46 乳首丸見えの水着ってコト?
みんなで昼食を取った後、二人は「ミオちゃんが終わるまで待ってるよ〜」と言って、本当に日が暮れるまで大学内で待ってた。イオさんは家の方向が違うから、また明日~と言って別れた。
「海、どこいくかな~」
少し暗くなった道を歩きながら蒼央さんがスマホを取り出す。
海の場所を調べようとした画面に『ペット 預ける さみしい 買主側の気持ち』って文字。どんな検索履歴なんですかね……見なかったことにしよう。
「千葉か茨城か! 高速乗っていけば余裕かな」
「え、テスト終わってそのまま行くつもりですか」
「当たり前よ~」
「ですよ~」
テスト後に海で泳ぐ体力ないなあ……。
「そして、海から帰ったら配信ですよ!」
「ひぇ……」
体力オバケすぎるかもソレは。
それにしても二人と一緒に外を歩くのは何気に初めて……? 引越作業の時に歩いたけど、大学と家の道を歩くのは初めてか。
(なんか、自分の世界に二人が入ってきてくれたみたい)
夕焼けにボクらの影が薄く伸ばされて、街頭もチカチカ点滅して点いて……エモい──って言葉で片付けるのは蒼央さんがいる手前、したくないけど……なんか、良いね。
「良いですね。こうやって歩くのも」
「みんなで歩いてるだけですけど、なんだか楽しいですよね!」
「外に出るって大事よね。分かってはいるけど、分かってるだけって感じ」
「たまには良いんじゃないんですか?」
「たまにはね~」
なんて話しているとあっという間にマンションの前についた。
「じゃあ、ボクの家はあっちなので」
そう言い、別れようとしたら、そのまま腕を組まれて蒼央さんの部屋にまで連れて来られた。
「あの……え?」
「提案をしたいんだ! 聞いてくれっ!」
バンッと扉を開けて、蒼央さんが申し訳無さそうに頭を下げてきた。
そして見えたのは、汚れた家の中。
「…………」
「私の家の方が大学まで近いから、勉強はうちでやってくれないかい……!」
突然の申し出にビックリ。ましろくんも驚いてる。知らされてなかったらしい。それにしても「大学まで近いから」って理由で、ね〜?
「本音は?」
「…………ミオちゃんがいないとなにも出来ない……仕事も手につかなくて……」
「ボクになにをしてほしいんです?」
ため息を吐きながらそういうと、びくんっと身体を跳ねさせた。なんか嬉しそうな反応だな……?
「料理と……掃除と……スケジュール管理と睡眠導入と癒やしを」
「はあ……ボクがいなくなってまだ数日ですよ?」
でも、ましろくんがいる前で正直に言うなんて。そんなに追い詰められてるのか……? こんな部屋じゃあ集中もできないか。
「分かりました。でも、テストが始まったらでお願いします。テスト期間だけは実家で勉強させてください」
「それでも良い! それでお願いします! 来てくれた日は休日出勤として扱うよ!」
うむ。それなら良しとしよう。
「じゃあ、今日は来たついでなので掃除をします。あと、せっかくなので三人でご飯を食べましょう」
「え、やった! おねーさんの手料理!」
「冷蔵庫の中身は空だと思うので、二人は買い出しをお願いしてもいいですか?」
「分かった!」
「分かりました!」
「なにが食べたいか二人で話し合って、それを調べて、人数分を買って来てください。お酒を飲みたいならお酒も買ってきていいですし。でも、惣菜が多めだとお金がかかっちゃうから──」
「うん! 任せて!」
「行ってきます!」
「じゃあ、帰って来るまでにある程度掃除しておきます」
二人がダダダと駆けていったのを見て、一人でため息をついた。仕方ないなあっていう気持ちと、ボクがいないとダメなんだからという気持ち。
綺麗な状態で畳まれてたエプロンを着て、きゅっと蝶々結びをして――
「……本当にママみたいになってるな、ボク」
陰キャの大学生がママになるって……どんなだよ。
◇◇◇
二人が帰ってくる頃には、掃除をあらかた終わらせた。
数日ぽっちではそこまで汚れはしないのだ。ただ、物を適当に投げてるからこうなってるだけで、水回りとかは比較的綺麗。シンクはまぁ、汚かったけど。
で、二人が買ってきた食材を調理しながら、ゴミ出しも頼んで、食器の用意もしてもらって……。
「よーし、行きますよ~」
鍋ごと持っていき、食卓の中心に置いた。
どうやら鍋が食べたいという意見にまとまったらしい。夏なのにね。エアコンがぶつくさいいながら冷やしてくれてるのが聞こえるよ。
「鍋って良いよねー……いつ食べても美味しい」
「味噌の鍋はあったかいし、〆になに入れても美味しいですよね」
「〆は買ってきたラーメンです! チャーシューも買ってきました」
美味しいけど、さすがに暑いな……汗かいてきた。
「はい、全部食べてくださいね。第二陣行きますから」
二人に食べてもらってからまた具材を突っ込んで調理していく……ん。
「……どーりで美味しい訳だ」
買ってきた食材を見てみると値段が高かった。どこのスーパーに行ったんだか、肉も見たことない包装されてたし、鍋の素も見たことないメーカーのだ。
二人に買い物を任せるの辞めておこう。食費が凄いことになっちゃう。
「最近、ましろくんの元気が無かったからみんなに心配されてたんだよ」
調理をしていると蒼央さんがそんな話をしだした。
「コメント送ってましたけど、全然普通に見えましたよ?」
「ミオちゃんがコメントしたときだけ元気になってたの!」
「そんなに態度に出てました?」
「もう露骨に」
「そっかぁ……テスト期間も相まって、ちょっと忙しくて」
「無理してない? 大丈夫?」
「大丈夫です! でも、お姉さんがいてくれた方がもっと大丈夫です!」
「ましろくんにそう言われると弱いなあ」
「私もミオちゃんがいたほうがもっと大丈夫だぞ!」
「あはは」
「笑い事じゃなくてだな」
鍋の第二陣目も持っていき、すぐになくなって、〆のラーメンを作ることに。
「そういえばさー、ミオちゃんって水着持ってるの?」
「え、持ってないですよ? 高校の時の奴も……捨てた気がしますし」
「男子高校生の水着ってあの乳首が丸見えの奴?」
「男性が着る水着は全部丸見えですよ」
「お姉さんのも丸見えだったんです?」
「まぁ、学校指定だったから……」
「…………やば」
ましろくんの語彙力がなくなってる。蒼央さんもニヤニヤしてるし。そう言われたら恥ずかしく思えてきた。いや、別に良いと思うけどさ。
「スク水とかはないの?」
「あるわけないでしょ」
「みおってひらがなで名前が入ってる」
「ないですって」
小学生でもないよそんなの。昭和とかの話じゃないのかな。
「じゃあ、ママの寸法知ってるから私が買っとくよ」
とうとうママって言い出したよ。
「いや、べつに……自分でかいますから」
「だーめ! そうだ、ましろんも一緒に選びに行く?」
「はい! ぼくも水着持ってないので助かります」
ああ、また話が勝手に進んでる……。
「じゃあ、テスト終わってからそのまま海に直行ね。持って行く物は全部用意しておくよ! ミオちゃんはテストを受けに行って、そのまま車に乗ったらそれで良し!」
「……拒否権は」
「ないよ~」
「ですよね……」
ましろくんが同伴だから、変なのは買ってこないと信じたい……。いや、ましろくんは最近蒼央さんに変な影響受けてるから……ううう。
テストに集中したいのに、色々と考えることが多いぞ、くそお……!