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62. カセムホテル

 カセムホテル(幸福なホテル)の滑り出しは好調だった。


 カセムホテルは、一般の宿屋より、やや高級な料金設定だ。改装前の労働者向けの宿で一人部屋が小銀貨二~五枚だった事を考えるとやっぱり高級宿に分類されるだろう。その代わり、改装前はシーツは1週間に一回の交換、食事も付いていなかった。


 今回、特別室は一泊銀貨三枚~、家族室は銀貨二枚~、一人部屋は銀貨一枚~だ。感覚としては銀貨一枚は一万円なので、庶民としては、手が出ないほど高級ではないが、ちょっと贅沢と感じるくらいだろうか。いや、特別室は大人二名に限定させてもらっているが、家族室はダブルベッドが二台とベッドにもなりそうな大きさのソファがあり泊まれるだけOKとしているので、小さな子がいる子沢山の家族ならば格安なのかもしれない。メーオが開店祝いとして各部屋や食堂の個室に防音魔法を施してくれたので、今のところ騒音の苦情は来ていない。


 改装後はバンジュートの生活様式に合わせて、宿泊者限定の朝・昼に二種類から選べる軽食が付く。そしてその目玉は「ムーの粥」と「ムーの包子(ぱおず)」だ。チェックインは午後二時以降になっているが、チェックイン前でもこの昼食のためのレストランの使用が可能だ。宿泊客が少ないのでできる事なのだが、翌日早朝に出立予定の客には特に好評だ。


 夕食はおまかせコースディナーは「ハヅキの、ぽい料理」の折衷(せっちゅう)料理が十五食限定。これが小銀貨五枚。おつまみ、包子などが各小銀貨一枚。飲み物は一番安い果実水で銅貨一枚、一番高いキラービーの蜂蜜酒が銀貨一枚。


 大体一日の収入は金貨二枚程度だ。従業員は、タオ、カイン、葉月、ドウの四人に従業員を五人程度雇っているので、経費を差し引くとようやく黒字と言ったところか。そこはタオと葉月が、魔獣や獣や魚などを狩ってきて、その肉をレストランで使用したり、魔獣や獣の皮や骨・内臓などをギルドに買い取ってもらうことで、経費以上の収入があるので経営に不安は無い。

 

 想定外だったのは、一人部屋を三室準備したのだが、それが全部ナ・シングワンチャーの魔法兵士によって長期利用されることになった事だろうか。メーオが設置した転移門でそれぞれ出勤している。転移門は相当量の魔力が必要で、また、生体認証の様に使用者が限られるため、安全面も大丈夫との事。出勤時には昼食として、それぞれマジックバッグに熱々の粥を持って行ったり、麺類を持っていけるのは魔法使いの特権だろうか。経済的に大丈夫かとメーオに尋ねると「健康的で清潔な獣人らしい生活ができる。色々な付き合いが自然消滅したので、僕を含めた3人は支出としては大分減っているんじゃないかな」と言っていた。


 メーオはこの際と、褒賞でもらったというあの家を売ってしまったらしい。バーリック様は「メーオだからな」と気にされなかったそうだ。


 三人は一日銀貨一枚と小銀貨五枚で全てのサービスを受けることができるようにしている。掃除、洗濯、アイロンがけ、三食と飲み物全て、一週間に一回の葉月のマッサージを含む、オールインクルーシブにした。色々計算するのが面倒だっただけだが、一年で金貨五十四枚。葉月の奴隷だった時の値段より高いが、高給取りの魔法兵士には特に負担になる金額ではない様で安心している。


 利用客は湖の村や近隣の村から食事のみ来る客が多かったが、ムーの夫や、その子ども達、新婚の次男夫婦を順次招待したことで、ナ・シングワンチャーの荘園で新婚旅行のブームに火がついたようだ。


 日々忙しく働きながらも、タオとの魔獣狩りを楽しむ。ドウは手先が器用で、包子を包む正確さと美しさは職人そのものの様だ。カインとシリはお付き合いを続けている。カインはタオから経理を引き継ぎ頑張っている。シリは葉月が言っていた「ウェディングドレス」を作りたいと言っていたので、蘭に教えてもらいながら仕事の後、少しずつ一緒に作っている。キックとノーイは三歳になった。


 従業員には子どもが元気なら連れてきて良いと言っている。また、託児所の様な事をやっている。ホテルの従業員スペースには保育園の時に使用していた遊具やおもちゃと同じものを準備していた。裏庭には柵で囲まれた所に、ブランコやアスレチック滑り台、砂場などを設置した。室内ではキッズスペースを設け、小さな滑り台や積み木や、おままごとセット、お人形遊びもできる。主にシリが従業員スペースの家事をしながら、子ども達の面倒を見ている。マッサージ希望者はお子様のお預かりも有料で行っている。その際は、子育てが落ち着いた三十代の女性をアルバイトで積極的に近所から雇っている。帰りに「ムーの包子セット」がお土産でもらえるので、かなり人気の職業になっている。

 

 そんなある日、カインが難しい顔をしてタオの元にやってきた。


「予約客の変更でポームメーレニアン様を見つけたけど、大丈夫か? 」


 カセムホテルが人気の為、予約をしていた方がキャンセルするよりはと、知人に譲ったと手紙で連絡してきたのだ。

 

「新婚旅行と手紙に書いてある。豪族のご子息なのでよろしくとも書いてあるんだ」


「明後日じゃな。いつものように特別室を新婚仕様にして、花と果物、甘味、蜂蜜酒を一瓶準備すれば大丈夫じゃ。ハヅキは厨房から出てこないように言いつければいいのじゃ。もめごとにならないようにしなければの」


 葉月やシリやドウの受けた仕打ちを考えれば、泊って欲しくは無かったが、宿屋を続けるためにも豪族から目を付けられることは避けたい。タオは苦渋の決断をし、ポームメーレニアンの宿泊を受け入れる事にした。


 ※ ※ ※


「明日、ポームメーレニアン様が宿泊することになった。新婚旅行だそうだ。いつも以上に気を付けて準備をするのじゃ」


「ハヅキ、明日休みにしたら? 私、給仕はいつものアルバイトさんに代わってもらって、託児所の方に2日とも入るよ。ドウもお休みもらってる。料理、マジックバッグに入れておいたの出すだけじゃダメ? 」


 カインとシリが心配げに見ている。


「うん、ちょっと気まずいけど、よく考えたら、私悪くないでしょ? だから、厨房には入って、きちんとした料理を出したいと思ってる。大丈夫よ! 」



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