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39.楽しい通話

「えっ。これって、恋なの……? 」


 葉月は顔を赤らめ、もじもじしだした。通話中の皆は、心配顔だ。


「ねえ、私たちが小学校の時に読んでた少女漫画にそっくりのセリフ聞いたばってん、四十三になって、そいで大丈夫と? 良いように言われて、風俗に売られたりするとじゃなかと? そいか、臓器売買とか? 」


「あ、私もうこっちでお婆ちゃんだから、風俗というか、性的な目で見られないだろうって言われたから、大丈夫。その前に、デブスだし……。でも、臓器売買は分からんけど、たぶん売られたりはしないと思う。私、特殊な治癒魔法が使えるけん」


「えぇ? 葉月魔法の使えると? すごかー! こがん手ば前に持ってきてステータスオープン! とか言いよるとね? 」


「ストップ! また脱線しよる。この通話もいつまで出来るとか分からんとけ、要点ば、まとめて言わんか」


「あ、そうだね。何分ぐらい経った? こっち、時計の無いとさ 」


「ん-、二十分? 三十分位? そっちって時間、どがんやってわかると? 」


「昼間は教会の鐘でわかるとよ。そっちは、今何時?」


「えっと、十九時四十一分。十八時すぎから儀式して息長足姫様に葉月と連絡取れるようにお願いしたとよ。もっと時間たってると思ったけど、まだ2時間も経っとらんやった」


「んー、時差がね九時間位あるとよ。だけん、こっちは朝十時位」


 その時、手鏡の光が点滅を始めた。段々、光の点滅のテンポが速まる。


「あ、なんだかもうすぐ切れるような気がする。そいぎん、またねー!一日経ったらまた話せると思うけん!バイバーイ!! 」


「うん、そいぎーね! また、かけるけん。またね! 話せて嬉しかったよ! バイバイ! 」


 点滅と音が消えた瞬間、手鏡の中には蛍光灯とのぞき込む弥生たちだけの顔が映っている。誰のか分からないが、大きなため息が聞こえた。


「葉月だったね。全然変わっとらんやったー。一緒に住んでる人も優しそうで良かったね」


「『良かったねー』『うんうん』や、なかばい! バラバラバラバラ、自分の興味のあることばっかい聞いて! もっと、要点ばまとめて、簡潔にさっと要件ば伝えんば! 社会人の常識もできとらん! 弥生はそいで、会社ば運営できとっとか? そいに、葉月はあがん状態で大丈夫とか? 三ヶ月も一緒に住んどると情も湧くやろう。すぐ絆されて、騙さるっけん、俺は心配か。そいばってん、もう近くで、守ってやることもできんとばい。お前たちは、心配せんとか? 」


「私、葉月になんで家を出たのか聞いてないけど、多分、自分の力で生活してみたかったとかなって思ってると。成金になったし、双子も手を離れるし、私の会社も軌道に乗ってきて、何の憂いも無いのが不安だったとかなって。本当の理由は今度聞いてみるけど、葉月さ、ネガティブだから、皆に頼られていない状態になるのが怖かったのかも。皆、葉月に癒されてたし、いないと困るけど、伝わってなかったとかなー。皆、葉月の事、大好きなんだけどな」


「弥生がそがん、しょぼくれとっぎん、葉月が心配すっよ。葉月は、あがん見えて、案外打たれ強かし、根性もあるけん大丈夫て私は思うとっよ。案外、向こうの生活は、葉月にあっとるかもよ。タオさんも良か人のごたるけん、好きになっても良かとじゃなかかな? 婆ちゃんでも、まだまだ恋しても良かろうもん。そいにさ、恋愛ぐらい失敗したって、よかろうもん」


「そがんね。何したってよかよね! 蘭、恵兄ちゃん。晴と晃には言ってたけど、私、会社ばやめようて思っとーと。もう、お金はあるし、子どもも自立するし、のんびり畑とか田んぼとかしようかなって。まあ、お酒でも飲みながら話そうか。久しぶり皆揃ったけん、一緒に飲もうかねー! 恵兄ちゃん、蘭、料理は任せた! 晃、賢哉君、お酒ば買ってきて! スポンサーになるけん、ジャンジャンいい酒買ってきてね! 」


「じゃあ、私、テーブルセッティングしとくねー。ワインクーラーと氷も準備すっけん」


「やったー! ジャンジャン飲むぞー! 晴、ワイン用の冷蔵庫に鍋島のスパークリングのあるけん出しとって! 今日は葉月と話せた記念日やしね。つまみ何ば作ろうか。佐賀牛の塊ば冷凍しとったとのあったと思うばってんなー。畑から、ネギと大葉取って来よう」


「何で、人ん家の冷凍庫や畑の作物まで把握しとるとか? まあ、いいか。葉月と話せた記念日だしな」 


 月明りの下、ようやく涼しくなってきた夜風が頬を撫でる。皆は葉月が無事だったことに安堵し、次は何を話そうかとそれぞれ思いながら、久しぶりに楽しい気持ちで酒宴の準備を始めた。


 ※ ※ ※


 葉月は裏庭に続く階段に座り、手鏡を胸に抱き、皆の言葉や表情を反芻して思い出している。うふふと声を出してしまう位には嬉しかった。また、明日も連絡あるかな……。


「どうしたのじゃ。ハヅキ」


 タオが、葉月の隣に座った。皆が、恋しているなんて言うから妙に意識してしまう。平常心、平常心……。顔が赤くなっているかもしれない。中学生みたいだなーなんて、自分が可笑しくて思わずニヤニヤしてしまう。


「うん。姫がね、日本の妹と連絡取れるようにしてくれたんだって。それでね、久しぶりに家族の顔見て友達の顔見て、お喋りして嬉しかったの。あ、話してるの、もしかしてうるさかった? 」


「いや。二ホンから連絡取れたのか? 楽しそうに話していたから、いや、聞き耳を立ててたわけじゃないのじゃが、聞こえてきたのじゃ」


「え、なんか、変な事言ってたかな? 」


「……スキンヘッドがセクシーだとか、タオは優しいとか、これは恋なの……とかじゃ」


「ぎゃっ! なにそれっ! 気にしないで! じょ、冗談で皆が言っているだけだから。ほら、私、タオにすごく感謝してるから、それを表現したら、なんか私がタオの事好きって勘違いしちゃってー」


 タオの深緑の瞳が葉月を見つめている。ドキドキしていると、あまり厚くも無い胸筋に顔を押し付けられた。ふわりとタオの男性的な体臭が葉月の鼻腔をくすぐる。


「ごめんな。ハヅキの気持ちには答えられないのじゃ。ペーンとハーンがいた時は、ワシがハヅキを篭絡(ろうらく)して治癒魔法を使ってくれたら良いなんて思っていたのじゃが、ハヅキはそんな卑怯な手を使わなくても、二人を治療してくれたし、最期まで看取ってくれたし、今だって孫たちの世話を一生懸命やってくれておる。そんな、ハヅキに嘘はつけんのじゃ。ワシは一生、ハヅキを愛することはできないのじゃ」


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