32 ボクってそんなに嫌われてたの?
動画の最初らへんはオーナーが大会を振り返っていた。参加チームに触れたり、特別賞に触れたり。優勝したチーム以外にもスポットライトが当たるようにうまく話を回してる。
『ほんで、大会を語る上で一番外せんのが『ラーメンよりうどん派』やね』
「お、やっとだ!」
「なんて言われるんだろう……」
「スティックバルーンいるかな! 興奮してきたんだけど!」
『ほんまヤバイ。アイツらなにもんなんやマジで。チーム表を公開した時にココに最下位予想しとった奴らおったやろ。オイ、見てるか!? 最下位予想で投票した奴ら! 勝ったぞ! 見てたか!? ちなみに俺は配信を見ながら泣いたぞ!!』
「オーナーなのに、なんというか……自由なんですね?」
「配信者もしてるからだと思う。結構暴言とか吐くらしいし」
「配信……ん、あ、あー! だから声を聞いたことがあるのか……!」
昔に動画を見た気がする。それこそ、名前にxやzを入れるのが流行りの時代だ。
わー、あの頃の人がこんなに有名になって。オーナーになってるのか……。顔出ししてるし。こんな顔だったんだな。
『プロがおらんチームでアレはやばい。ましろは思っとったよりやばかった。あいつ上手すぎ。セカイはエイムバケモンやし、モココはL9のリーダーの配信をよー見に来ると思ったら、エリア読みドンピシャやし。最下位予想のチームが優勝して、そのリーダーは最多キル賞で! もう、話が出来すぎて怖かったわ。主人公すぎるって』
チラと横目でましろくんを見ると照れてた。
『で! このチームを語るなら、謎のコーチも触れんとダメやろってことで。はい、ドーン。キョージュとお姉さん。なにこの二人、ノーマーク過ぎやって。まず、キョージュのプロフィールな、教えてもらったわ。とりあえず、ゲームやらせたら最高ランクは行くんやって。ゲームIDも教えてもらったけど……ハイ、これ。teach。オレ、何回もコイツにボコられてんねん!』
「こういう表に出なかったランカーが注目されるの嬉しいですよね」
キョージュさん面白い人だったから、これを機に羽ばたいていくのかな。本人はあまり目立ちたくないって言ってた気がするけど、個人的にはぶいぶい言わせてる姿を見てみたい。
そういうと、蒼央さんが生温かい目でこちらを見てきた。なんですかその目は。
『で、もう一人のコーチ。通称『お姉さん』よ』
「お、ボクだ」一応、姿勢を正しておこう。
『コイツのことも色々言いたいんやけど……ほんまごめん。先に言いたいことあんねん。まじで、聞いた時から言いたすぎて! このゲーム昔からやってる奴ならビビると思う! お姉さんのゲームIDを聞いたんやけど……、ハイ、コレ。mio_x。知ってる奴おるか? ちなみにオレは知っとるぞ。このゲームの前にやってたゲームでも見かけた事あるし、おれの動画にも敵として出たこともある』
「へー……動画に出たことあるんだ」
こんな人に認知されてるの嬉しいな。覚えやすいIDなのかな。
『コイツこそやっと見つけたって感じやわ! でも聞いて? お姉さんにプロフィール聞いても、特になにもしてないからないです、とか返してきて「コイツ嘘やろ!?」ってなったわ。担当者も「分かりました」って返事したって。分かりましたな訳ないやろ!?』
雲行きが怪しくなって、ソファに身体を沈めた。怒られそうな気配。
「なんかボク、変なことしたかな……? 失礼なこととか……」
「お姉さんって凄い人だったんです?」
「いや……別に……そんなことないけど」
「フッフ」
『急にゲームのランクに出没して、色んな配信者をキルして回ってたやばい奴やぞ!? 連絡先も非公開、配信しとるyoutubeチャンネルにコメントしても反応なし、フレンド依頼も送れん! そんで急に見んくなった。しょーじき、オレもID見るまで忘れとったわ。そんな奴二人が『ラーメンよりうどん派』のコーチて! どんな巡り合わせやねん! オモロ過ぎるって!』
「………………?」
えーと、あの、え?
