40 お姉さんVTuber計画
「ぼく、そんな、無理だよ! トークとか全然下手だし!」
ワガママってVTuberになるって話だったのか……!! 想定外過ぎるっ……!
「わがまま聞いてくれるって言ってくれました!」
「言ったけどぉ……!!」
でも、キャラクターが完成してる時点で、ボクに拒否権なんてないし、みんなはボクが断るだなんて微塵も思ってない。
断らないけど、抵抗はしたい……!
「蒼央さんは、えーと、どこまで……」
「ん~? 最初からだね。なんならこの話を持ち出したのは私さ」
「お姉さんが先生の家で仕事をするようになった頃、ですかね? 次の表紙の話をしてる時に相場感とか聞かれましたよね」
「そう。その後に、ましろんがお姉さんを配信者にしたいって言ってて、話が加速したって感じかな」
思ったよりも初期の方からあった話だったのか……!!
「でも、なんで、二人は……ボクをその」
「だって、仕事中にミオちゃんの声が聞きたいと思って。ましろんも毎日配信してる訳じゃないしー」
「ぼくはお姉さんと一緒に配信したかったので」
それで、蒼央さんの小説の表紙を書いてる人でましろくんのVTuberのイラストも担当してるねこ餃子さんに依頼したのか。
なるほど、流れはわかった。”ながれ”はね!
「でも、普通の配信者として活動したって……」
「それも考えた! ミオちゃんは顔も良いし。でも、学生のうちから顔出ししちゃうと就活とかで不利になっちゃうかもだからさ」
思ったよりも正当な理由でなんにも言えなかった。ボクもましろくんにそんなことで「Vtuberの方がいいよね」って言った気もするし。
「でも……わざわざイラストを書いてもらうのも……大変だったんじゃないですか?」
「私は依頼の前からイラストを何枚か上げさせてもらってたので。なんてったって、ラーメンよりうどん派を応援してたからね!」
「……もしかして、あの餃子の中に猫が居心地良さそうにいるアイコンの方ですか」
「です! え、認知してもらってるんですか!! うれしー!」
あの18禁イラストこの人か!!!
やばい、思い出した。ああああああ、冷静になれっ!! アイスコーヒーグビーッ!
媚薬の効果ってどれくらいで切れるんだ……? アイスコーヒーのおかわりを頼んでおこう。あ、シロップ多めで。
「先生結構『おねまし』のイラスト上げてますよね~」
「おねショタのカップリング大好物ですので。無垢な男の子に経験豊富なお姉さん。最高です」
本人の前でそういうの言うのはどうなんだろう。ましろくんも気にして……ない!? この子のメンタルが分からなくなってきた。
「あと、先生に依頼した後に、待機画面の動画も依頼したんですよ。事前に資料をいただいていたので、ぼくのを作ってくれた所に連絡してですね」
ましろくんは鞄からノートパソコンを取り出しながらそんなことを言い出した。
液晶に映し出されのは小さくてドット絵の『お姉さん』が料理や掃除をテキパキしてる動画だった。
「わああ~、かわいい~。お姉さんっぽい」
「途中この椅子に座って温かい飲み物飲むんですけど、あ、ココ! 可愛いですよね」
「すごいじゃん、ね、ミオちゃん」
「すごいですけど……」
VTuberのイラストに、配信の待機中に流す動画……なんだこれは、新手の詐欺か……?
超展開すぎる。さすがに、おかしいぞ、これは。何これ、また動画撮られてる? でもそんな様子じゃないし……。
「こういうのって……お金かかりますよね?」
「そりゃあかかりますよ? でないとクリエイターは生きていけないですから」
そうだよね? じゃあ、なんでこんなに施されてるの?
頬をつねる。痛い。涙が出てきた。
現実じゃん……しっかり現実じゃん。
じゃあやっぱり詐欺だ! 作品を完成させて請求をしてくるタイプの……。
「ボク……その……お金あんまりないので」
「お金は頂いてるから大丈夫ですよ!」
「そーですよ! お姉さんに負担はさせません」
それもそれで怖いんだってば……。
「あ、そーだ。お姉さんのチャンネルのバナーも作っちみたんだけど、どーかな?」
えっ、えっ……? バナーも依頼したの?
「SNS用のアイコンとヘッダーもこの際だから作らせてもらって、配信の時に使い回ししやすいサムネイルとかテンプレートとかも。画像をレイヤーの下に重ねたらいい感じになるんだけど、あ、フォントの色とかは適宜変える感じで。この編集データも送っておいてと」
何かよく分からないまま、自分がVTuber活動しやすい環境に整えられていってる……。これも全部ましろくんや蒼央さんの計画の内……。
そろ〜っとましろくんの方を見ると、ましろくんの頭上にもはてなが見えた気がした。
「あの、バナーとかサムネイルは依頼させてもらった中に入れてない気が……」
え?
