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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-3 小説家とVtuberと友達と:ただゲームしてただけなのに
30/58

30 お前は女になりたいんだもんな?


「ここ、私の地元。山と川しかないだろ」


「わー、ほんとだ」


「ほら、前言った奴。体育館に飾られてる校歌の写真。手前にいるのが高校のツレで」


「へー……」


 なんだ、これ。

 伊尾さんに捕まって怒られるかと思ったら、写真フォルダを見せられてるんだけど。

 それも経済学部棟の一階の談話コーナーで! 皆が横目で見てくる中!

 

「あのー……伊尾さん?」


「呼び捨て」──「イオ。あの……」──「コレが家のワンコロとネコ」


「わー、かわいい……じゃなくて」


「なにが? え、なんか間違えた? 東京の作法とかある……?」


「そういうのじゃないんだけど……」


 怒られる訳じゃないのか? でも、こういうのって先んじて謝った方がいいよな。

 

「図書館の奴……ごめん」


「あン? 無視したヤツのこと?」


「うん」


「気にしてないけど。え、気にしてると思ったのか?」


「うん……」


「真面目かっ!」


 なんか分かんないけど驚かれた。

 無視ってそんな当たり前の行為なのか……? ボク無視されたら普通に心臓が痛くなるんだけど。


「無視くらいで不機嫌になるかよ、思春期じゃあるまいし。それに、ミオが無視するならなんか理由があるんだと思うしな」


 ……イオさんの中のボクの評価高くない?

 コイツが無視するなら、なんか理由がある、とか。

 コレが陽キャの処世術なのか?……覚えておこう。


「ってな訳で、私のGWは実家でのんびりしてた訳だが、ミオはなにしてたんだ?」


「課題とレポートと──」


 あとはVTuberの自宅に訪問して、大会のコーチして、パソコンもらって、撮影会に行くことになって……なんて言える訳もないので。


「気がついたら……時間が経ってました」


「もっとないのかよ~、東京ならではのさ! オモロイ話とか!」


「18年も住んでるけど、東京のオモロイ話はないよ」


「そっかあ……」


 残念そう。地方から来た人って東京をなんだと思ってるんだろう。

 流行り廃りが激しいから、短い間でイベントがあると思われてるのかな。

 

「あ」


「なんだ、オモロイ話あった?」


「同類って話がずっと気になってたんだ」


 あの日、ボクに声をかけた理由を聞いたら「同類だと思ったから」と言われた。同類ってなんだ、ってことで。まともに話せる時間があったら聞こうと思ってた。


 どこをどう見ても、逆立ちしても「同類」には見えない。陰キャと陽キャ。金髪とピンク髪。服装も違う、出身地も違う。学部が一緒くらい。


「同類……? んー、ああ! 気になるか?」


「うん」


「私は男になりたいんだよ」


「…………????」


 え、同類って話は?


「特に渋い男が好きでな。最近、なんちゃら賞を日本映画が受賞したろ? その俳優とか、一人でご飯を食べるドラマの人とかさ!」


 最近受賞したのでいえば……時代劇の奴か? 確かに渋い人だとは思う。一人でご飯を食べる奴の俳優さんも渋いといえば渋いのか。

 じゃなくて。


「ゲームのキャラメイクもさ、男のほうが格好いいんだよ。女はキャピキャピしてて……なんか、こう、違うって感じ」


「……ボクは女性キャラの方が自由度が高い気がして好きだけど」


「ミオは女になりたいんだもんな?」


「いや、別にそういう訳じゃ」


「それで同類だと思ったわけよ。男になりたい私、女になりたいミオでな」


 聞いてない……。でも、まぁ、そういう意味の同類か。


 とりあえず、あの日ボクを誘った理由は「女になりたい奴だと思った」ってことで間違いない。


 そもそも、誘った理由は当日になんか言われてた気がする。童顔で、女枠でもいけんじゃね、みたいな……こと言われてた気が……うん、なんかそんな感じの記憶がある。


 ボクって傍から見て「女子になりたそう」って思われるような素振りをしてるのかな。


(普通、男子に女子枠で出てくれなんて頼まないか……。でもそれを一言『同類だと思った』でまとめるのは言葉足らずな気がするけど……)


 まあ、なにはともあれ、女子枠で誘われた理由が分かった。別にボクは女子になりたい訳じゃないんだけどなー……。


「こういう話できる奴がいないからさ、ミオの存在はほんとデカイのよ。東京には色んな人がいるって聞いてたけどなかなかいなくてさ〜」


 そういい、紙コップのコーヒーをちびと飲むイオさん。


 本来なら、話を合わせた方が良いんだろうけど……こういうのは早めに訂正しておいた方がいいよな。


 ましろくんにも後々で訂正して傷つけちゃったし、うん、そうだな。


「イオ、ごめん」


「なんだ? なんで謝られた?」


「ボク、別に女の子になりたい訳じゃないんだ……」


 言っちゃった。

 嘘をつくのはイオさんにも悪いし、ボクとしても話しづらくなる。

 だから、これは、言っても良いハズ。


「……」


 うう、顔を見上げるのが怖い。

 怒られるんだろうか。なんて言われるんだろう。


『私を騙してたのかテメー! BBQにして食っちまうぞ!!』


『冗談に決まってんじゃん、本気にしたの? 陰キャは冗談も通じないんだな!』


 色んなパターンが考えられる。2番目の方が心抉られる、1番も怖いけど……。

 おそるおそる顔を見上げると……口を少し開けて、眉が下がってる彼女の姿が見えた。

 

「そうか……悪いな、そうか、そうだよな」


 そして、取り繕うように作り笑いを浮かべて、


「ごめんな、勝手に、その……1人で盛り上がって」


 いつもハキハキ喋るイオさんが言い淀んだ。


「っ!」


 一気にじわっと胸の中で苦い感情が広がった。

 ああ、そういう顔をしてほしかった訳じゃないっ……!!

 ああ! ああ!! えっと、えっと……! 

 

「うそ! うそ! うそだよーん! イオと一緒!」


 席を立ち上がり、両手を広げた。

 その時にイオさんで見えなかった後ろの人達の顔や、風景が広がって、行き交う人達の顔もクリアに見えて。


「……!」


 顔が熱くなって、ゆっくりと座って顔を手で隠した。

 

「でも恥ずかしくて……その……だから……」


「……」


「ごめん……えと、あの、内緒にして……ほしくて」


 あー! あー! ボクってほんとうダメな奴だっ……! イオさんを傷つけ、自分の意見もまともに持ってなくて!

 

 ボク、なにがしたいんだ……? 中途半端な奴だあ……! ぐううう……!! 


「ミオ、おまえ……」


「その、ごめ――」


「やっぱり、ミオは話がわかる奴だと思ってたぜ!」


「ふぇっ──グッ!?」


 席を立ち上がったイオさんが肩を組んで来た。

 勢い強すぎて殴られたかと思って、痛くもない頬を抑えちゃって。


「じゃあ、私とミオはこれからそういう仲だ! よろしくな!」


「そ、そういう仲っ!? それって」


「言わなくても分かるだろ~? とりあえず、飯奢るわ! 男が奢るのが当たり前らしいからなあ~! あー、金ないけど大変だあ~! 男って大変だなあ!」


 そうしてあれよあれよとご飯を奢られる流れに。

 絶対この『そういう仲』ってのも言葉足らずだよ!

 あー、もー、どうしてこうなった……!


 

お久しぶりです!

しばらく、0:00に一話更新を続けさせていただきます。

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