35 甘えん坊さん
私のことを忘れてないかい?
どうも、くせっ毛が今日も絶好調な白濱蒼央だ。
ミオちゃんの動画がL9のチャンネルに投稿されたかと思うと、セカイくんのチャンネルで料理動画が投稿された。みんなの中で「お姉さん」っていう存在が浸透していってる。ファンアートも増えた。
L9オーナーの動画で「mio_x」というゲームIDが世に知られてからは、ファンアートも多様化して、少しSっけのあるお姉さんを描く人も出てきた。うんうん、色んな解釈があってよろしい。
だが、私のことをそっちのけで盛り上がり過ぎだと思う。
私が一番最初にミオちゃんに目をつけたのだ。
分かってるのか!!
私が見つけたんだぞ!!
「ミオちゃん!」
「はあい?」
あの一件以降、しばらく「嫌われてるのかな」と落ち込んでいたが、ましろんやモココさんと配信外でゲームをするようになって回復をしてきた。
今では「嫌われるようなことしてないもんね」と吹っ切れてる様子。かわいい。
でも、それはそれ。これはこれなのだ。
「夕ご飯はもう少しでできるから待ってくださいね」
「うん。ありがとう。でも、ちょっと良い? 大事な話があるんだ」
「ほら、蒼央さんが好きなゴロゴロ野菜のカレーライスですよ~」
「わあ……美味しそう……」
鍋を覗き込むとヨダレが垂れてきた。
「座って待っててくださいね。あ、お茶とかスプーンを用意してくれてると嬉しいです」
「わかった。任せておくれ!」
カレーを食べた後で良いか。うん、そうだな。
そうして、エプロン姿のミオちゃんと食卓を囲んだ。
「んんん! おいひいー! 誰かと一緒に食べるご飯ってのはやっぱ最高だあ!」
「おおげさですよ。レシピ通り作っただけですし」
「いいや! 初めてのミオちゃんの料理を食べた時は泣いたからね! 何年ぶりの温かいごはんなんだろうって……」
ゴミ屋敷が綺麗になって、美味しいご飯を食べた時の感動たるや……。
「じゃなくて!」
「そういえば、小説の方はどんな感じなんですか? ボク、役に立ててます?」
「う、うむ、順調といえば順調かな。どれくらい順調かというとだね……8万文字は書けてる!」
「8万っ……。大学のレポートの400字ですら辛いのに……」
「フッフッフ! まぁ、これでもすごく遅い方なんだがね! 遅筆なんだー、私。早い人だと1日で2万文字書くと言われてるし……」
私の場合だと抱えてる小説が多いから、ミオちゃん関連の小説が8万文字と、連載してる奴が他にもあるし、昔からネット小説に投稿してるのも時間を見つけて書いてるから1日で何文字なんだろう……1万文字は行ってるだろうけど。
「じゃなくて! 話があるんだ!!」
「話? なにかありましたか?」
「最近、ミオちゃんが私に構ってないと思うんだ! 優先度が下がってないかい!」
「構ってないって……ボクがですか?」
「うむっ」
「大学から帰ってきて、ご飯作って、作り置きして、髪の毛乾かして、スケジュール管理して……最近だとましろくんとゲームしてる時に同じ通話でおしゃべりもしてますし、あとは指定してもらってる服も着てますし……」
「いや、そうだね。構ってないは嘘だ。職務を全うしてくれている、うん」
うーん、言葉が違った。文字を仕事にしているというのに良い言葉が思い浮かばない。この感情を表す言葉がない。ぽいぽいと脳内の引き出しを漁っても出てこない!
「なんだか! 寂しいんだ! なんか、もやっとしたのがある! わからない感情がある!」
こういうときは素直に感情を吐露するのが手っ取り早い!
「なんか! もっと私に構ってほしいんだ! とにかく! さみしい! こっちだけ向いててくれ! この感情の正体はなんだ! 教えてくれ!」
ミオちゃんはスマホを取り出していて、音声で検索をかけていた。
『すみません、よくわかりません』
「AIにも分からない感情みたいですね……」
「ぽんこつめ……」
ミオちゃんは腕を組んで悩んで、上を見上げて「あ!」と。
「もしや、慣れたとかじゃないですか?」
「ふむ?」
「いて当たり前の存在になったから、なんか、足りなくなったみたいな。マンネリ化みたいな? そういうのじゃないですか?」
「……男の娘が家事をしてくれて、仕事の手伝いをしてくれて、一緒に住んでるという状況に私が慣れたということか?」
二人でうーんと腕を組んで考えても、そうなのか? となった。わからない。
「とりあえず、食器を片しますか」
オちゃんは私の食器も持っていって洗い物をし始めた。エプロンの下には私がお願いしたオフショルダーを着てくれている。
「ふむ……わからん……」
たしかに、ミオちゃんは私を蔑ろになんかしてない。むしろ、ちゃんとやってほしいことをやってくれるし、初めよりも内容が濃くなってると言っていい!
だったら、この感情は……なんだ!
座ってたらそわそわするのでミオちゃんの背後に回ると「なんですかー」と振り返らずに聞いてくる。
「ミオちゃんはさ、私のことをどう思ってる?」
「どうしました?」
くいっとエプロンを引っ張ると、タオルで手の水気を取りながら屈んでくれた。
「甘えん坊さんですね、今日はそういう日ですか?」
「……そういうのじゃない」
「じゃあ、蒼央さんがしたいことをしましょ? 仕事まで時間がありますし」
ママのような態度で優しい声でそう言われ、こくりと頷いた。
わたしがしたいこと。
わたしはなにがしたいんだろう。
ミオちゃんに何をしてほしくて、なにをしてほしくないんだろう。
「えっと……」
ミオちゃんという存在が世に羽ばたいていってる状況が。
私だけの特別な空間が当たり前になって、みんなにも知られてる状況が。
なんだか、すごく、いやだ。
それを解消するためには……。
「じゃあ……私だけが特別になれば……良いのか」
「はい? とくべつ……?」
ミオちゃんと私だけの秘密を作れば、どきどきわくわく感を味わえるのでは。
ってことは、そうだ。アレしかない。
「ミオちゃんさ、えっちなこととかって興味あるっ!?」
私は、今日、一線を踏み越えてやる!!
この後書きを書かないと評価はいらないと思われると聞きましたので。
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