37 媚薬って効果あるのかね?
「ふっふっふ」
恋心というものを知った私は最強だ。
編集者にも教えてやった。恋心を知ったんだぞって。いつも処女だのなんだのって馬鹿にしてくるからな、アイツは。
『やっとですか、遅いですよ。次はセックスでもしてください』
長年の付き合いになるとこういうことを言ってきやがる!
20代男性の童貞率は約4割、女性の処女率は約3割だぞ。そんなデータを用意しても「つべこべ言うな」って言ってくる。失礼だからクビにしろ、アイツを。
『男子大学生を家に招いて家事をさせてるんですよね。やることやれるでしょ』
なんて言い出す始末。あーあ、ミーティングの時間が嫌になっちゃうなあ、もう。
まぁ、編集者の言う事に全部従っていてはつまらないから、私は私の道を行きます。
だけど、一意見としては受け止めておこう。
『ダンディンドン・ラッキー♪ ガッコンポッペー♪』
そんなこんなで、私は今、ギラギラと赤と黄色に塗れたディスカウントストアの前に立っていた。
「じゃあ、潜入しようか。陽キャの根城! 眠らぬ殿堂の館よ!」
外行きの姿で陽キャ御用達のペンギンの館に潜入。
今日、ミオちゃんは昼過ぎに帰って来る。そして、私は今日は早起きをした。なぜなら、ご飯を作って待っていたい気分だから!
「ふっふっふ。久しぶりに外に出たら……溶けるかと思った……温暖化ヤバイ……」
冷房作った人は生涯困らないだけのお金を得ることが出来たんだろうか。あと、扇風機もそうだ。冷蔵庫もそうだな。令和の三種の神器はクーラー、冷蔵庫、扇風機で決まりだ。
「何作ろうかな。ぶっかけうどんとか良いな。でも、ミオちゃんが作る方が美味しいし……鍋とかも楽……だけど、私が作るのよりミオちゃんが作る方が美味しいんだよなあ。うむ……」
そうして、他の人の買い物かごを見ると卵とケチャップが見えた。
「オムライス……いいな!」
作るご飯は簡単にできるオムライスに決定。私は一人暮らし歴が長いからな。オムライスは得意なのだ。
よし、具材を早速買っていこう。そして、必要な具材を揃えると、キラキラ輝くコーナーにも足を運んだ。
(どれが良いんだろう)
ただ食材を買うだけだったらここには来ない。
そう、私がここに来た理由はコレだ。ピンク色のパッケージの商品。
媚薬である。最初読み方がみんな分からないよね。びやくって読むんだよ。
小説のネタとして、媚薬を経験をしておきたいのだ。
別に邪な気持ちがあるわけではない。決してない。小説の資料として必要なのだ。
「あのー、なにがおすすめですか?」
女性の店員さんを捕まえて、適当に聞いてみた。このコーナーの担当者だろう。
「どれもいい感じですよ。彼氏さんにですか?」
「彼氏というより、同棲してるというか、なんというか。年下の男の子に」
「わあ、年下彼氏ですね。こちらとか人気ですよ」
「オムライスに混ぜる予定なんですけど、熱で消えるとか、ケチャップの風味に消されるとかないです?」
「それ、違法かもです~」
「でも、伝えたら飲まれないかもですしー……どうしたら良いと思います?」
「うーん、ちょっとまっててくださいね~」
すると、お姉さんは大容量のオレンジジュースを持ってきた。
「結構甘いので、オレンジジュースに混ぜると気づかれにくいです。でも、相手の了承は取ってくださいね?」
「そんなこと言って、お姉さんもやってるんじゃないんですか?」
「やってないとこんなホイホイアドバイスできないですよ~」
「店員さんの鏡だ~」
捕まえた店員さんと意気投合して、おすすめされた奴と食材を買って帰った。
これで、ミオちゃんが帰って来る頃に合わせて料理を作っておこう。媚薬もバレないように持っておいて、と。
「お邪魔します……ん、良い匂いがする」
「お、帰ってきたかい! あ、ちょっと、ちょっと待ってっ」
火を止めて、玄関まで駆けていった。
「おかえりなさい、ご飯にする? お風呂にする? それともアタシ?」
「わあ。リアルでされると反応に困るんですね。シャワー借りていいです?」
「ぶう」
連れないが、いいのだ。私には媚薬がある。そんな態度もすぐにできなくなる。
でも、こういうのって本当に効果があるのかな。一種の都市伝説的なアレかと思っているのだがな。
「じゃーん! 今日のメニューはオムライスだぜ。美味そうだろ!」
「おー! 包むの上手いですね!」
「ママの手伝いをよくしてたからな! あ、ママっていうのはミオちゃんのことではなく、白濱ママのことだぞ?」
「ケチャップのハートも上手いですし」
「あまり付けすぎると酸味が強くなるからな。ささ、食べてくれ。で、飲み物はオレンジジュースを用意させていただいた」
「合いますっけ……?」
「白濱家はそうなのさ」
もちろん、そんな訳はない。媚薬を口にしてもらうための口実だ。
オムライスをパクパク食べるミオちゃんを眺めながら私も口に運んだ。
ちなみに、私も媚薬を飲むぞ。そこは公平にするべきだからな、うむ。
そこでミオちゃんがオレンジジュースを口に運んだ。
「……。このオレンジジュース……」
まさか……バレたか……!?
