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45.晃の初恋

 晃は二階の自分の部屋に行ってしまった。賢哉が追いかけて行って、入り口で何か話している様だ。


 晴は今まで晃と喧嘩をあまりしたことが無い。晃が引いてくれるので喧嘩まで至らないことが多かったからだ。今日、こんな風に晴や葉月に言ってきたということは、どうしても伝えたかったことだからだろう。


 今まで、晃は異性愛者だと思っていた。モテすぎるから、一人の女の子に決めるのが嫌なのかとも思っていた。そういえば、晴の今までの彼氏と比べると、晃には男性的な性の匂いがしない。いや、高身長だし、筋トレもしていて細身だががっちりはしている。言葉遣いも、優しいが男性的だし、俺と言っている。特別、女性らしいというところは無い。


 晃の(かも)し出す優し気な雰囲気も、中性的なファッションが好きなのも、長い髪が綺麗なのも、メイクをするのも、ネイルをするのも、女の子が好きな話に付き合ってくれるのも「晃」だからだ。


 今も、晃のカミングアウトを聞いても何も、今までと変わらない。ただ、晴は晃に、秘密を話す価値がないと思われているのがショックだった。双子でも、性別も違うし、性格も、考え方も違うのは当たり前だ。実際、双子あるあるの様に言動がシンクロもしない。だけど、晴は晃の一番の理解者でありたいと思っていたのは本当だ。


「葉月ごめん。私晃と話したい。じゃあまたね。ポメ様の事、今私考えきれん。ごめん」


「うん。そうね。わかった。晃を追い詰めちゃってごめんて言うとって。またね」


 晴は葉月との通信を切り、晃の部屋に行く。扉の前に賢哉が正座して話している。


「晃、俺、ずっと、ここにいるから……」


「賢哉君。晃、出てきてくれない? 」


「うん、部屋にこもっちゃって。……俺は何と言っていいか分からないし……。今、俺が何言ったって聞いてもらえない様な気がするから」


「そっか」


 晴はドンドンドンと(ふすま)の縁をたたく。しかし、返事は無い。襖を開けてみようと試みるが、動かない。突っ張り棒で開かないようにしているのだろう。


「晃! 開けてー! 私、晃と話したい!! ねー! 開けて! 」


 反応は無い。晴は自分の部屋に行き、窓の手すり沿いに晃の部屋の窓から侵入した。窓が開いていて良かった。ベッドで布団をかぶり丸くなっている晃を布団ごとハグする。


「晃。ごめんね。気付いてあげられなくて。晃の本当の気持ちを相談できるような姉じゃなくてごめん……」


 晃は布団の中から、モゴモゴしながら返答する。くぐもっていて、聞き取りづらい。


「晴……。どこから入ってきとると? 窓から? 落ちたらどうすると? 小学校の時から変わらんね」


「だって、晃の一大事やもん。そがん時は、いつも一緒だったやろ? 私じゃ頼りなかった? 何か言われると思ったから言えなかったの? 」


 晃は目元を赤く腫らして布団から顔を出してくれた。晴は晃を座らせ、その横に座る。しばらくすると落ち着いたのか、晃は、ぼちぼちと話し出した。


「晴。俺、ゲイの事で晴に何か言われるとかは思っとらんよ。晴は俺を『晃』として見てくれとるけんね。たぶん、葉月もそうだと思う。女装のオネエさんになっていても、今と変わらないでいてくれると確信してる。だから良くある、家族の無理解とかの葛藤は無いし、この家でたった一人の男の役割とかも考えたことない。きっと松尾家の皆はそんな事気にしないと思う。だから、世の中のゲイの人たちより、とっても生きやすかったんじゃないかな。でも、やっぱり家族には言えんかった。中学の時は、男の子の方が好きだと感じてはいたけど、自分でもそれが何なのかわかっとらんやったし。


 ハッキリしたのは大学に入ってから。ちゃんと自分の性的指向を理解した後に、ゼミの先輩を好きになった。初恋だね。先輩は異性愛者で、彼女もいたことがある人やったとけどさ。ゼミで色々助けてもらったり、遊んでもらったりしているうちに好きになっとった。だけど、俺はゲイだってことは誰にも言わんで隠しとったとさ。


 そんな時、飲み会の帰りに酔った先輩が『晃なら抱ける』って言って、すごくお願いされて、二人で《《お試しにお付き合い》》することにしたとさ。だけど、特に今までと変わらなくて、一緒にゲームしたり、ご飯作ってあげたり、映画行ったり、服買いに行ったり、本当に普通に一緒にいることができてて、このまま段々と付き合いを深めたら本当に交際することができるかなって。BLマンガみたいな事があるんだって思ってた時やった。先輩が『手を繋いで歩いてみようか』って初めて手ば繋いだとさね。恋人つなぎってやつ。そいぎん『あー、やっぱ無理だわ! 晃ならいけると思ったけど、無理やった。晃、実験に付き合わせてごめん。今日で終了』って。


 俺の初恋はそれで終わり。先輩にとって実験して終了しただけ。それから、度々このことをゼミの飲み会のネタにするから、ずっと傷ついてた。そいでね、たぶんちょっとだけ、と言うか、すごく晴が羨ましいとも思ってた。好きな人に好きだって、何も考えも無く告白できる晴がさ……」


「えー、私、節操無い子みたいじゃん」


「それに近い感じじゃなか? かっこいいとか、優しかったとか、歌が上手いとか、ちょっとしたことで好きになって、好き好き言うじゃん。その人のほんのちょっとしか知らないのに、良く告白できるなって思ってた」


「晃、一皮むけたら結構辛辣(しんらつ)だね。だって好きになっちゃうんだもん。だけど、そうかもねー。惚れっぽいのももう少し考えないとだね。付き合う人は、連絡先全消しの束縛男とか、浮気男だったり、ただ私を飾りにしたいだけとかさ、私、ダメンズ製造機なんだよね」


「葉月の系統を引き継いでない。晴の事もっと根本から好きになってくれる人をじっくり交流してから考えたら?」


「うん。でも、もう社会人になるし、しばらくは仕事頑張る。もし、気になる人いたら、晃に一緒に見極めるのお願いするね。でさ、晃は今好きな人はいると? 」


「まあ、いるんだけど、この気持ちはそのまま(ふた)してしまっとこうかなって。蓋を開けたくなったら相談するね」


「了解。あ、そうだ。晃にBL勧めたりしてごめん。怒ってる? 」


「あはは。大丈夫。今はね、BLはねファンタジーと思っとるけん。お試しで付き合って、ノンケのスパダリが溺愛してくれるなんて、夢みたいだよねー。あとは、幼馴染の両片想いとか! 実は、晴の秘蔵BL本棚、ほとんど制覇(せいは)しとるよ。立派な腐男子ばい」


「あー! 葉月が向こう行っちゃったから、語り合える人いなかったんだよね! 嬉しい! 葉月の部屋にも(いにしえ)のBL本があるよ! 」


「そうだ。賢哉も腐男子だよ。ねー、賢哉」


 ガタガタと襖の向こうで、賢哉が慌てている。いい加減、襖の前で正座はかわいそうだ。この後、お茶でもしてBL談議にでも花を咲かせようか。




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