「ふっふっふ。どうだね、ミオちゃん。認知されてた感想は」
「ボクってヤバイ奴だったんです……?」
「んー?……今の話でなんでそう思うんだい?」
「迷惑プレイヤーみたいな感じなのかなって。配信荒らしみたいな……」
「……ああ、ミオちゃんは鈍感系主人公だったんだ……」
「何かいいました……?」
「なんでもないよー。ただの再確認しただけさ」
配信者をキルして回るヤバイ奴……。高校から帰ってゲームしてたから、配信時間とかぶる……のか?
連絡先はないのが普通だと思うし。配信のコメントもみないし、フレンド依頼は……そういえば、もらったことなかったな。
『そんな優勝チームのコーチ陣にも特別なプレゼントを送らせてもらいました。はい拍手ぅ~。で、普通に郵送したんやけど、ましろがサプライズ動画を撮りたいって提案をしてきて……なんと、ましろの協力でお姉さんにプレゼントするサプライズ動画を撮ることに成功しました!』
「あ、ぼくらの始まりますよ! あれ、お姉さん? 顔を抑えてなにを……」
「ミオちゃんは自分の世界に入ってるんだ。そっとしておいてあげて」
(ボク、そんな迷惑かける系プレイヤーだった? でも、ええー……?)
普通にゲームしてただけなんだけど……!
わあ、すごい複雑な気分……!
『はいどーも。みなさんこんにちわ、ましろです。いま、お隣に荷物が来たみたいです。あ、お姉さんも丁度帰ってきたみたいですね!──(ピー)さん、なに注文したんですか……? わたしじゃないよぉ……』
ボクの声が聞こえて、顔を上げるとサプライズ動画が流れ始めていた。
ましろくんは扉を少し開けて声を拾えるようにしてたみたいだ。だから、帰宅時間を聞いてきたんだな。後で話を聞いた所、配送業者さんにも時間を正確に伝えて調整をしてもらったらしい。
『もう……怖いよぉ……。うううう……っ』
本当に最後の反応まで使われてるし……。まぁ、良いけどさ。
すると画面が暗転して無音になった。
「……編集ミス?」
「分かんない……なにが始まるんだろう」
すると、徐々にゲームの画面が大きくなってきた。
『ティーチ!! きっしょいねん戦い方があ!! マジでコイツ!!』『サーバー変えました。これでポイントを盛りま』──(チャンピョン画面が画面上で表示される)──『はああああっ!? 日本サーバーでしてただろテメェ!!』『え、チーターいる? まぁ、慣れてるから……ティーチもいるじゃん。ってかチーター倒してるし』『誰だよコイツ! 誰っ……ティーチ!! またお前かよ! 気が合うなあ、◯ねッ!!』
それは、色んな配信者のリアクション集みたいなのだった。
キョージュのプレイヤーIDの『teach』が配信者をキルしたときの反応。そこにはましろくんの姿も入っていた。さっきまでかわいい顔をしてたましろくんが神妙な雰囲気になってる。
そして、画面がガラッと変わり、リリース当初の色合いに変わった。
『またコイツだよ!!』『ギャアア! 連勝止まったァ! また、mioだあ!! ああああ!』『アイツ、荒らしだろマジで!! ずっとランクしてんじゃん!』『what!? Who!!……mio!! AHHHHHH!!』『チーターじゃないの!? え、チーターじゃないんだ! はっ、配信してるの!?』『アイツ配信してるの!?……本当にしてる。ランクの時間ズラしまーす。別ゲーします』『ゲームの最強プレイヤー? 昔いたプレイヤーも含めるならmioって奴。単独降下してキルリーダーになってチームに合流した時は、このゲームをやめようかと思った』
最後に『キョージュとお姉さんへのインタビュー動画。coming soon』と文字が出て動画がしめられた。真っ暗な画面に映っているボクらは呆気にとられていて。
「なんか、思ったより壮大なことになってるし……ミオちゃんの動画を漁ってたから時間がかかってたのか」
「お姉さんって本当に何者なんですか……」
「ボクが知りたいよ」
いやほんと。
「ボクって色んな人に嫌われてたんだなあ……」
知らないところで迷惑かけてたって知って罪悪感がすごい。というか何年か越しに自分の悪行? が晒されるのってすごい嫌だ!
「あああ……いやだあ……」
この動画は、インタビューが撮影されて諸々終わった後に投稿されるらしい。インタビュー行ったら殴られたりしないよね……。
この後書きを書かないと評価はいらないと思われると聞きましたので。
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