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61.理想の生活

 湖の畔を歩きながら、墓地まで続くなだらかな丘をメーオと歩く。メーオと出会った時は『妖艶(ようえん)な魔法使い』と言った風だったが、この頃は大型の猫としか思えない。葉月の周りを、ゴロゴロと喉を鳴らし、尻尾を巻き付けながらグルグル廻っている幻影が見える様だ。


 お墓に供える花を摘みながら進む。メーオは綺麗な花を見つけると離れ、花を摘んでは戻ってきて、自慢げに葉月に花を渡す事を繰り返している。同い年のオジサンがそんなことをやっていると思うと可笑しくなって、笑ってしまった。

 

「メーオ、何か出会った頃と全然違うね。今のメーオは、んー? カワイイかな? 出会ったころは、妖艶な魔法使いそのものだったよ」


「そう? ありがとう! ハヅキに好意的に思ってもらえるなら、カワイイでも何でもいいよ。そう言う葉月も、半分くらいになったんじゃない? 今、荘園の下町に行っても、すぐハヅキだって気付く人は少ないかもね? でも、今は誰が見ても美人になちゃって、ちょっと心配だよ。僕は前のフワフワ美味しそうなハヅキも、今のプリプリ美味しそうなハヅキも、どっちも好きかなー」


「何それ。私、食べられちゃうの」


「そう、今、口開けて待ってるところ。落ちてこないかなーって」


「ふふふ。落ちるまで待ってたら、腐ってるよ」


 メーオはスッキリとした顔つきになった横顔の葉月を見る。顎のラインがシャープになったのに、まろい頬は美味しそうだ。


「じゃあ、腐る前に、食べちゃおう」


 葉月の頬に(かじ)り付く。ああ、美味しい。ただ(かじ)り付くだけではもったいなくて、ぺろりと()めとった。


「ぎゃっ!! やめてよっ! 痛い! 気持ち悪いっ! 」


 葉月は水魔法で顔を洗っている。(かじ)り付いた頬が赤くなっている。手拭いで顔を拭きながら、葉月はプリプリ怒っている。


「もうっ! ふざけ過ぎ! 本当に(かじ)るなんて頭おかしいよ! 」


 そうは言うが、もう許されていることをメーオは知っている。メーオの事は男と認識していないので、さっきの事も冗談の範疇(はんちゅう)と思っているのだ。


「ごめん、ごめん。治癒魔法で許してくれる」


 メーオは詠唱しながら、噛り付いた頬にキスをして、治癒魔法を発動する。


「メーオ! 」


 葉月はメーオをにらんでいる。


 ほら、本当に嫌がってはいないのだ。その証拠に、頬に接吻しても顔を赤くするだけでそれ以上怒ったり、拒否したりしないのだから。


 ※ ※ ※


 葉月は墓地でキックとノーイの両親、ペーンとハーン、マレと子どもの墓に花を手向(たむ)ける。これからも、ティーノーンでの家族のために尽くすことを約束する。


 湖へ続く道を下る。メーオが自然に手を取って、エスコートをしてくれる。葉月はメーオがスマートにエスコートできることにちょっと嫉妬をしてしまうが、そんなことはおくびにも出さず手を取る。


「長くお祈りしていたね。何を話してたの」


「これからも、家族のために尽くしますって。いよいよ、来週から宿屋と食堂を開店するからね。ホテルとかレストランって呼び方、浸透(しんとう)するかな」


「皆、新しい事が大好きだし、今は景気も良いから、忙しくなるんじゃないかな? 宿も綺麗だし、ハヅキの料理は美味しいし、美人な人族のハヅキとシリが看板娘になるからね」


「メーオさんは、お上手ね」


「本当の事だからね」


 二人でふざけ、じゃれ合うようにしていたら、いつの間にか貸ボート小屋のある桟橋に着いた。


「どうする? せっかくだからボートに乗って釣りをしてみる? 」


「そうだね。大物が釣れてもアイテムボックスに入れれば良いだけだし」


「今日は、魔力操作で釣りしてみようよ」


「そんなことできるの? 」


「何事も、実験から始まるんだよ」


 メーオがボートを漕ぎながら湖の中心部近くまで行く。透明度の高い水の為、底が見える様だ。思っているより水深は深いのかもしれない。


 メーオは中性的なため、いつもは男性的な所を見る事があまりない。ボートを漕ぐ腕の太さや浮き出た血管に思いがけず「男」を感じて、葉月はドキドキしてしまったがそんな気持ちには気付かないふりをする。


 初めに湖のどこに魚がいるか探ってみることにした。メーオが葉月の後ろに座り、二人の手を重ねる。両手を湖の湖面に向け、魔力探知をしてみる。魚群を感じる。これは、魚群探知機の様だ。


「ハヅキ、何か大きい魚を感じるよ。そう右の奥の方。僕たちの魔力で上に移動させてみようよ」


 水に浸かり水をたっぷり含んだような布団を持ち上げる感覚が腕に伝わる。二人の魔力で持ち上げるが、魚の周りの水まで持ち上げている様だ。


「ハヅキの重力魔法で軽くしてみて! 」


 途端に、網の中から水が抜けたように感じて魚が浮上していくのを感じる。ザッパーンと水しぶきが上がり、三メートルを超えるマスが空中に浮かんでいる。


「あ、あれ、あれやって! ハヅキが言ってた神経締め! 」


 いつもやっているやつね。大きくなったからと言って、手順は変わらない。


「神経締め!! 血抜き!! ヌメリ取り!! 内臓除去!! 大名おろし!! 骨抜き!! 」


 不要なものはアイテムボックスに一旦収納し、後で廃棄する。一度も触ることなく、アイテムボックスにシュルリと入っていく。晃の動画で、魚を釣って捌いて調理するキャンプ飯動画の調理指導は葉月だった。巨大になっても、魔法を使っても、イメージは大事。魔法の発動がスムーズにいくためには、実際に流れるように指示を出せるかで違うようにも感じている。


「やったー。僕も初めて魔力操作で魚釣り出来たよ。できると思ってなかったけど、ハヅキとなら何でもできそうな気がするよ」


 メーオの手放しの称賛に照れる。年を取っても褒められるのは嬉しいものだ。さて、今日の釣果(ちょうか)はこれで十分。今から帰って、晩御飯に出してあげよう。


「メーオ、今日の晩御飯はお魚だよ。どんな風にして食べたい」


 メーオはボートを漕ぎながら、葉月に笑って言う。


「その前にハヅキを食べたい」


「はいはい。で、ムニエルが一番好きでしょ? キノコが嫌いだから、キノコと蒸したのは大皿で作って皆と分けようかな。大きかったから大量にありすぎて、しばらくは釣りもいいいかなー。鮭とば風にして、保存食としてギルドに売っちゃおっかな」


 メーオは以前、葉月から教えてもらった地球のお話しの「オオカミ少年」の悲しい気持ちを体感していた。あまりにも、葉月を食べたいだの言いすぎて相手にしてもらえていないのだ。だが、それでもいい。毎日、葉月に会える生活を手に入れたのだ。今日も葉月の作ったご飯を食べ、明日も葉月が朝起こしてくれる。



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