眉間にシワを寄せて、コップを眺めてる。
それで私の方をそのままの顔で見てきて……。
「……子どもの頃を思い出しますね。昔ってよく飲んでましたよね」
ふにゃとした顔になった。
違ったみたいだ。こわかったあ~。
なんだよー、さっきの顔~! ビックリしたじゃないか!
「あと、味ってこんな甘かったですっけ」
ぎ、ぎくーーっ!
「そういう奴なのかも。店員さんにおすすめしてもらったヤツだから」
私の方も飲んでみる。うん、オレンジ以外にも味があるね、これ。
適量とか見てなかったけど、いっぱい入れすぎたのかな。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「わたしもごちそうさまでした~。うまかった」
食器の片付けももちろん私がする。普段お世話になってるからな。
ゴシゴシと洗い物をしていると、身体が少しずつ熱くなってきた。
(まさか……これが、効果って奴……?)
チラと洗い場からミオちゃんを見てみると、普通の顔をしている。
気の所為ってレベルだ。あまり期待しすぎたのかもしれない。
ご飯を食べたから身体が温かくなってるだけなのかなー……ううむ。
(あまり効果がない。さすがの媚薬も人の体を支配するほどではないか)
まぁ、これはこれで良し。そういうことが分かっただけで十分だ。
そう思っていたんだが──洗い物が終わってから、数分後。
ミオちゃんとソファに座ってテレビを見ていたのだが……。
(すっっっっっごい、ムラムラする……)
やっばい、え、時間経過でじわじわときたんだけど!
すげえ! こんな感じになるんだ! わああ! すごい!!
(じゃあ、ミオちゃんも……いや、普通だ。テレビを見つめながらソファの肘置きで頬杖付きながら……って、耳真っ赤!!)
ということは、ミオちゃんも現在進行系でムラムラしてるのか!?
顔を横目で見ながら太ももに手を這わせてみる。ビクッとして、真っ赤な顔でこっちを見てきた。
「ど、どうしたんです?」
「ん~? なんでもないよ~。スキンシップさ」
反応楽しすぎかって!
「最近、どう? ミオちゃんはさ」つつつと太ももをなぞって、身体を寄せた。「大学とかさ、この生活に慣れたかい?」ピタとくっついて、肩に頭を乗せた。「話を聞かせてくれよ」
するとミオちゃんは私側の足を少し上げて、足を組むようにしてみせた。
その時、私は確信をした。
ミオちゃんのミオちゃんが元気になってると!
「どうなんだい~?」
グリグリと頭を肩にこすりつけていると、バッと肩を持たれた。
「蒼央さん……」
「ほっ」
え、そんな効果てきめん!? 効果出過ぎちゃった!?
少し鼻息が荒いミオちゃんを見上げる。ニヤケ顔が止まらない。
「何か料理に入れたでしょ」
「うええっ!?」
「さっきゴミを回収してたら、こんなの見つけたんですけど!」
ミオちゃんはソレを持っていた。