「うん。だから、これは私からのサービス。おねーさんのファンだからさ、わたし――」
「ちょっとまってください!」
さすがに待って欲しい。ほんとにほんと。
「そのっ、ぼくに色々しすぎです! ぼく、だって、なにも、サービスだなんて……。だって、イラストとか作るのって大変……」
そういうと、ねこ餃子さんはキョトンとした顔でボクを見てきた。
「えっ? ぼくがおかしいのかな? ぼくがおかしいのかな?? ぼく、そんな期待されるような人間じゃないですよ!? ファンとか……期待に応えられないと思いますし……サービスとかも……」
首を横に振って否定をすると、蒼央さんはニヤけ顔でため息をついた。
「ほらあ、先生、言ったでしょ? 彼女は謙虚だって。貢ぎすぎたら嫌われますよ〜?」
「うう、お姉さんのイメージ通りって感じで嬉しい……ありがたや……貢ぎがいがある……」
なんで嬉しがってるの……?
「あの……なんで、ねこ餃子さんは、そこまでしてくれるんですか……? ボクにそんな色々しても……良いことないですし……」
「そりゃあー……悪ノリ? おねーさんの嫌がる顔をみたくて」
「へっ……」
「うそうそ冗談じょーだん! やったのはお金頂いてたからってのがまずはある。仕事はきっちりするよー? 生活できないからね。でも、まぁ、お察しの通り今回のは気合いが入ってる。バナーとかも普段は作らないし。割と面倒だし、コレ」
「じゃあなんで……」
「言ったでしょ? ファンなの」
「ファンって言っても……ボクなにも……」
「私はお姉さんの言葉で救われたから、何かしたいなって思ったんだ」
「ボクの言葉……?」
というと、頷かれた。
「一人で背負いすぎず、誰かに頼ろうって。シンプルだけど忘れがちで、一人で仕事をする私達みたいな人は特にできなくなってることで。個人事業主って一人で全部しなきゃダメだから、結構孤独でね。ね、せんせ」
「だね~。ほんと孤独」
ねこ餃子さんはアイスコーヒーに口をつけ、ストローでかき混ぜた。
「そんな時に『一人で背負いすぎだって』正面から言ってもらえた気がしてさ。そうだよなあ、って思っちゃったんだ。私の場合はスケジュールの調整して、時間を作ってもらってさ。お姉さんのおかげで、気分が楽になった」
「あ、じゃあ、依頼したタイミング丁度良かったんですね」
「そー。丁度開けたタイミングだったから良かったし、お姉さんの依頼ができるならねじ込んででもしたね。うん、絶対にしてた。それくらい、あの時の私にはかけてほしかった言葉で、ましろくんにもかけられるべき言葉だったんだ。それをお姉さんはかけてくれた」
思い出すように下を向いて喋っていたねこ餃子さんは、パチッとボクと目を合わせて、歯を見せて笑った。
「ありがとね」
「お姉さんのあの言葉が無かったら、チームは優勝しなかったと思いますし、ぼくも配信を辞めてたか休んでた気が……」
「ましろくんのコメント欄酷かったもんねー……事務所組が注意しててアレだったから、ホント厄介リスナーばっかりだった」
「あの言葉をかけてくれる人に期待しない訳がないですよね」
「そー、ほんとそー。配信して毎秒慰めてほしいもん」
そんなことを言ってもらって、嬉しくなっている自分がいる。
でも、あの状況だったら誰でもそうすると思う。
ボクが特別な訳じゃない。
「……」
でも、そういってもらって嬉しいと感じているなら。
謙遜するのではなく。否定するのではなく。
この気持ちを正直に伝えるべきで。
「ほら、褒められてるよ~?」
蒼央さんにそう言われて、ボクは服の裾を握った。
「……ボクはあまり自分に自信がなくて、褒めてもらって困るような奴で。……いまも、ちょっと、色々考えてます、けど。でも、お二人にそう言ってもらえて、嬉しいなって思って」
口がもごもごする。恥ずかしい。
でも、これは、言ったほうがいいヤツだ。
「ありがとう……ございます」
「わああ、かわいい〜。良い子……まぶしい……尊い……」
「お姉さんは可愛いんですよ。美しくもある。自慢の友達です」
「うちのミオちゃんは可愛いんだって〜。ほら、RINEの背景にしてる」
三人から色々言われて、ボクは緩んだ顔がなかなか戻らなかった。
この後書きを書かないと評価はいらないと思われると聞きましたので。
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