プロローグ 燃ゆる王宮
燃え盛る炎。豪華絢爛な調度品が、煙と瓦礫に埋もれていく。
私、アルフォンジーヌ・エヴィ・フォン・アルタリアは、革命真っ最中の王宮にいた。
目の前には、息を切らした母の姿。そして、背後には王族のみぞ知る、王宮の外への秘密通路があった。
「ここから出ていくのよ、エヴィ。
森を抜けて、孤児院に向かいなさい。いつも食べ物を贈りに行っていたから、分かるわね?」
「いやです、おかあさま!私、おかあさまが一緒でないと…。」
「アルフォンジーヌ・エヴィ・フォン・アルタリア!」
泣きながら駄々をこね続ける私に、母は必死の形相で呼びかける。
「言うことを聞きなさい!あなたは王族です。みっともない姿をさらすことは許しませんよ。
…アルタリアの王族は、最早あなただけなのです。生きて、生き残って…いつか、アルタリアを取り戻すのですよ。私達の、アルタリアを。」
さあ、早く。
母の言葉は絶対だ。逆らうことなど許されるはずはない。そして、母は一度決めた事は絶対に曲げないお方だった。私はそれを知っていた。
促されるまま、私は隠し通路に入る。
「お母様、私…」
「あぁっ!エヴィ。私の愛しいエヴィ…」
私が足を踏み出しきれずに振り返ると、母は私を、苦しいほどの力で抱きしめた。
「愛しています。どうか、この母を赦して。あなたを一人にしてしまう、この母を…」
私は母を抱きしめかえし、みっともなく涙を流し続ける。ここを出たら、もう二度と流すまいと誓いながら。
その時、扉を蹴破ろうとする音が聞こえた。群衆の雄叫びも、ますます近づいているようだった。
「さあ、行きなさい。」
そう言い、母は私が頷くのも待たずに、隠し扉を閉じた。
「いたぞ!皇后だ!」
「俺達から巻き上げた税で贅沢三昧だった皇后だ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
扉の向こう側から聞こえる、憎悪にまみれた群衆の声に思わず慄く。
王族は、なぜここまで民に恨まれなければいけないのだろうか?私達が、一体何をしたというのだ。
お父様もお母様も、いつだって民たちのことを思われていらっしゃったというのに…!!
「…あなた達は、王族を殺せば自由になれるとでもお思いなのですか?
次代の統治者が、本当にあなた達の為だけに政治をし、決して私服を肥やそうとしないと?」
「黙れ!ディートリヒ様のおっしゃった通り、王族というのは随分弁が立つらしい。
お前ら、惑わされるな!この化け物に洗脳される前に、早く殺すんだ!」
「あなた達はいつもそうです。
真実を見極めようとせず、声の大きいものに、力の大きいものに追従する。弁の立つものの意見を、さも自分で考えたかのように話す。抵抗のできない紳士な相手を、野蛮な方法で追い詰める…。
愚かだとは思わないのですか?」
「思わないね。ディートリヒ様はいつだって俺達の事を考えて行動してくれる。お前ら王族と一緒にするな!やあああああっ!」
民たちの雄叫びと共に、母のうめき声がはっきりと聞こえ、扉に振動が伝わる。おそらくこちらへ倒れ込んだのだろう。…隠し扉が見つからないように。
「皇后をやったぞ!ディートリヒ様に伝えろ、王族は全滅したと!ディートリヒ様の時代が始まると!!」
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