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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-4 小説家とVtuberと友達と:ただ友達と遊ぼうとしただけなのに
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44 蒼央のバトルモード



 木下心音がテスト期間で家に来なくなって数日。

 そろそろテストが始まるだろうという時頃にて。

 

「わあ。なんだか、懐かしい光景だあ……」


 白濱蒼央は腰に手を当てて、ぐちゃあとなった家を眺めていた。


 初日から三日までは綺麗だった。


 ただ、ゴミを出さないといけなかったり、食器を洗わないといけなかったり、取ってきた物を元の場所に戻さなかったり、心音に着させようとした衣装が入っていた段ボール箱の処理だったり……。


 それらが積み重なって……心音が来る前の住居の姿になったのだ。


「ミオちゃんがいないとこの家はダメだな~、全く」


 全てを家のせいにした蒼央は、隣の家のインターホンを押した。出てくるまでの間に髪の毛を直しておき、変な匂いがしないことを再度チェック。


「はあい?」


「やあ」


 心音の朗らかな口調が移った哉草真城が登場。

 この時間は配信をしていないことを知っている。

 彼もまたテスト期間で学校が早く終わるのだ。


「ぼくも忙しいんですよ、あおさん」


「うん。テスト期間だもんね」


 いつもより、つん、とした様子の真城。


 数日前、蒼央が心音用の服を渡して「着てくれないかい」と詰め寄ってからこの通り。まるで主人を避ける猫のような態度だなー、と蒼央は思い、口元に余裕の笑みをたたえた。


「ミオちゃんがいないのに耐えられないから、ミオちゃん成分を得にいかないかい?」


「えっ! 行きます!!」


「よっし!」


 心音関連の話題で真城が首を横に振る訳がないという自信は的中。大学には徒歩圏内だから二人で歩いていくことに。


 外行きの姿になった蒼央は日傘をさして、サングラスを着用。


 真城は少年らしさが残る服を着て、特に日焼け止めなども塗っていない。ただ、その歩みはスキップと徒歩を足して二で割ったような歩き方になっている。


「あちぃ……昔はもっと涼しかったのに……40度ってなんだよ」


「日本の夏は他の国より暑い気がします……」


 道中に自動販売機で飲み物を買い、時折日陰で休憩をしながら進んでいく。外行きの姿の蒼央だが、暑さに負けて化けの皮が剥がれてきている。


「テスト勉強は順調かい?」


「学校と配信終わりに時間を取ってます」


「真面目でよろしい」


「蒼央さんの学生時代はどうだったんですか?」


「……学生かあ~」


 途中で買ったアイスを食べながら、蒼央は太陽が眩しい空を見上げる。


 自分の学生時代を思い出そうとして――顔をしかめた。


「うぐ、あたまがっ……! 黒歴史ばかりチラつく……!」


「あ、無理に思い出さなくても大丈夫です!」


 年下に気を遣われながら蒼央は大学に到着し、そのままズシズシと入っていく。


 大学は基本的に一般公開がされている。講義は学生証を持っていないと受けられないことがあるが、大学構内は一般人であっても立ち入り可能だ。

 

 校内マップを前にして二人で心音のいるであろう場所を指差して写真を撮って、それを頼りに歩いていく。事前に教えてもらった講義通りに行くと、そろそろ講義室から出てくるハズ。


「見つけられますかね」


「ピンク色を探せばすぐに見つかるはずさ」


 そこで粘ること数分。ピンク色の髪の毛が見えた。


「いた! いたぞ!」


「出てくるのを待ってから捕まえますか」


「ああ。他の学生の邪魔にならないように……って」


 心音と一緒に出てきたのは金髪でギターバックを背負ってる女性。


 かなりボーイッシュな部類で、タバコが似合う出で立ちで、世界が終わっても機械とかいじって泥臭く生き残るタイプの──伊尾祈織だ。


 そんな人と手を組みながら出てきた姿を見て、蒼央の脳内の細胞が死んだ。


(ねっ、ね、寝取られてる……っ!!)


 テスト期間と嘘をついて、新しい女とイチャイチャしてたんだ! なんて蒼央が考えていると、視線を感じた伊尾は二人を見て眉を潜めた。


「私らに何か用?」


 つんけんした様子で言われ、蒼央は何も言い返せれなかった。


 大人モードの蒼央なら誰に対しても対等に話をすることができる。だというのに声が出なかったのは、心音が他の女性と手を組んでいる姿に心が耐えられなかったのである。


 その心情を察した真城が横に歩み出た。


「お姉さんのお友達で、ちょっと顔が見たいなーって思って」


「お姉さん……? ミオの知り合いか?」


「え? あ、えっ。なんでここにいるの……?」


 そこでようやく蒼央達の存在に気づいた。スマホを見ながら歩いていたせいである。


「知り合いなんだな」


「う、うん。バイト先の……上司と友達」


 と言った辺りで、自分が伊尾と腕を組んだままだということを思い出してパッと腕を離した。


「あ、コラ。最近は変な奴に声を掛けられるんだから離れんな!」

 

「あのっ、そのっ……恥ずかしい、から」


 蒼央は目の前で繰り広げられるイチャイチャに唇を血が出るほど噛み締めた。恥じらう心音の姿は可愛らしいが、その相手は知らない女。胸が張り裂けてしまいそうだ。


「知り合いなら挨拶しないとだな」


 そして、その感情は嫉妬から怒りへと変わる。


「私はミオの友達の伊尾って言います。どっか店に入って話します?」


「望むところだ」


 蒼央、バトルモード突入のお知らせ。


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