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71. ホワイトのガネーシャ神

  ティーノーンの神々と地球の神々の話し合いが行われた。大々的な協議になり、提案した息長足姫(おきながたらしひめ)が驚く程だ。二つの惑星間の平和と安全の維持、経済・社会・文化の発展などに関して取り決めをするのだ。


 例えば、勇者や聖女が必要な時は、惑星間協力隊として、出向期限を決めて、希望者を募り、十分研修をした後転移を行えばいいのでは等、話し合いがもたれた。最初は、交換留学から始めようとの声が上がったようだ。まだまだ、始まったばかりでどうなるか分からないが、前向きに検討されていることは間違いない。


 息長足姫は日本神話支部のコーディネーターとして会議に参加していた。地球側のコーディネーターの名簿にラウェルナの名前を見つけて胸が苦しくなった。大きい会場なので会うことも無いだろう。


「こんにちは。ご挨拶、よろしいですか? (わたくし)は、ティーノーンのホワイトのガネーシャでございます」


 会議が終わり、交流会に参加していると地球のガネーシャ様が挨拶をしたいと話しかけてきた。そして、紹介されたのが先のティーノーンのホワイトのガネーシャ様だった。見た目は完全に同じなのに、几帳面で誠実な印象を受ける。


「このたびはティーノーンのピンクのガネーシャ神の件でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません。今後は、異世界転移を目的とした勧誘に関しては『勧誘する際は、目的をはっきり告げて勧誘する事』『紹介する際は、必ず相手の了承を得る事』などを徹底したいと、従業員一同、再教育する事を義務化しています。それでも不安がある場合は、ティーノーン異世界転移相談室までお問合せ・ご相談ください。オペレーターがお話をおうかがいします。秘密厳守なので、ご安心ください」


 ピンクのガネーシャ神は強引な取引や本人の意思を無視した転移などがあり、現在、地球にて再教育プログラムを受けているそうだ。


「あ、ローマ神話支局のラウェルナ様! 」


 ホワイトのガネーシャ神が息長足姫(おきながたらしひめ)の後ろに目をやり、ラウェルナの名前を呼ぶ。姫は急に鼓動を激しく感じた。あのかわいらしい声が聞こえてきた。


「こんにちは。ホワイトのガネーシャ様。……こんにちは。オッキー。元気だった? 」


 咄嗟に声が出ずに、頷くだけになってしまった。ホワイトのガネーシャ神から驚く事実が話される。


「ラウェルナ様には、弊社のピンクのガネーシャ神の調査の件ではお力添えをいただきました。息長足姫様の件もご自分が勧誘したからと、大変ご心配されていらしたのですよ。あ、私はここで。また、よろしくお願いいたします」


 大きなホワイトのガネーシャ様は意外に身軽に人込みをかき分け、呼ばれた神の所に進んでいった。


「オッキー。あの後、連絡してたけど、取り次いでもらえなかったの。ごめんね」


「よい。今回は妾の為に、尽力してもらい感謝している。まあ、ただの疑惑がこんなに大きな協議会になるとは思ってはいなかったがな」

 

 苦笑していると、あのフワフワとほっそりした指が、姫の手を取り、握ってくる。思わず払いそうになるが、失礼になると思いとどまり、少し手を持ちあげたようになる。ラウェルナは悲し気に眉をハの字にして、手を離し、へにゃりと笑う。


「私、盗人や詐欺師の守護神なんだから。それくらい警戒心が無いと、ダメだよねー! 」


「……」


「私、オッキーにお詫びしたいの。できることある? もし、私ともう二度と関わり合いたくないなら、見かけても話しかけないから。だから、お願い。オッキーとお友達だった記念に、何か一つで良いの。私に何か、オッキーの願いを叶えさせてほしいの」


「……では、ついてきてほしいところがある」


 ※ ※ ※


「姫。それで、ここに連れてきたの? 」


「ああ、ここは美味しくて綺麗で楽しいからな。妾のお気に入りの隠れ家なのだ」


「葉月、お邪魔します。通信で一回だけお会いしたことあったわね? 今日はよろしくねー」


 葉月の精神体の部屋。姫から三人分のディナーでお酒を準備する様に伝言があったけれど、あのラウェルナを連れてくるとは思っていなかった。二人を見ると、もう誤解は解けた様に見える。特に姫は、あんなに悔しそうにしていたのに、憑き物が落ちたように朗らかだ。


 姫からイタリアンの希望があったので、トラットリアに行った時の家庭的で気軽な感じで楽しめたらと思い準備した。食前酒はアペロールと白ワインとソーダのカクテルにする。オレンジ色が今から始まる時間が楽しい事を物語っている。葉月は女子会会員が増えてワクワクしていた。


「「「カンパーイ」」」


 女子会の始まりの合図だとラウェルナに教えて乾杯をする。まずはスタンダードにトマトと生ハムのブルスケッタを食べる。


「ラウェルナは何でも食べられる? 」


「……タコは怖い。日本人ってすごいね。何でも食べちゃうんでしょ? 」


「何でもではないけど、ローマでは食べないモノもあるよね。生卵とか、海苔とか、白子とか、イカの塩辛でしょ、納豆にこんにゃく、ゴボウでしょ、んー、あ、フグがあった」


「妾が好きなモノもあるな。フグと白子、イカの塩辛」


「美味しいよね。でも、ちょっとオジサンっぽいかも? 」


「それって今、食べられる? 」


「挑戦してみるか? 葉月、出せるか? 」


「えっと。今日の飲み物とか、お料理とかに合わないかな」


「では、次の回の時に和食にしてくれ。割烹とかではなく、前やった『イザカヤ』が良い」


「いいよー。ラウェルナ、お刺身にも挑戦してみる?」


 ラウェルナが静かに下を向いて泣いている。必死に声を出さずにポタポタと大粒の涙を落としている。姫と葉月はあわてて、ラウェルナをのぞき込む。


「オッキー、これが最後じゃないの? 次も呼んでくれる? 私、盗人と詐欺師の守護神だよ? オッキーをだましたんだよ? 」


 目にいっぱい涙をためたラウェルナは哀願するように、両手を組んで祈るように言う。


「何を言う? ラウェルナも騙されていたのだろう? 妾とラウェルナは友ではないか。これから何回も女子会をするのだ」


「嬉しい。私、本当のお友達ができたの初めて! 」


 ラウェルナが顔を上げ、涙を拭きながら弾ける笑顔を見せた。


「じゃあ、乾杯する? 」


「ああ、私たちの友情に! 」


「「「カンパーイ」」」



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