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74.私、獣人の国でばぁばになります!

「私とタオの子ども達でーす!」


 葉月は固定の卓上鏡の前に皆を並べ、紹介した。


「長男のケムカイン、カイン君です。カセムホテルの経理を担当しています。長女シリポーン、シリちゃんです。シリちゃんとカイン君は、今年結婚予定です。次男ドウ君です。私の『ぽい料理』の継承者です。ムーの包子はドウ君の方が綺麗に作れます。三男キック君、次女ノーイちゃんです。コツメカワウソ獣人です。キック君は元気いっぱい、ノーイちゃんはおっとりだけど食いしん坊です。さあ、皆、どーぞ」


「「「「「ハジメマシテー。ヨロシクオネガイシマスー」」」」」


 この日の為に特訓した日本語で挨拶をする。


「皆、日本語、上手かね」


「わー!一気に『大家族、タオさん家』になったみたいだねー。よろしくねー」


「そんなに若いのに結婚するんだ。葉月、すぐ、ばーちゃんになるねー」


「きゃあー! コツメカワウソ獣人さん、かわいかー! 耳、耳見せて! 」


「ほら、(つかさ)。葉月おばちゃんばい。あん子たちは、(つかさ)のいとこたいね」


 日本では正月を迎えている。十二月に松尾家に新たに加わった(つかさ)は恵一郎によく似た四角い顔の髪がフサフサの赤ちゃんだった。かろうじて涼し気な目元は弥生を感じさせる。(つかさ)はきょとんとした顔で鏡の中をじっと見ている。キックとノーイが鏡に近付いて、(つかさ)に手を振っている。


「あっという間にタオさんと結婚しとって、驚いたばい」


「ごめんね。色々あって、さ。メーオと結婚を前提にお付き合い宣言したすぐ後に、タオと付き合うことになったけん、不安になったみたいで、即日入籍したとよ。まあ、皆に囲まれて、元気にしとるよ。そっちは変わり無いね? 」


「順を追って言わんといかんね。私たちは(つかさ)が生れて、今、恵ちゃんは一年間の育休中」

 

 恵兄ちゃんから恵ちゃんに呼び方が変わってる事に気付く。弥生が本当に肩肘張らずに生きられるのは、恵一郎の隣なのだろう。出産し、険のある表情が取れて柔らかくなったように感じる。葉月は姉として何もできなかったが、二人が結ばれるきっかけがこの異世界転移だったのならば、転移して良かったことの一つになるだろう。


「そしてねー、何と、晃と賢哉君が結婚するとよ。賢哉君の会社がねLGBTフレンドリー企業でね同性パートナーシップ制度が使えるけんね、県のパートナーシップ宣言制度に登録するんだって」


「葉月、ありがとう。あん時、カミングアウトしとらんやったら、賢哉とはずっと友達のままやった。BLの両片想いやったよ」


 今は、松尾家に賢哉も同居中で、農機具小屋を改築して一階が六台並列できる車庫にして二階は住宅。米蔵はカフェにするそうだ。自宅のカフェができたら、他の三軒のカフェは売却するらしい。晃は畑や鶏の世話が弥生より得意なのだそう。晃、コッコちゃん達のお世話は任せたよ。


「それで、晴は昔の複数の彼氏の写真とSNS流出でお天気お姉さんばやめて、地元のタレントさんやっとるよ。今日もデパートの初売りのレポーターでお仕事よ。県内の美味しいモノ食べて回って楽しそう。コスプレイヤーは続けてる。今度写真集が出るとてよ。蘭は、晴のコスプレの服を作っているお店として有名になって、忙しかみたいよ」


 晴はなかなか波乱万丈だが、本人が楽しんでるならそれでいい。葉月は松尾家の家内安全を祈り通信を終了した。


 ※ ※ ※


 花嫁の控室。窓から雲一つない澄み切った青空を見上げ、シリはワクワクしていた。今日は待ちに待った、シリとカインの結婚式なのだ。 


 シリは、ずっと本当の家族に捨てられた事を頭のどこかで恨んでいた。家族皆が飢え死なない為に必要な事だったと、自分から奴隷になったのだと思い込むことで納得させていた。でも、タオの店に奴隷としてやってきてからの幸せな時間がそんなシリの恨みを少しずつどこかに追いやってしまった。カインも同じ気持ちだと思う。


