表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/76

67.メーオのキス

「僕がダメな理由を言って」


「沢山の人と恋人になってるから、私もそのうちの一人になってしまいそう」


「じゃあ、結婚しよう! 僕は1回も結婚していないよ。魔法契約で浮気も、離婚もしないと契約したらいいよ」


「後は、後は、ゴミ屋敷にしそう」


「ハヅキが手伝ってくれたら、もうゴミは溜めないよ」


「んっと、理想とちょっと違う」


「ハヅキの理想のポームメーレニアンはまだ好きかい? 何のための理想なの? ハヅキは顔やお金や身長で恋人を選ぶの? 僕の顔は嫌い? 魔法で顔も、身長も、体格も変えられるよ? 性格だってハヅキ好みに変えられるかもしれない。でもそれって、何を愛してるの? 僕は僕だよ。


 もし、ハヅキが僕を『理想の王子様』にしたいなら、自分の都合のいいひとにしたいだけの自己満足なんじゃない?でも、ハヅキは僕を変えようとしなかったよね。変態で、倫理観がおかしいって言われてる僕を変な目で見ないで僕自身を見てくれてた。それで、ハヅキは『理想の王子様』と『僕』だったらどっちが好き?」

 

「うっ。確かに、メーオはそのままのメーオじゃないと嫌。メーオは、その、そのままでも十分素敵……デス。メーオが良いデス」


「ねえ、ねえ、他には? 」


「特にない……かな? 」


「それで、結果は? 好き? 嫌い? 」


 片方だけ口の端を上げメーオがニヤリと笑う。わかっているのに聞いてくる。やっぱり性格が悪い。でも、ちょっとだけ翻弄(ほんろう)されているのも、構われているみたいで嬉しいかも。


「スキデス……」


 メーオの綺麗な顔が迫ってくる。


 あ、メーオってロシアンブルーなのかな。ブルーグレーの髪とまつ毛が月明りに光って、シルバーブルーに見えている。綺麗だな。それに本当に綺麗な瞳。エメラルドグリーンなんだ。肌も綺麗。髭が見当たらない位ツルツル……。


「ねえ、ハヅキ。接吻、したことあるの? 」


「んー。ずっと前に、ちょっとだけ 」


 葉月は右手の親指と人さし指で「少しだけ」のジェスチャーをしながら眉を(すが)めながら言う。


「……はぁ。道は長そうだね。でも、今夜は楽しかった。ハヅキの気持ちもちょっと聞けたし。すっかり酔いも醒めちゃったね。帰ろうか」


 はい、と手の平を上にしてメーオが待っている。葉月はそっとちょっとだけ手を置いてみる。途端に、がっしりと握りこまれる。こ、これは! 恋人つなぎではないか! 一気に緊張し、手汗が出てきてすごく気になる。


「ねえ、さっき接吻しようとしても平然と目を開けてジーっと見てたよね? その時は緊張しなかったの? 」


「うー。現実とは思えなくて。今は、何か恥ずかしくなっちゃって」


 メーオはニコニコと笑いながら葉月をのぞき込む。ご機嫌だ。


「メーオ。私、全然恋愛の事わかんなくてさ。今のこの状態は『お友達からよろしくお願いします』なの? 」


 メーオは愕然(がくぜん)として、足が止まってしまう。


「何? 僕、プロポーズまでしたつもりだったのに! 全然伝わってないじゃないか! 」


「え、プロポーズ? まって、まって。恵兄ちゃんと弥生に紹介して、お付き合いの許可取らんばいかんやん。それと、タオやシリにも相談したいかな? 」


「え、なんでタオ? 葉月はタオの事が好きなの? なんで僕と付き合うのにタオに許可がいるのさ! 」


「家族として、だよ。拾ってもらって、自由民にしてもらったからね。弟だっていつも言ってるでしょ? 」


「タオがハヅキを特別に思っている事なんて知ってるんだよ。ハヅキは、タオに僕と結婚を前提に付き合ってるて言えるの? 」


「まだ、そこまでは無いというか……。メーオが私の事想ってくれている事は伝わったけど、私の気持ちがついて行ってないというか……」


 いつの間にか、ホテルの中庭まで来ていた。メーオがちらりと上を見た。そして、葉月を見つめて優しく抱きしめてきた。葉月は、メーオが自分を想ってくれている気持ちに応えたくて、肩口におでこを乗せ、背中にそっと手を添える。お互いの体温がじんわりと循環している。


「ハヅキ、好きだよ。大切にする。僕の事、もっともっと好きになって」


 メーオの懇願(こんがん)するような苦し気な声が頬の横で吐き出された。葉月は心配になり、メーオの顔を見上げる。


 そっと葉月の顎に指が添えられ、唇にキスが落とされる。驚き、目を開けたまま動けない葉月の唇に(ついば)む様なキスが何回も繰り返される。間にメーオが甘い甘い声で「好きだ」「愛している」「僕だけを見て」「僕だけのハヅキになって」と囁いてくる。頭がショートしそうな葉月は、目をギュッと閉じて、メーオに(ゆだ)ねるしかない位、足に力が入らなくなっていた。背中に添えられた葉月の手が、(すが)るようにシャツを掴んでいる。メーオは葉月の肉付きの良い下唇を軽く噛んだり、唇の表面の柔らかさを確認する様に擦り付ける。段々、メーオに翻弄(ほんろう)され、葉月は吐息に甘い響きを(まと)わせはじめている。メーオの唇が離れる頃には、寂しさを感じる程になり、思わず追いかけ、自分から軽いキスをする。


 こんなの、葉月が知っているキスではない。BLの濃厚なモノでもなく、アイドルの映画のかわいらしいモノでもなく、韓国ドラマのハムハムキスでもない。エロくも、セクシーでもなくて、甘いキスだった。


「恥ずかしがり屋のハヅキも可愛いけど、積極的なハヅキも可愛かったよ。ハヅキから接吻をお返ししてもらったって事は、ハヅキも僕の事好きって事で良いかな?」


 こんなキスをされて、それを受け入れるぐらい、葉月はメーオの事が好きなのだろうと、葉月は自覚した。顔を赤らめ、手でパタパタと顔を(あお)いでいる。目を泳がせながらも、目の端でメーオの優し気な笑顔を(とら)えて、こっくりと頷く。


「明日、あ、今日か、ハヅキのティーノーンの家族と、二ホンの家族に挨拶をしていいかな? 誰かが横から(さら)っていかないように、早く結婚がしたいんだ。どうかな? 」


「分かった。でも、早くないかな? なんか、今日気持ちが分かったばかりなので、しばらく恋人……を、堪能(たんのう)したいというか……」 


「ん。良いよ。お姫様のおっしゃるままに。でも、恋人になった報告はしなくちゃね。では、お休み」 


 従業員出入り口まで送ってくれたメーオと別れる。別れ際に、おでこにキスをしてくれたのにそれだけでは物足りなく感じた自分が恥ずかしくなって、小走りで部屋に戻った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