38 すごいムラムラするじゃん
それは、ピンク色で女性の顔がいやらしく書いてあるパッケージ。
そう、それの中身は私が今、ポケットに入れたままの、
「媚薬……入れましたね?」
「い……入れてないっ」
「じゃあ、なんでそんな触ってきたりするんですか!?」
「そういう気分なんだ!」
「絶対これのせいでしょ!? というか蒼央さんも飲んだんですかっ!?」
「ふへへへ」
怒るミオちゃんもまた可愛いのである。
でもどうしよう。どんな反応が出るか気になって買っただけで、反応があった場合のことなんてなんにも考えてなかった。
イタズラみたいなノリでやっちゃったけど、コレ、ヤバイなあ。
「まあ、ただの小説のネタで使えるかなと思っただけでー……」
──次はセックスでもしてください。
「うあっ! そうか! 今が、その時って奴か!」
そうなんだな! 担当編集者!
うん、そうです、って声が聞こえてくるよ!
「なんです……その時って」
「セックスだッ! 小説の濡れ場のために! 一発やろう!」
「セッ! なんでそうなるんですかっ!!」
「ミオちゃんも限界だろう? さっきから一生懸命隠そうとしてるソレを発散したくないかい? 可愛い子揃ってるヨ~、年上の女の子ネ~」
「最近の蒼央さんは暴走しすぎですよ! もっと自分を大切に」
「大切にしてたらこの年齢までなにもなかったんだよッ!! さぁ!」
私は上着をバッと脱ぎ、肌着になった。
「ヤるぞ!!」
ふふふ、致すためにはムードが必要だとか色々書いてあったが嘘だったな! ムードなんて必要ないじゃないか! 同じ屋根の下! 男女が二人! 互いにムラムラしてる状況さえ作り出せれば、簡単にヤれるんだ!
「ほら、脱げ! 作法なんてのも分からないが、こういうのは勢いでヤってみるのが一番良いんだろう! そのハズだ!」
「やめてぇ……蒼央さん……正気に戻って……」
「やめぬ! 止まらぬ! 顧みぬっ! さぁ! その股を開けと言っているんだ!!」
そうすると、両肩をミオちゃんがガシッと掴んできた。
「ひゃっ」
って、変な声が出たぞ! いまのは私の声か! 女の声だ!
「おいたが過ぎますよ……蒼央さん……っ!」
襲っていた私の身体をぐるんと押し倒し、理性と戦ってる様子のミオちゃん。犬であればグルルルと唸り声でも聞こえてきそうな表情の彼を見て──
私は恐怖を感じなかった。
「ミオちゃん! 凄い! 今の私、なにも怖くないぞ!!」
「……それは、ど、どういう」
「わたし、男性に慣れたかもしれない!」
これは凄い進歩だ。男性に若干の恐怖すら感じていた私が、押し倒されて怖いと感じないなんて!
あれだけ苦手だった男の人に慣れるなんて……!!
「あ、でも、ミオちゃんだから怖くないのかな? ハハハ、そんな気がしてきた。だったら私はミオちゃんとしか致せないことになっちゃうな〜。ミオちゃん専用〜……なんちゃって」
なんて言ってみると、ミオちゃんの顔が少し変わった気がした。
「……ミオちゃん?」
驚いているような、照れてるような。
生唾を飲んだような──
──理性が外れたような。
私の上に乗っていたミオちゃんの体重を感じた。
それは、肯定だと思った。
これから行われるであろう行為への同意だと思った。
ほんのイタズラから始まった突発的なモノだった。
だが、同じ屋根の下、ソレを言葉を交わさずとも同意した男女がいたとして……。
その後はどうなるか、火を見るより明らかだろう。
「…………へへ、いい雰囲気だし。ヤっちゃう?」
ビビリな私は挑発するように微笑みかける。
すると、
──ピンポーン。
その時、インターホンが居間に響いた。
二人で玄関口の方を見て、顔を見合わせる。
「お、お客さんだ! 出てきますねっ!」
そういい、ミオちゃんは上着を片手に玄関に駆けていった。
「あ、あ~……ちぇー、タイミング悪いなあ、もう」
今日予定かなにかあったっけ? こんなタイミングでインターホンを押すのは、ましろんくらいなものだ。ふむ、お姉さんの身に迫る危険を察知したんだな? 鋭い。やるな、ましろん。
脱いでいた服を着て、ミオちゃんの後を追いかけて玄関に向かった。
「はい、どなたですかー」
「ぼくです! ましろです!」
「あ、ましろくーん! どうしたの?」
「ましろんどーしたのー」
玄関口を開けずに応対をしているミオちゃんの後ろで私も声をかけた。
「あれっ? 蒼央さんにスケジュール共有してたんですけど、もしかして確認されてないです?」
「スケジュール? なにが…………、あ」
そうだった……っ! 今日は、ましろんと約束した日だった!
ミオちゃんが振り返って状況が読めていない顔をしていた。なので、玄関を開けて、準備万端なましろんに両手を合わせた。
「ごめん~、確認してたんだけど、忘れてた……」
「え〜! じゃあ、準備をおねがいします。待ってますから」
「なにするんです?」
「GWの時の約束ですよっ! わがままの準備が出来たんです!」
「わがままの準備……」
「行く場所はカフェだっけ。ちょっと着替えてくるね」
「待ってます!」
状況が飲み込めてないミオちゃんをぽんぽんと叩いて自室に戻ろうとした。すると、
「というか、ふたりとも凄い汗ですけど……」
ましろくんにそう言われ、二人でビクッとした。
なんていうべきかと微妙な時間が流れて、苦笑いで振り返りながら。
「「ちょっと、ストレッチしてて」」
凄い苦しい言い訳だったけど、なるほど、と理解してくれた。真面目で良い子だよましろんは本当に!
「って待ってくださいっ! こ、こんな状態で外に行くんですか!?」
ミオちゃんが私の耳元でそう言ってきた。残念だが、その通りだ。
「ごめん。私のせいだ……ごめん。辛抱してくれ」
「……この前もそうですけど、ボク一応十代の男ですからね。イタズラばかりするの辞めてくださいね……身が持たないので」
「そうだね……すまな──」
──さっきのミオちゃんの顔がちらついた。
あんな顔をしてくれて、嬉しいと思っている自分がいる。
男は獣で、苦手で、怖いと思っていた私が……嬉しいと感じたのだ。
ならば、私が返すべき返答は謝罪ではないな。
「ふふふ。悪いね、その約束は守れない」
私はこの気持ちを知っている。
つい、この前しったばかりだがね。
「これからも迷惑をかけるよ」
【恋心】というのだろう、コレは。
私はミオちゃんのことを本気で受け入れているらしい。
「あ〜、それはさておきすごいムラムラする〜。どうしよ、コレ」
「本当ですよ……」
そうして、私達二人はムラムラした気持ちを我慢しながら外出することになった。
この後書きを書かないと評価はいらないと思われると聞きましたので。
作品と作品の続きにご興味をお持ちいただけたのでしたら、下の★をクリックしていただけると嬉しいです。