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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-3 小説家とVtuberと友達と:ただゲームしてただけなのに
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34 世間の反応:インタビュー動画



 キョージュこと『葉加瀬』は、ミオ達より早めのスケジュールでインタビュー撮影を行っていた。


 聞かれたことはいつからゲームをしているのか。ゲームをしていることに気を付けていること。周辺機器。大会のコーチをした理由と感想。初心者へのアドバイスなどなど。


 当たり障りないことばかりだが、外に露出していない人に変な質問や企画をする訳にもいかず、ミオやキョージュへ配慮をした結果となっている。


「以上でインタビュー撮影終了です! お疲れ様でした!」


「お、お疲れ様デス……」


 葉加瀬。金髪でメガネをかけている大人しい女子だ。そう、察しの良い方は気づいているだろうが、大学デビュー組だ。


 性格が大人しめの彼女はこのインタビュー動画を「オンラインで撮影させてください」とお願いをしていた。


 だが、担当者からの「お姉さんも当日に撮影する」という話を聞いて、東京の高層ビルや人混みに塗れながらもここまでやってきたのだ。


(スケジュール的には……お姉さんは私の後に撮影って言われてたハズ)


 あの鬼のようなプレイをしていた『mio_x』をその目に収めるまでは帰らない。


 ただ、ずっといるのは迷惑だろうからそそくさとビルを出ていき、向かいのカフェに入った。窓際に座って、ビルから出てくる女性を目で追う。


「……あのひとか? いや、もっと若い……大学生って言ってたハズ」

 

 カフェに座って、ゆっくり飲んで、飲み物を飲んだらおかわりを頼んで、お腹がカフェオレでたぷたぷになってきて、目もドライアイになってきた。

 

「別日?……いや、モココもお姉さんが来るって言ってたし」


 ビルに入ると、モココがいた。集団オフ会で会った事があり、お互いに「あー!」となって話し込んだときにスケジュールの話を聞いたのだ。

 

 モココが適当なことを言ったのか? と唇をひん曲げ、THISCORDで「撮影会どうでした?」と連絡を飛ばす。だが、連絡は返ってこない。


 なぜなら、お姉さんこと心音は今、別スタジオで料理を作ってるからである。

 

 そしてそこから数時間経ち、辺りが暗くなってきた頃にようやく返事が返ってきた。


『撮影会緊張しました! 今はもう帰ってゆっくりしてます!』


「くそぉ、mio_x(おねえさん)めー!!」


 葉加瀬(キョージュ)心音(おねえさん)に気づくのは、まだまだ先のお話。



      ◇◇◇



 二人のインタビュー動画の撮影が終了。

 その後、しばらくして、L9のオーナーの『ジン』のチャンネルで大会の振り返り動画が投稿された。


 ・キョージュの正体が、ランク上位帯で無名強者のteachであること。

 ・お姉さんの正体が、ゲーム黎明期で連戦連勝のmio_xであること。

 ・サプライズ動画でパソコンをプレゼントしたこと。

 ・インタビュー動画が投稿されるという告知。

 

 三人で事前に確認をした通りの内容で投稿された。


 オーナーであるジンや蒼央は「お姉さん」に注目が集まるかと思ったが、ゲームリリースから長く経っていることもあり、注目を集めたのはキョージュの方だった。


 配信者達が「teachって女だったのかよ!?」となり、女性だけで結成されたゲーミングチームのオーナーも「!?」と動画を引用したほど。


 お姉さんの方に反応をしたのは、ましろのリスナーやゲームのイラストなどを上げているイラストレーターだった。


 お姉さんがリリース当初にプレイをしていたということと、更新されていないyoutubeチャンネルのコメントなどから「今は社会人の女性だ」という説が濃厚に。


 未成年のましろと成人済みのお姉さんというおねショタ展開にみんなは盛り上がっていたのだ。


『お姉さんじゃなくてママだろコレェ! ママ味が強すぎるぞ! 子どもいるだろ!』


『糸目であらあら系ママがイメージにピッタリだ!』


『でもまて、それって旦那がいるのに未成年に手を出すヤバい人妻になるだろ!』


『そっちの方が興奮するだろ馬鹿!!』


 なんて言う厄介リスナーもいたりして。 


 だが、しばらくして投稿されたインタビュー動画に可愛い服装で登場し、「今年で大学生になったばかりで……」と控えめに話すお姉さんの姿で、みんなの脳が破壊された。


「ゲームを突然辞められたじゃないですか? オーナーも気になってたみたいで、あれっていうのは……」


「大学進学の関係でバイトとか勉強とかで忙しくなって。あと、パソコンも古くて動作が上手く行かないこともありましたし、芽が出ないとやめようと思ってまして」


「芽が出ない……凄く強かったって話ですけど」


「プロゲーマーになりたいなぁって思ってたんですけど、なり方も分からなかったですし、その時は大会とかも無かったですし……エリートマッチで勝ち続けたら誰かの目に止まるかなーと思ってたんですけど、なにもなかったので、あんまりなのかなあって」


 小さく手を横に振って、苦笑いをするお姉さん。

 所作の一つ一つを取っても控えめな女性らしさが溢れている。

 それからいくらかの質問を受けて。


「ラーメンよりうどん派を応援してくれてありがとー。またねー」


 また小さく手を振るお姉さんの姿にみんなの脳は焼かれた。


 インタビュー動画が出ると、ゲームの配信者やプロゲーマーが『キョージュ』と『お姉さん』の話題によく触れるようになった。

 

 おかげでゲーム界隈で2人は時の人になりつつある。


 2人にやられたクリップが数十万再生行ったり、更新していないmio_xという無骨なチャンネル名の登録者が10000人を突破したり。


 だが、相変わらずキョージュとお姉さんは外に露出をしようとしていない。そんな中、


「セカイさん」


 二人と関わりがある人物らに声をかける人達が増えてきた。世間の盛り上がりの恩恵を受けようとする配信者やクリエイター達である。


「お姉さんとかキョージュさんとか呼んで一緒にゲームしないんすか?」


「しないね。ちなみに、モココもするつもりはないらしいよ」


 この手の質問を多く受けるようになって、セカイは画面の前で頬杖をつく。

 

(どうせ、俺とモココから連絡先を知ろうとしてるんだろうけど)


 配信者仲間からその手の質問をされる気持ちも分からなくもないが、ここでセカイやモココ、ましろが二人の連絡先を伝えると一気に広まる可能性がある。


 本人達があまり露出をしたくなさそうなので、彼らも配慮をしているのだ。


 ましろもその手の連絡は断っているが、彼の場合は二人のソレと少し異なる。


『完成いたしました。資料を送らせていただきます』


「きたっ……! きたっ!」


 先方から送られてきたデータを確認し、一つ一つ確認していく。


『問題なしです! ありがとうございます。後はスケジュールの調整なのですが──』


 そう、ましろはお姉さんへのワガママの準備で忙しいのだ。


 インタビュー動画の投稿間隔が丁度良く、お姉さんへの期待が高まっているこの状況が最も望ましい。


 本人としては『他の人にこの熱を持っていかれるのは嫌だ』と感じている訳である。中学生時代からネットに生きているのだ。随分とたくましく育っている。


「あーあ! 楽しみ! お姉さん、喜んでくれるかなあ~」


 ワガママの内容を伝える日がひじょーーーに待ち遠しいましろなのであった。

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