゃった。
ましろくんも平然としてるし。アメリカの方が荒波だぜ、みたいな顔してる。
『大学生を含む車が事故に遭って──』
みたいなニュースになりませんように、とシートベルトとヘルメットを被って身を縮こませた。