41 あ、テストのこと忘れてた
「では、これにて納品完了ということで。あ、動作も確認済みなので」
あの後、ボクがリアル大学生という話になって蒼央さんとねこ餃子さんが何やら揉めてた。ズルいだのなんだのって。ズルいってのは何なんだ。
あと、ボクが男ってことは知ってるって言われた。VTuberの設定イラストを作るミーティング中に蒼央さんが毎回ボクのことを自慢していたらしい。最初はとうとう妄想を喋りだしたのかと思っていたら、本当に実在して驚いたって言われた。
「で、いつから配信開始します? リアタイ絶対しますので」
タブレットをしまいながらねこ餃子さんがそう言う。
「今日帰ってからとかどーです!? 酒とツマミ買って帰りますけど」
「動作確認をお姉さんの方でもして、設定もしたいし、一通り動かしてみてからの方が良いと思いますから……明日とかの方がいいかな……」
ましろくんが先輩の立場からそう言う。
「初配信の準備も考えたら明後日とか。そしたら週末も来るしー、あ、月初とかの方がいいのかな?」
「初配信でなにするかも結構重要なので。チャンネルは今ある奴でして、配信の始めに編集した動画を流してお姉さんの姿が出てくるようにして、そこから配信を始めるとか?」
「そういう演出も好き~。でも、動画を作る必要があるのが……となったら、SNSアカウント作って告知とかもして……うあああ、早くみたいなあ~」
ボクそっちのけで盛り上がってる。四角氷をガラガラと回しながらカレンダーを思い浮かべる。
今週末……今週末? って、あれ?
「お姉さんはどう思う? 初配信いつしたいです~?」
「いえ、その……えっと」
大学で教授が言っていた「そろそろ勉強始めておけよ~」との言葉を思い出す。
学生なら避けて通れないイベント。定期的に開かれる、落としてはならぬモノ。
「あの……テスト期間が近くて」
「テスト期間……!! えっ、もうそんな時期っ!?」
「はい……」
「この前やっとGWが終わったと思ったら……もうそんな経ってたのか」
「大人になるとそういうの分からなくなるよね。特に私らはさ」
「ねー……ならましろくんの方もそろそろ?」
「ですね。配信終わりにやってますけど……厳しそうなので、ちょっと配信の頻度下げようかなって思ってます」
「うがー……推しからの供給がぁ……」
「補給線が絶たれたっ……終わりだあ」
あ、それで思ったけど、テスト期間なら……。
「蒼央さん、その、テスト期間はお休みをいただこうかと思ってて」
「ええっ!? ということは家に来てくれないのかい!?」
「大学のテスト初めてなので、勉強頑張ろうかなと思ってまして」
「はぅっ……」
講義中に「最初に点数稼いでおけよ~、後々しんどくなるからな」って言われたし。
あとは成績優秀者には何かもらえるみたいなのもあった気がするから、やっておいて損はないだろう。
「じ、じゃあゲームとかは!」
「ゲームも……勉強は大学と実家でしようと思ってるから」
「そんなあ……」
項垂れる二人に苦笑いを浮かべた。
すると、ねこ餃子さんが机を挟んで手を出してきた。
「じゃあ、配信は夏休みに入ってからですね! 楽しみに待ってます!」
ソレが握手ということに気づいて、ボクも急いで手を握った。
わ、ペンだこがある。そうか、イラストレーターさんだもんな。
「精一杯頑張ります。ねこ餃子さんもありがとうございます、その、色々……」
「ママって呼んでください」
「え?」
見上げてみると、ニッコリとした顔に影がかかってた。え?
「配信に行きますから、ママって呼んでくださいね? 楽しみにしてますので。はい、って言われるまで離しませんから」
「はい……ママ?」
「でへっ……やば、モロにもらった。やばっ、ニヤケ止まらん」
満足そうだからいいのかな。
「せんせいの家に飽きたらうちにおいで? してほしい仕事がたくさんあるから」
「こらあ! 人のママを取ろうとするんじゃないぞ! ねこ餃子!」
「ダブルワークだよ、ダブルワーク。なにも変なことじゃない」
「競合禁止だぞウチは!」
「デタラメいうな! 私だって癒やしがほしいんだ! 若い男の子を拝ませろ!」
机の向こうでギャアギャア言い合いをする蒼央さんとねこ餃子さん。
ボクの隣では「テスト期間なんてなくなっちゃえ」と呟くましろくん。
そして、色々ありすぎたおかげで媚薬の効果が切れたボク。
大学に入っての初めてのテスト。それが終われば、VTuberとして配信かあ。
(数ヶ月前の自分に言っても信じてもらえなさそうだ)
猫みたいな生活じゃなくて、ママみたいな生活になってるけど。
これはこれで良いんじゃないか?
……本当にいいのか?
(VTuberの勉強もしておかないと……変なことしたらダメだし)
今から、配信のことを考えると胃がキリキリしてきた。
これにて第1部3章が終わりました。
かけば書くほどヒロイン枠をましろに取られる蒼央が不憫で可哀想ですね。
次章は第1部のタイトルにもある「友達」部分にフォーカスした話となっています。
本来は1章だけを投稿していたのが、好評でしたので2章、3章と書かせていただきました。
皆様のいいね、ブックマーク、評価、大変励みになっております。
コメントやレビューもどしどし送っていただければ、全てに目を通させていただきますので、お気軽にお送りください。
引き続き、よろしくお願いいたします。