42.それ、何魔法ですか?
祝詞を奏上し、魔法を発動させる。庭に直径三メートル、深さ五メートルの穴を掘る。門扉や塀に絡まっている茨なども風魔法でカットし、落ち葉掃除に使うブロワーをイメージし、穴に吹き飛ばす。庭木の剪定も、電気のこぎりのイメージで風魔法でスパスパとカットする。何とか、門扉から玄関まで通過できるようになった。これでゴミの搬出もできるようになった。
「メーオ! 大切なものは全部仕舞ったね? 今から貴方が固めたゴミ、全捨てするから。もう何年も発掘しなくていいなら、捨ててよし! 行くよ!
祓え給え、清め給え、ゴミ圧縮! 梱包! 」
何のゴミか分からないが葉月の胸位まであったゴミが圧縮され統一した段ボール大の塊になり、各部屋の入口に積まれる。時々、何かわからない汁が飛び出たりしているが、この際見なかったことにして、後でまとめて対応することにした。
「ハヅキ! すごいよ! 何、この魔法! さっきも土魔法と風魔法自由自在に使ってたでしょ? 本当に魔力が極小なの? 」
「できる、ってだけ。ねえ、メーオだったらコレ、穴に運べるよね。お願い。お家が片付いたら、好きなだけ魔法見せるから」
「わかった! 」
メーオが歌うように魔法の詠唱をしている。何回か聞いているが、ティーノーンの古代語は美しい旋律だ。
ゴミが次々に庭の穴の中に入っていく。ゴミが無くなれば、家具も少なく、掃除もしやすい。だが、色々な汁やシミや匂いが……とにかく洗浄して消毒しよう!
メーオに一部屋ずつ家具を全て移動してもらう。この高床式住居は家電なども無く、ガラスも無い。丸洗い可能だ。
「洗浄!! 乾燥!! 研磨!! 洗浄!! 乾燥!! オゾン脱臭!! 」そして仕上げに手作業で糠袋で磨き上げる。中々大変だ。一部屋に三十分位かかりそう。でも家が内側から明るくなったように感じる。床も壁もピカピカだ。
メーオの家の台所や風呂は自宅内にあり、石造りだった。ほとんど自炊しないため、台所はゴミが無くなればキレイなモノだった。液状化した何かに出会わなくて安心した。その代わり、風呂は日本庭園の鯉の池の様だ。メーオは自宅の風呂が使用できないので、兵士の宿舎で入浴していたそうだ。
石造りならば、遠慮する必要はない。この際、高圧洗浄で洗っていく。水をかけたところから明るい石の色になる。綺麗になるのは快感だ。
五時になり、ようやく掃除の目途がついてきた。アニメや小説の魔法使いは杖の一振りで部屋がきれいになるのではなかったのか? この際、メーオに解明してもらい、もっと便利に使いたいものだ。
「ハヅキ! 君ってすごいね! なんか、僕、君にドキドキしてきたような気がする!」
「あー、健康診断受けた方がいいですよ」
穴にすべてのゴミを入れると七割ほど埋まってしまった。何か変な汁も出てたから、焼却しないと。それに、ここは住宅街なので、火事が心配だ。それならば一瞬で焼き尽くせばいいのよね。イメージは火を噴く怪獣だ。
「熱線!! 十万度!!」
熱線がゴミに着弾すると、チュドーンと言う爆音と共に、一瞬にしてゴミは消滅し、穴の中は黒く焦げ、大量の白い煙を上げている。
「ヤバい……」
「ハヅキ! 今、何をしたんだい? まるでターオルングのニホンジンみたいじゃないか! 」
メーオはいつの間にか葉月の背後に移動し、ハグに見せかけた拘束をしてきた。
「魔法を使っちゃだめだから、ただ抱きしめているだけだよ。ハヅキは何で極小の魔力なのにこんなことができるのかな? 今日は、家に帰したくないな。いい? ハヅキ? 」
綺麗な顔で、強く抱きしめられ甘い声で耳元で囁かれているが、暴力的なメーオを知っている葉月は恐怖で動けない。
「……これは、あくまでも仮説なんだけど。だから、私の妄想だって思ってね」
メーオは訝し気に葉月の顔をのぞき込む。バンジュートでも一番の都市、ナ・シングワンチャーの荘園の中でも上位の魔法使いであるメーオに、いつか姫と話していた魔力の中間搾取の話をしてみることにした。
「私は、ティーノーンで魔法を発動する時、魔力の中間搾取が行われてると考えてるの」
「一体なぜそんな突飛な考えになるんだ? 魔法はティーノーンの神々の恩恵で成り立っているんだよ? 」
心の底から、ティーノーンの神々を疑ったことが無いのだろう。メーオのキョトンとした顔から窺がえる。
「私達、地球人は、ティーノーンでは少しの魔力で、大きな魔法が使えるのだと仮定して聞いてね。
ティーノーンの神々は、自分への信仰心を高めたい時、地球人を利用しているでしょ? 具体的には聖女にして自分の領地に奇跡を起こしたいとか、魔獣退治の勇者とか、国の結界魔法が一人で張れる魔法使いを呼ぶことができるなどね。
そんな地球人が欲しい時、仲買人みたいな神様に依頼するのじゃないかと思ってるの。
地球から転移させるのに、膨大な魔力が必要だったでしょ?その仲買人みたいな神様が、その魔力のいくらかをもらって、地球人を届けてくれるの。
でもね、それだけじゃなくて、地球人が魔法を使うたびに、仲介料を魔力の形で差し引いている様なの。毎回、地球の神仏に祈る言葉をキーワードにしてね」
メーオは拘束した腕をゆっくりゆるめている。
「うーん。まあ、できない事は無いけど……。あ、ハヅキは?魔力が極小なら、仲介料取られたら発動だってしないんじゃないの? 」
「それがね、私の守護神をしている息長足姫は、その仲介人と仲たがいしていて、なんかリストに載ってないみたい。だから、直接魔力の発動をしているので、とても自由に魔法が使えてるの」
「ふーん。でもさ、仲介するのって、それって何が悪いの? チキュウジンが気付いて無かったら良いんじゃない」
あぁ、これがティーノーンの倫理観なのか、メーオの倫理観か分からないけど、中々伝わらないかも。少しずつ伝えないと。
「私は、知らない内に自分のモノが誰かに使われたり、盗まれるのは嫌なの。誰かに望まれて自分が了承してからならばいいけど」
「ハヅキは僕が望んだらこれからも魔法見せてくれるの」
「ええ。私は自分の魔法の事も、ティーノーンの魔法の事も知らない。だから、これからメーオと一緒に私の魔法を解明してほしいと思っているのは本当。だから、脅迫だったり、強要したりしないでほしいの。特に、私は今の家族を大切に思ってるから、迷惑や心配をさせたくない。そこは、わかって欲しい……」
メーオは完全に拘束を解き、ハヅキの手を引く。上目遣いでお願いしてくる。
「これから長い付き合いになるから、店主に怒られないように今日はこのまま帰ろうね。ねえ、ハヅキ、僕、もう次に会う日が楽しみだよ! 」
破顔するメーオは作り物の笑顔ではなくなっていた。