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女装をした陰キャ、時給2000円でママになる  作者: 久遠ノト
1-2 小説家とVtuberと友達と:ただお隣に挨拶をしただけなのに
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13 Vtuberの家にリア凸した



 ぼくの名前は「哉草(かなくさ) 真城(ましろ)」っていいます。

 アメリカ人の父と日本人の母がいて、日本が好きで、一人で日本にいます。

 今年の春に高校生になったばかりです。よく中学生って言われます。

 女に間違われるのが一番キライです。

 この声とか、身長とか、かおとか。特に声がなんかずっと高いままで、よく勘違いされます。

 高校生になったらなにか変わるかと思ったら、全然何も変わりませんでした。

 そんなコンプレックスを抱えながら、VTuberをしています。

 ましろって名前でやってます。そろそろ10万人いきそうなので、応援お願いします。


 そんなぼくなんですけど、気になる人がいるんです。

 初対面はマンションの入口でした。

 配信に遅れちゃうと思いながら帰ってると、エントランスでその人が立ち止まってたので、物陰に隠れたんです。


(なにしてるんだろ……入れないのかな)


 そんな心配をしていたのですが、中々声をかけることができなくて。

 だって、今まで会ったどんな女性よりもキレイで、可愛いかったから。

 するとお隣さん……(たぶん)に連れられて、マンションの中に入っていきました。


「……かわいい人だな」


 そう思ってからというもの、視界の中でそのお姉さんの影を追いかけるようになりました。

 そして、とある日、朝方にゴミ出しをしようとしたら、


「あ、おはよっ……ございます」


「あー、おはようございます」


 桃色の髪。身長はぼくよりちょっと高くて、かおは近くでみても可愛い顔をしてました。

 服装がちょっと……えっちで、横から胸が見えそうな服で、びっくりしたのを覚えてます。

 ちょっと眠たそうに目をこすって、くあ、とあくび。ぼくがゴミを入れるまで開けておいてくれました。やさしい。


「これから学校ですか?」


「はい。今日は、え、あっと……でも家に忘れものしちゃって」


 嘘です。背負ってるカバンに全部入ってます。


「あ、そのキャラクター知ってる。日曜日にやってるアニメのバルバルタイガーだ。かわいいよね。鳴き声がさ、ばるばるって」


 カバンにつけてるキーホルダーに触れてくれて、声が出ないままお姉さんをただ見つめてました。

 相槌を打ちたいし、返事をしたいし、話をして盛り上がりたいのに、声が出てこない。

 自分の知ってることや好きなことを相手が知ってて、話をしてくれるのが嬉しくて。

 それが、最近気になってるお姉さんから。もう感動と驚きで何も出来ませんでした。


「じゃあ、戻ります? わすれもの、あるんでしたっけ」


「っ、あい……!」 


 エレベーターに一緒に乗りました。

 一階はエントランスなので、それはまぁそうなんですが。


「あ、同じ階なんですね」


「はい……そう、みたいですね」

 

 お姉さんが知らなかったという顔で天井を見上げてる。

 で、四階に上がると、隣の部屋まで移動して、また目が合いました。

 

「お隣さんだったんですね」


「は、はい」


 バタンと扉を締めて、へなへなと玄関先に屈み込んだのを覚えています。


(ようやく……話せれた……!!)

 

 そう。

 ついに、念願のあの人と喋ることができたんです。

 女性の声と男性の声を混ぜて、良いところだけを取ったような声。

 落ち着くし、正直、声も好きだなって……思いました。

 その一件から出会えて無かったんですけど、この前、荷物を受け取ってる時にチラっと見えたんです。あのときとは違う服だったけど……可愛かったなぁ。


 それで、そんな人が……今、目の前にいるんです。

 なんでだろう。ど、どうしたらいいですか……?


「改めてお隣さんにご挨拶をしておこうかと思いまして」


「そ、それは……ど、どうも、です……」


 玄関先でお菓子を持っているのはお姉さん。

 服装は脇腹辺りが空いている目のやりどころに困る服。

 受け取るときも、若干腰が引きながら受け取りました。


「えっ、と……あの。お菓子、ありがとうございます」

 

「いえいえ。これからもよろしくおねがいします」


 かおが動くたびにいい匂いが鼻を刺激して、キラキラと妖精の粉のようなものが舞ってる気がする。やばい。同い年の女の子たちが全員子どもに見える。高校3年生の人よりも大人だ。

 やっぱり……大人の女性って……凄い。


「それじゃあ──」


「う、あ、そのっ……せっかく来てもらったんですし……お茶でも……」


 何いってんだぼく……!!!

 お茶って言ったって、冷蔵庫にあるやっすいお茶しかないのに!! トップバリューの奴しかないのにっ……!

 この人を満足させれるようなものは家にはないっ、けどっ!


(でも、もっと、一緒にいたい……!)


「ほんとですか? わーい。じゃあ、お言葉に甘えちゃお」


「!!!!?」


 声にならない声が出てきた。

 でも、家に人を上げたことがない。ど、どうしよう。

 自分で誘ったんだけど、どうしたら……。


「あのっ、掃除っ……しなくちゃ……なので」


「いーよ。気にしないって。ぼくの家もそんなにキレイじゃないし」


(ぼ、ぼくっこだ……!!!! いや、それよりもっ)


 上がろうとしたその肩に手をおいて、ギュッと握った。


「しょ、しょれでもっ……女性をあげるの、初めてなので……っ!!」


「わー……わかった」


「急いで掃除してきますので!! ま、まっててくださいねっ!」


 転がるように自分の部屋に入り、ゴミをゴミ箱へ、ペットボトルをゴミ箱へ、ホコリもどうにかこうにかしてキレイにして──……。



 

 そんなガタガタ鳴ってるのを玄関先で待ちながら、服の裾を握り、こっそりとため息をついた。


「やっぱり……女の人だと思われてるよなぁ~……」


 女性ものの服を着てるから仕方がないんだけどサ。

 通路に誰か来るのではないかと思いながら、扉を締めておく。

 こんなタイミングで蒼央さんが顔をのぞかせてきたら困る。


(声まんまだ。ほんとにましろんなんだ。リア凸しちゃったあ……)


 なんだかいけないことをした気持ちになった。

 


 

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