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19.ワシ、獣人の国でじぃじになるのか?

 ドウの黒目がちな目元に涙が溜まっている。


「ドウ。大丈夫よ。姉ちゃんがドウをどこかにやってしまう訳無いじゃん。ずっと一緒だから大丈夫よ」


 シリはドウを(なだ)めつつも不安げな視線をタオに向けている。タオは目線をウロウロと漂わせ、口をアワアワさせて、明らかに動揺している。もしかして、思い付きなのか? そうなのか? 皆を自由民にした後を考えてなかったとか?


 葉月の事だって、ペーンとハーンを看取った後、キックとノーイのお世話をして、私と一緒に年取って……後、どうするつもりだたのだろう。万が一、私がタオを看取るほうになったら? この知り合いもいない土地で私、孤独死するのだろうか。


「あの。タオ様、んーもうタオで良いよね。私、五歳も年上だし、敬語じゃなくても良いよね。子ども達も言ってないし。私、まだ奴隷だけどもうすぐ自由民だから、言わせてもらうね。


 あのさ、奴隷にとって『自由民』になるってすごく変化する事だと思う訳なのよね。タオだって、大金払うんでしょ。じゃあ、よーく考えたんだよね。貴方の所有物である奴隷の行く末をよーーく考えたから『自由民にする』この結果になったのよね」


 葉月はすごむ。怒っているときは興奮しているからか、普段より早口になるし、大きな声になる。葉月は怒っている時だけ弥生に似ていて姉妹だと感じると言われていた。


 四人が目を丸くして急いで葉月を通りの横に引っ張っていく。その間も、葉月はタオから目を離さない。普段は眠たげな優しいと言われる目元が三角形になっているのが自分でもわかる。

 

 葉月の公開説教は道行く人々も興味津々で、足を止めて聞き耳を立てる人も出てきたが、例のごとく興奮中の葉月は止まらない。「夫婦喧嘩か」とヒソヒソとささやかれている。


「タオ。貴方がお金持ちだからって、ずっと子ども達を飼い殺しにする訳? 子ども達を手元に置いておきたいのはよくわかる。私、まだ一日しか一緒にいないけど、とってもいい子たちなんだもん。もう半年以上一緒に住んでいるんでしょう。大切でカワイイかけがえのない存在なんでしょ。でもね、自由民にした後、自立させないと成長できないし、貴方が死んだ後、どうやって生きていくの? そこまで考えてたの? 『自由民にしたのじゃ! 』『達者で暮らすのじゃ! 』じゃないんだからね」 


「なんかすごくバカにされた気持ちになったのはなんでじゃ。じゃが、本当に皆にすまん事をしたのじゃ。もっと話し合っていたら良かったのじゃが、凄く良い事に思えて『どうせ葉月を自由民にするんじゃから、みんなまとめて自由民にしたら喜ぶじゃろうなぁー』と、あんまり先の事を考えていなかったのじゃ。すまんかったの。考え無しじゃった」


 タオはシュンとして葉月を上目遣いで見てくる。スキンヘッドの困り顔……ちょっとだけカワイイ……。


 子ども達は葉月の剣幕を見てタオに同情的だ。子ども達の意見も大切にしたい。きっと昨日の突然のタオの「みんな自由民宣言」で行く末を不安に感じていたに違いない。葉月は身寄りのない子ども達を思い、胸が締め付けられるようだった。


「みんな、おいで」


 街道の片隅で、両手を広げて子ども達にハグをする。若干体を離し気味のカインを離さないと腕をつかみ、三人をヒシッとまとめて抱きしめる。


「みんな、不安だったよね。ドウは自分の気持ちをタオじいちゃんに、ちゃんと言えて偉かったね。そうだよね、シリやドウが私みたいに能力がないからって後で放り出されたら嫌だもんねー? それなら自分がやりたい仕事を少しづつ頑張って、魔法がなくても生活できるようになっていたほうが安心だよね? ねえ、みんな自由民になったら自分のお仕事何をやってみたい? 」


「私、お金持ちのお家の女中さんになりたい。お掃除やお洗濯も上手にできるし、人のお世話をするのが大好きだから」

 

「そうでしょう、そうでしょう。シリは私と違ってマルチタスクが得意そうだもの。ピッタリだと思うよ」


「俺は、俺は、ねーちゃんと一緒のお屋敷にお勤めしたい。なんでも頑張るもん。あ、ねーちゃんの料理手伝って褒められたから、料理人の見習いになりたい……かな」


「まあ、ドウ。十歳なのにお姉ちゃんと一緒にお勤めできて、自分にできることを考えたのね。すごい」


「俺は、今、商店を手伝っているから、どこかの商会に入りたいかな。魔法もスキルも無いけど、計算や記録は得意だ。バンジュートの字をもっと早く正確に書けるようになりたい。今は小さい商会でも、その商会が大きくなるのに貢献出来たら……嬉しいと思う……」


「やっぱりカインはお兄さんね。具体的な自分の目標もあるし、将来自分がどのように勤め先で働きたいかを考えることが出来てる。心配はないわね」


 葉月はタオにドヤ顔で鼻息荒く向き直った。


「ね、タオじいちゃんの子ども達は凄いんだよ。だから心配しないで、私達は帰って来る港になってあげたら良いんだよ。そしてたまに傷を修理したり、満タンに栄養補給しに立ち寄る港になってあげようよ」


 何故か、周りには人集(ひとだか)りができて、拍手が起きている。何だ何だと後から覗き込む人達に親切な人が伝えている。「再婚した夫婦の喧嘩だ。夫の連れ子を自立させて欲しいと説得中らしい」と微妙な実況中継をする始末。


「カイン、シリ、ドウ。あなたたち、タオの事どう思ってんの」

 

「タオのじいさんは俺の恩人だよ。だからずっと俺のじいさんでいてほしい……」 


「あー、カインばっかりズルい!! 俺だってタオじいちゃんが良い!! 」


「私も!! 物乞いしていた私とドウを買い上げてくれたあの日から、ずっと思ってたんだ。私達、タオじいちゃんの孫になれないかな? 」


「……お前達は! 」  


 タオは男泣きをして、子ども達を私ごと抱きしめる。拍手喝采がおきる。野次馬にも涙する者もいた。


「タオの店」を出て、すでに一時間。今日中に皆は自由民になり、タオは三人の祖父になれるのか?

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