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38.ビデオ通話

 全員、ずっと詰めていた息を吐く。


「息長足姫様を見た! 動いていた! 話していた! うおおおおおお! 夢じゃないのか?」


 皆はそっちかよと突っ込みたかったが、恵一郎に言うと何倍にもなって返ってきそうで言えないでいた。


「ねえ、早く葉月に連絡してみようよ。ビデオ通話みたいなもんでしょ? 」


 晴の言葉で、皆は手鏡を持った弥生の後ろに立ち、固唾(かたず)を呑んで見守っている。


「葉月、葉月。弥生だよ。皆、一緒にいるよ。息長足姫様に頼んで、お話しできるようにしてもらったよ! 」 

ガサゴソと雑音がして、手鏡から明かりが溢れる。ひょこっとたれ目がちのしもぶくれ顔が見えた。


「弥生? 弥生なの? 姫、ありがとう! やったー! 」

 

 弾ける様な葉月の声が聴こえた。葉月に辿り着くまで約2ヶ月近くかかってしまった。お蔵に集まった皆が弥生の手鏡を覗き込むものだから、密度が凄い。


「……葉月、元気?」


 何かもっと言いたいことはあったが、第一声はやはり体調を気遣う質問だった。誰も知り合いも居ない、異世界に行ったのだ。どんな鈍い葉月だって、心細かったりして、眠れない夜を過ごしているはずだ。


「弥生は。なんか、すごくやつれて痩せてしもうとらん。私のせいだよね。ごめんなさい。心配かけちゃったかな」


 エヘヘと笑い、眉がへニャリと下がる。葉月は大分体重が落ちた様だ。体重が二桁台になったのはしばらくぶりではないか。だが顔色も良く、声に張りもある。手鏡を覗き込んでいる皆は安堵した。そんな時、弥生の頭上から雷が落ちる。


「バカタレが! 何しようとか! 皆に、こがん迷惑ば掛けとって、その態度はなんか! どんだけ、心配ばしたと思うとっとか! 」


「あっ! その声は恵兄ちゃん。ごめんなさい。ごめんなさい。ゲンコツは止めて! 暴力反対!! 」


 とっさに片手で頭を押さえながら謝罪の言葉を言う。もう、これは小さい頃から刷り込まれた条件反射と言ってもいいだろう。弥生の上の保護者の元締が恵一郎なのだ。葉月からは手鏡の中の弥生の横に少しだけ見えている恵一郎だが「ゴゴゴゴゴ」と効果音が付きそうな圧が凄い。


「もう四十三にもなっとって、この後どがんなるか考えんやったとか? いつも考え無しに行動すっけん取り返しのつかんことになるとばい。 息長足姫様に異世界に行ってしまって帰ってこれんて聞いたばい。大丈夫とや? 飯は食べよるとか? どがんやって生活ばしよっとか? 」


 恵一郎の厳しい言葉や態度の裏に、人一倍愛情深さがあるのは葉月も弥生も知っている。意外にもおかん属性で、心配症で世話焼きでもある。


「あのね、亀獣人の奴隷商人に拾うてもろうて、一緒に住んどると。家事とか、育児ばしよるよ。メイドさん、みたいな感じ?」


「えぇー? 獣人? 本当におると? 猫とか犬の獣人さんもおった? モフモフした? 」


「モフモフ!! 」


 蘭と晴の食い付きが凄い。何気に晃や賢哉も目を輝かせている。


「ウチにさ、コツメカワウソ獣人の双子がおってね、耳とかシッポがさ、モフモフと言うより、最高級ビロードの触り心地なのよー! 」  


「ちょっとまたんか! 重要な情報ば聴き逃しとるばい」


「え、なに? 亀の獣人さんに拾ってもらったんでしょ? 優しい人で良かったね! 」


「いやいやいやいや! 奴隷商人て言いよったろうが!! 」


「うん、奴隷商人。でも、もうやめるって。もう、奴隷は店にいないとよ。私は半日位奴隷やったとけど、その亀獣人、タオっていう人なんだけど、買い上げてくれて、役所で手続きして今は自由民ていうの? 普通の人になったとよ」