 カインとの未来は容易に想像できる。タオと葉月の様に助け合い支え合い、幸せになるために誠実に一日一日を生きて行けば良いのだ。


 控室に葉月がやってきた。これからウェディングドレスを着せてもらうのだ。葉月と一緒に作ったウェディングドレスは真っ白で腰から下がふんわりと広がっている。全体に銀糸で細かく刺繍が入っていて、清純な雰囲気なのにゴージャスだ。バンジュートの結婚衣装はスリムなラインでブラウスとロングスカートとベールなので生地を選ぶ所から違い、大変だった。作るのに二年もかかってしまい、サイズ調整も何回もする事になった。でも、その分、素敵なドレスになったと思っている。それに何と言っても、大好きな葉月と一緒に作った宝物なのだ。

 

「シリ。ウェディングドレス着るから、飲み物飲んでちょっとサンドイッチ食べて、トイレとか済ませてねー」


 結婚式の為におしゃれした葉月はとても綺麗だ。象牙色の生地に金糸で華やかな刺繍やビーズで飾られている細身のロングワンピースを着ている。葉月の健康的な肌色や艶のある黒髪に良く似合う。タオから結婚の印に贈られたエメラルドのピアスもアクセントになってちょうどいい。でも、時々シリは出会ったころのフワフワした葉月が懐かしくなる時もある。だって包子の様に、フカフカででホカホカしていて、葉月にハグしてもらっている時は、普通の子どもの様に甘えて良いと思えたから。懐かしい思い出を思い出しながら、その時、言いたかった事を口に出す。


「うん。分かったよ。《《お母さん》》」


 シリは今日からタオを《《お父さん》》、葉月を《《お母さん》》と呼ぶことにしたのだ。満面の笑みで、葉月が嬉しくてたまらないと言った風にピョンピョン跳ねながら言ってくる。


「ねえ、ねえ。シリ。もう一回言って! お願い! 」


 両手を合わせて、二ホンのお願いのポーズをしてくる。葉月はオババ様になってもカワイイとシリは思っている。お父さんもそんなお母さんにメロメロだ。これからはタオ(おとうさん)葉月(おかあさん)にもらった幸せを皆に分けられるような家庭になれば良いと思っている。カインもちゃんとタオに伝えられただろうか。


 花婿の控室。シリのドレスと対に作られた純白の花婿の衣装を着て、カインは下を向き、冷や汗をかいている。向かい側には深緑に金糸で刺繍の入ったスーツを着ている渋面のタオがいた。もう、随分時間が経った様に思う。葉月が鼻歌を歌いながら入ってくる。


「もう、シリの準備できたよ。そろそろフック神官長様も神殿にお見えだと思うから、移動しようか」


 葉月は鈍感で、この重苦しい空気がわからない。


「すごいよねー。ナ・シングワンチャーの神官長様の祝福が受けれるんだよー。あ、タオ、私どう。綺麗? 」

 

 葉月はタオの前でクルクル回る。タオは葉月の手を取り、きちんと感想を言ってくれる。


「ハヅキはますます綺麗になってるのじゃ。五人の子持ちには見えんのじゃ」


「んふふー。そっかな? そうだ! 私、シリにお母さんって言ってもらったよ。タオはお父さんってもう言われた? 嬉しいねー。ん? カインは緊張してるの? 」


 ようやく、葉月がカインの異変に気付く。


「ハヅキ、残念じゃが、ワシたちはもう『お父さん』『お母さん』じゃないのじゃ」


「え? どうして……」


「『じいちゃん』と、『ばあちゃん』になってしもうたんじゃ!! 」


「えー!! 」


 私、獣人の国でばぁばになります!


【 完 】



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