「ギリシャの奴隷制度に似とる? あ、葉月に聞いても分からんか。葉月はそん人の愛人とか(めかけ)になったと? 」


 手鏡の中の葉月は目を泳がせ、慌てて否定する。


「そがんこと、あるわけ無かろうもん! わたし、こっちだと死にかけの老女になるとよ。平均寿命が四十歳なんだって。もう、ばあちゃんさ。だけん、孫ば五人も育てよっと」


「孫?そのタオさんの孫? 」


「違うよ。親友のご夫婦から託されたコツメカワウソ獣人の双子と、スラム街から拾った子と、親に物乞いさせられてた姉弟の五人。スラム街の子と姉弟は元奴隷だけど、私と一緒に自由民にしてくれたとよね。タオはものすごーく優しかっちゃん」


「葉月。あんたは惚れっぽいんだから気を付けんと! 何回も結婚詐欺やらデート商法やらロマンス詐欺にあっとるとやけんね! とりあえず、タオさんのスペック教えて! 」


「蘭! こがん時にふざけるな! 」


「何ね。恵一郎は相変わらず堅かねー。ばってん、気になるやろうが」


「だよね。聞きたかよね? 今回はコイバナじゃないから盛り上がらんけど、異世界人のスペック聞いちゃう? 」


「「「「うん、うん。聞いちゃう! 」」」」


 女子達の話はうるさい。晃も長年女系家族に囲まれ女子に思考が似ているのか一緒にワクワクしている。恵一郎と賢哉は後ろに控え、話だけ聞くことにした。


「あのねー、タオは独身、三十九歳。結婚はしたことないみたい。身長は、うーん百七十八センチメートル位かな?私よりちょっとだけ目線が上なんよね。体重は、多分七十キログラム位かな。腹筋は張りはあって、薄っすら筋肉がついてるくらい。元冒険者だから細マッチョ位いくかなーと思ってたけど、眼福とまではいかんかな」


「あはは。そいば、葉月が言う? その腹じゃ誰にも何も言えないよー! 」


「あ、蘭。そいは違うよ。葉月はね、奇跡のキューピー体形とよ。四十過ぎると、背中とかお腹とかたるむやろ。そいが、つるーんばいーんてしとると。ある意味葉月の裸は眼福! 」


「ママ、うるさい。続きが聞きたい。そいで、タオさんのお顔は? 」


「うん、来ると思った。亀獣人でね、スキンヘッドで、深緑と金色をミックスしたような口髭と顎髭があってー、ちょっとスケベな感じ」


「え、あんまり素敵に思えんとけど……」


「じゃあ、具体的に言うと、深い深い緑の最高級エメラルドの様な瞳。顎がしっかりしていて首が太くてガッシリしてるの。もみあげから顎にかけて口の周りを髭で囲んだラウンド髭は他の髭を凌駕(りょうが)するダンディーさ!外人さんだからさ、頭の形が綺麗でスキンヘッドがセクシーなのよねー! 」


 女性陣から「キャー!! 」と黄色い声が上がる。


「まだ三十八歳だけど、戦争があったりしているからか、すごーく落ち着いていてるとさ。包容力がある感じ? でさー、なんか時々寂しげーな感じで(たたず)んでてさ、なんか支えてあげんといかんかなーて」


「「「「……」」」」


「そいでさ、元々有名な冒険者やっとたけど、お家の奴隷商を引き継ぐためにやめて帰ってきたりさ、友達の宿を買い上げてあげる優しさと、経済力があるとよ! 私のお金目的で湧いてきたクズとは違うとさー。やっぱ、この年になったらある程度の経済力も考えるよねー」


「「「「……」」」」


 女性陣からの視線で恵一郎が代表で尋ねる。


「葉月は、そのタオさんば好いとるとか? 付き合っとらんなら、男女の関係はあるとか? 」


「ぎゃー! 恵兄ちゃん! そがんことあるわけ無かたい! 」


「そいばってん、葉月の言いよる事、全部『恋バナ』に聞こゆっとけど? 」


 手鏡の中に見える皆はうんうんと頷いている。



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